HOKUGA: 消費者保護法規による意思表示法の実質化(2) : クーリング・オフを素材として

クーリングオフと消費者保護法

文書情報

著者

内山敏和

学校

北研

専攻 法学 (推定)
文書タイプ 論文 (推定)
言語 Japanese
フォーマット | PDF
サイズ 1.01 MB

概要

I.撤回権の法体系上の位置づけ The Position of the Right of Withdrawal in the Legal System

本節では、消費者保護の観点から、**撤回権(tekkaiken)**が日本の契約法、民法、そして意思表示法においてどのように位置づけられるかを論じています。特に、**クーリング・オフ(kuuringu ofu)**制度との関連性についても考察しています。**契約自由(keiyaku jiyuu)とのバランス、および私的自治(shiteki jichi)**への影響についても検討されています。

1. 撤回権の定義と目的

この小節では、撤回権の法的定義と、その制度の目的が詳細に検討されています。撤回権が採用している法技術が民法典で受容可能かどうかという問題と、撤回権の目的との関係を区別する必要性が強調されています。特に、市場メカニズムを前提とした市場補完的な消費者保護との関連性や、従来の私法理論が軽視してきた実質的な契約自由の重要性が浮き彫りにされています。強者の権利のみが貫徹され、契約自由が経済力によって他者決定のための道具に変質する危険性も指摘されており、消費者にとって不利な状況において、事実上事業者に与えられていたのと同様の程度まで法的自由を行使できる状態にすることの重要性が述べられています。形式的な私的自治の承認や競争の確保だけでは、経済主体の実質的な契約自由が害される可能性があること、そして設定的な消費者法だけでは不十分である可能性も示唆されています。

2. 撤回権と民法 意思表示法との関係

本小節では、撤回権が民法および意思表示法とどのように関連しているかを分析しています。特に、比例原則という考え方や、その中で撤回権の位置づけを論じる点が、撤回権の意味と限界を考察する上で有益な視点を提供すると述べられています。特定の状況において消費者の実質的な決定自由が保障されない場合に、形式的な自由および正当性からの修正を可能とするための制度であることが説明されています。消費者が延長された熟慮期間がなければ、問題とされている契約締結の方法や契約類型に対応できない状態にあることを前提としています。また、特定の状況下では、形式的な自由の行使から契約の拘束力を導き出すことは望ましくないという法秩序の評価が示されています。消費者保護法規の適用除外における指標の一つとして消費者性に着目した表現に過ぎず、消費者保護法規の存在を前提とした民法の法律行為法の理論的再編が必要であると指摘されています。自己決定への影響の仕方に様々な態様があり得ること、それぞれの撤回類型はその点で異なる保護目的を有していることも述べられています。

3. 撤回権の適用範囲と限界に関する考察

この小節では、撤回権の適用範囲と限界について、より具体的な議論が展開されています。訪問販売取引における消費者は契約締結について十分に熟慮する機会を有していないという点や、不意打ちによる他の商品または役務との比較可能性の欠如、不意打ちによって生じる心理的圧迫を主として考慮する考え方との区別可能性が示唆されています。消費者は自身の経済的状態を現実的に評価し、今行おうとしている決定が将来もたらす事情について考慮に入れる能力に乏しいことがある点、契約対象の広範な無体性や契約の履行は受講に必要な適正および受講者の協力がなければ経済的に無価値となる点などが、撤回権の適用を考える上で重要な要素として挙げられています。さらに、当該契約が保護される当事者にとって少なからぬ経済的重みを持っていることも重要な要素です。割賦販売法や営業法(GewO)の規定、判例なども参照しながら、撤回権による保護が契約締結上の過失法理を用いた解決の発展の途を阻害しているという法的事実的な影響や、事業者の帰責可能性が否定されるケースについても考察が行われています。消費者信用契約における撤回権に関しては、過剰債務の状態は殆ど撤回期間を過ぎて初めて気づくことから、消費者信用法における撤回権のあり方が問題視されています。不意打ち状況と契約締結との間の因果関係が要求されている一方、消費者信用においては特定の契約類型による契約締結が撤回権という効果にそのまま直結しているという点も分析