
アイシン精機グループ:持続可能な成長戦略
文書情報
会社 | アイシン精機株式会社 |
文書タイプ | 企業報告書 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 13.71 MB |
概要
I.アイシン精機グループの事業概要と戦略
アイシン精機株式会社(AISIN)は、19ヵ国160社、約73,500人の従業員を擁するグローバル企業です。自動車部品事業が中心で、オートマチックトランスミッション(AT)、マニュアルトランスミッション(MT)、カーナビゲーションシステムなどが主力製品です。世界トップクラスのシェアを誇るこれらのドライブトレイン関連製品に加え、ブレーキシステム、ボディ関連部品なども製造しています。近年は、省エネルギー、環境保全、安全を重視し、ハイブリッドトランスミッション等の開発にも力を入れています。また、ガスヒートポンプエアコン(GHP)やシャワートイレなどの住生活関連機器事業も展開し、売上高は2008年3月期に過去最高の2兆7,004億円を記録しました。中国、インド、ブラジル等の新興国市場にも注力しています。
1. アイシン精機グループの事業規模とグローバル展開
アイシン精機グループは、日本を含む19カ国に160社を展開する巨大企業グループであり、約73,500人の従業員を擁しています。この規模とグローバルな展開は、世界的な自動車部品サプライヤーとしての地位を確立する上で重要な要素となっています。グループ全体の総力を結集し、顧客ニーズに沿った高品質な製品づくりに全力を注ぎ、ワールドワイドサプライヤーを目指しています。このグローバル展開は、新興国市場における需要の高まりを捉え、中国での生産・販売体制の拡充やタイ、チェコでの生産能力増強といった具体的な施策にも表れています。これらの積極的な海外展開は、事業の拡大と収益の向上に大きく貢献しており、グループ全体の成長を牽引する原動力となっています。特に、中国、インド、ロシアといった新興国市場の急成長を背景に、これらの地域における事業展開は今後ますます重要性を増していくと予想されます。
2. 主力製品と市場シェア
アイシン精機グループの事業の中核をなすのは自動車部品事業です。その中でも、オートマチックトランスミッション(AT)とマニュアルトランスミッション(MT)は主力製品であり、世界トップクラスのシェアを誇ります。AT分野では、世界初の後輪駆動車用8速ATやFR2モーターハイブリッドトランスミッションの開発・量産化に成功し、レクサス車への搭載実績も上げています。MT分野でも、高容量前輪駆動車用6速MTなど、顧客ニーズに合わせた製品開発を行い、市場での競争優位性を築いています。さらに、カーナビゲーションシステムやパワースライドドアシステムなど、多様な製品を展開し、幅広い顧客層を獲得しています。これらの製品は、自動車メーカーからの高い評価を得ており、グループ全体の売上高に大きく貢献しています。2008年3月時点での乗用車用ATの顧客数は41社に上り、MTについても顧客数を着実に増やしています。
3. 住生活関連機器事業
自動車部品事業に加え、アイシン精機グループは住生活関連機器事業も展開しています。省エネルギーに貢献するガスヒートポンプエアコン(GHP)やシャワートイレなどの製品は、環境問題の進展や社会の高齢化といった社会情勢の変化に対応したものであり、省エネルギーや健康で快適な暮らしに対するニーズに応える価値ある商品として注目を集めています。これらの製品は、市場での拡販に成功しており、売上高も前年度比で大幅に増加しています。具体的には、GHPやシャワートイレの拡販により、住生活関連機器事業の売上高は前年度の997億円から12.0%増の1,118億円に達しています。 この事業分野は、自動車事業とは異なる市場特性を持つため、グループ全体の事業ポートフォリオの多様化にも貢献しています。そして、環境問題への意識の高まりを受け、省エネルギー性能の高い製品開発は今後ますます重要となるでしょう。
4. 技術開発戦略 システムインテグレーションと顧客ニーズへの対応
アイシン精機グループは、個々の製品・技術の深耕に加え、複数の製品・技術を高次元に統合するシステムインテグレーターとしての能力向上に注力しています。近年、顧客ニーズは高度化・多様化しており、情報化・エレクトロニクス化の推進、安全性向上、環境保護、各地域の市場特性への適合、開発スピードの向上などが求められています。これらのニーズに対応するため、グループ各社が持つ多様な製品と技術を組み合わせ、付加価値の高いシステム商品を開発することが有効な戦略となっています。例えば、次世代パワートレインシステム、運転支援システム、走行系統合制御システム、サステイナブル・エネルギーシステムなどは、グループ各社の技術を統合することで、高機能・低コスト・迅速な開発を実現しています。このシステムインテグレーション戦略は、競争激化が予想される自動車部品市場において、アイシン精機グループの競争優位性を維持・向上させる上で重要な役割を果たしています。
5. 経営理念と企業文化 自主自立と連携 結束
アイシン精機グループは、「品質至上」、「新しい価値の創造」、「国際協調と競争の中での着実な成長」、「社会・自然との共生」、「個人の創造性・自発性の尊重」という経営理念を掲げ、持続可能な社会の構築に貢献することを目指しています。これまでグループ内各社の「自主自立」を重視してきた経営スタイルは、各社の専門性を高め、独自の技術力を磨く上で有効でした。しかし、グローバルな開発競争が激化している現状を踏まえ、今後は各社の力を連携・結束させ、グループ全体のポテンシャルを最大限に発揮することが重要となっています。これは、高付加価値なシステム商品開発においても不可欠な要素であり、グループ全体の戦略的な連携強化が今後の成長を左右すると考えられます。2007年3月には、こうした企業活動を支える従業員一人ひとりの行動指針として『アイシンウェイ』を制定し、企業理念の共有を図っています。
II.年度の見通しと経営戦略
2008年度(2009年3月期)は、世界経済の不安定要素(原油価格高騰、金融市場の変調など)を考慮し、連結売上高は前年度並みの2兆6,900億円を見込んでいます。しかし、収益環境の悪化により減益を予想しています。それでも、将来の成長に向けた先行投資を継続し、ROI(投下資本利益率)15%を目指した収益構造の構築に努めていきます。サステナビリティを重視し、CO2排出量削減、環境負荷物質削減などの取り組みを強化します。また、配当水準の安定的向上と資本効率の向上も目指します。
1. 2008年度の売上高見込みと減益予想
2008年度(2009年3月期)の連結売上高は、前年度並みの2兆6,900億円を見込んでいます。しかし、円高、原油・原材料費の高騰、売上の伸び悩みといった厳しい収益環境を背景に、営業利益は前年度比約25.8%減の1,340億円、経常利益は前年度比約23.2%減の1,430億円、純利益は前年度比23.6%減の700億円と、大幅な減益を予想しています。これは、主要市場である日本や北米での景気と市場の動向が不透明であること、原油・原材料費の上昇、金融市場の変調、急激な為替変動、グローバル競争の激化といった世界経済の不安定要素が大きく影響しているためです。厳しい経営環境下ではありますが、さらなる成長のための先行投資を継続し、収益構造の強化に努めていく方針を示しています。
2. 収益改善に向けた戦略 先行投資とROI重視
厳しい経営環境下にあっても、アイシン精機グループはさらなる成長のための先行投資を継続していくことを重視しています。ダイキャストやトランスミッション、ブレーキといった有望分野への投資、海外事業への投資、そして将来の成長を担う研究開発への投資などを継続することで、盤石な収益構造の構築を目指します。投資効率の向上を図るため、従来のROE(自己資本当期純利益率)に加え、ROI(投下資本利益率)を重視し、ROI15%を目標に掲げています。これは、大型投資による市場ニーズの先取りや、ブレーキ事業における製造部門の統合による生産効率化など、具体的な施策を通して実現していく計画です。これらの投資戦略は、短期的な利益よりも、長期的な企業価値の向上と持続的な成長を重視する姿勢を示しています。
3. 配当と資本効率の向上
2008年度の見通しにおいて、アイシン精機グループは、将来の株主利益を確保するため、配当水準の安定的向上と先行投資のバランスを重視すると明言しています。これは、企業の成長と株主への還元の両立を目指す姿勢を示しています。また、業績やキャッシュフロー水準を勘案しながら、自己株式を取得し、資本効率の向上も目指しています。定款において取締役会決議による剰余金の配当などを可能とする規定を設けていることからも、株主還元への積極的な姿勢が伺えます。これらの財務戦略は、安定的な経営基盤を構築し、持続的な成長を遂げるための重要な要素となっています。
III.技術開発と今後の展望
アイシンは、自動車の環境性能、安全性能、快適性向上のための技術開発に注力しています。次世代技術開発プロジェクトとして、グループ6社の若手技術者による「アイシングループR&Dワーキンググループ」を設立し、従来の枠組みにとらわれない革新的な技術開発を進めています。特に、高度化・多様化する顧客ニーズに対応するため、複数の製品・技術を統合した高付加価値なシステム商品の開発に注力し、環境に配慮した製品開発を進めています。具体的には、次世代パワートレインシステム、運転支援システムなどが挙げられます。また、地図差分更新システムやドライバーモニターシステムといった先進的な技術も開発しています。
1. 高度化 多様化する顧客ニーズへの対応
近年、自動車業界における製品・技術に対する顧客ニーズは、ますます高度化・多様化しています。情報化・エレクトロニクス化の進展、安全性向上、環境保護への意識の高まり、そして世界各地域の市場特性への適合など、多角的な視点からの要求が強まっています。さらに、開発スピードの向上も強く求められています。こうした変化の激しい市場環境において、アイシン精機グループが持つ多様な製品と技術は、大きな強みとなります。特に、付加価値の高いシステム商品の開発においては、グループ各社が保有する多様な製品・技術を組み合わせることが、競争優位性を築く上で極めて有効な戦略となります。
2. システムインテグレーターとしての強化と新製品開発
アイシン精機グループは、個々の製品・技術の深耕を続けながら、複数の製品・技術を高次元に統合するシステムインテグレーターとしての能力強化に注力しています。「安全」「環境」「快適」を追求した独創的なシステム商品開発に重点を置いており、次世代パワートレインシステム、運転支援システム、走行系統合制御システム、サステイナブル・エネルギーシステムなどがその具体例です。これらは、グループ各社がこれまで培ってきた製品・技術を組み合わせることで、高機能化、低コスト化、迅速な開発を実現しています。この戦略は、単一の製品を提供するよりも、より高度で複雑なシステムソリューションを提供することで、顧客の多様なニーズに効果的に対応することを目指しています。
3. 先進技術の開発事例 カーナビゲーションシステムとドライバーモニターシステム
具体的な技術開発の事例として、カーナビゲーションシステム用のマップオンデマンド機能(最新の地図情報を携帯電話などを通じて更新)や、一時停止が必要な交差点での停止を画面表示と音声で案内する機能などが挙げられます。さらに、わき見運転や居眠り運転を警告するドライバーモニターシステムに、世界初のまぶた開度検出機能を追加するなど、安全運転支援技術の開発にも積極的に取り組んでいます。これらの技術は、トヨタ純正カーナビゲーションシステムなどに採用されており、市場での高い評価を得ています。これらの開発は、単なる機能の追加にとどまらず、ドライバーの安全と快適性を向上させるという、顧客ニーズの根源的な課題解決を目指している点が注目されます。
4. 環境負荷低減に向けた技術開発
環境問題への対応として、アイシン精機グループは製品開発段階から地球環境保全に配慮した取り組みを行っています。自動車の燃費向上や軽量化、製品に含まれる環境負荷物質の低減に向けた技術開発に力を注いでおり、低温短時間硬化型シーラーの開発はその一例です。これはシーリング材の焼き付け時間を短縮することでシーリング性能を向上させ、自動車の省エネ・CO2削減に貢献するものです。開発・生産における環境負荷の低減に加え、未来の地球環境に貢献する活動にも積極的に取り組んでおり、環境学習施設「アイシンエコトピア」の開設はその象徴的な取り組みと言えるでしょう。CO2排出量の削減目標設定や、従業員による自然・環境保護活動への積極的な参加促進も、環境保全への強い意志を示しています。
IV.社会貢献と企業倫理
アイシン精機は、社会との共生を経営理念の一つとして掲げ、積極的に社会的責任を果たしています。コンプライアンスの徹底、コーポレートガバナンスの強化、迅速かつ適切な情報開示に努めています。2007年3月には、企業理念を明確化した「アイシンウェイ」を制定し、社会貢献活動として、環境教育施設「アイシンエコトピア」を開設しました。従業員のワークライフバランス実現のため、企業内託児所「AIマミーズサポート」も開設しています。また、障がい者雇用の推進や、危機管理体制の強化にも取り組んでいます。
1. コンプライアンスとコーポレートガバナンスの強化
アイシン精機グループは、企業活動における社会的責任を果たすことを経営の基本姿勢としており、その基盤としてコンプライアンスの徹底とコーポレートガバナンスの強化に力を入れています。コンプライアンス体制の整備として、企業行動倫理委員会、全社環境委員会、中央安全衛生委員会などの各種委員会を設置し、社内モニタリングを行い、取締役会などに報告することで、継続的な改善に努めています。また、企業行動倫理相談窓口を社内と社外の2ヶ所に設置し、従業員だけでなく、その家族や取引先からも相談を受け付けています。通報・相談の内容は厳重に秘密として扱われるため、安心して相談できる環境が整備されています。これらの取り組みは、健全で透明性の高い企業経営を実現し、国際社会からの信頼を確保するための重要な基盤となっています。さらに、危機管理委員会とコーポレート・リスクマネジメント室を設置し、事業継続性を確保するための体制も強化しています。
2. 環境への取り組み アイシンエコトピアと環境コミュニケーション
アイシン精機グループは、環境問題への取り組みを積極的に推進しています。2007年9月には、愛知県の半田工場内に環境学習施設「アイシンエコトピア」を開設しました。エコトープ、エコセンター、エコ農場、エコの森などから構成されるこの施設は、子供たちへの環境教育の場として、また、リサイクルや屋上緑化、太陽電池などの環境技術の実験場として活用されています。環境負荷低減に向けた取り組みとして、生産におけるCO2排出量削減、有害化学物質の根絶、廃棄物ゼロ化などを推進しています。また、環境コミュニケーション活動の一環として、地域の小中学校で環境学習プログラムを実施し、子供たちに環境保全の重要性を伝える活動も行っています。エコセンターでは、工場から排出される廃棄物の分別、破砕、有価物化を進め、排出量削減にも取り組んでいます。これらの活動は、環境負荷の低減だけでなく、社会全体における環境意識の向上にも貢献しています。
3. 地域社会への貢献と従業員への配慮
アイシン精機グループは、地域社会への貢献にも積極的に取り組んでいます。企業市民として地域に密着した社会貢献活動を行い、従業員のワークライフバランス実現のための取り組みとして、2007年10月には企業内託児所「AIマミーズサポート」を開設しました。この託児所は、正社員だけでなく、期間従業員、パートタイマー、派遣社員も利用でき、将来的には地域住民の子供たちの受け入れも検討しています。さらに、障がい者雇用にも力を入れており、「ノーマライゼーション・共生」の考え方をベースに、障がい者も健常者も共にいきいきと働ける職場づくりを目指しています。定期的な生活相談会や管理監督者研修会を実施し、障がい者に対する理解を深めるための支援体制も整備されています。これらの取り組みは、多様な働き方を選択できる環境を整備し、地域社会全体への貢献へと繋がるものです。
4. アイシンウェイとステークホルダーとの共生
アイシン精機グループは、2007年3月に「アイシンウェイ」を制定し、従業員一人ひとりが企業理念を共有し、責任ある行動を実践していくための指針としています。「社会のため、お客様のためを考える」「常に改善し続ける」「一人ひとりを大切にする」という3つの柱を掲げ、企業活動のあらゆる側面において、社会との共生を目指しています。グローバル企業として、世界19カ国160社、7万人を超える従業員を抱えるアイシン精機グループは、社会に与える影響も、社会から受ける影響も非常に大きくなっています。そのため、労働慣行、人権・多様性、製品責任などあらゆる側面において、ステークホルダーへの責任を果たすことが不可欠であり、従業員一人ひとりがその重要性を理解し、責任ある行動を常に心がけることが求められています。AIマミーズサポートの開設も、従業員とその家族、ひいては地域社会全体のダイバーシティとワークライフバランスの向上に貢献する取り組みとして位置付けられます。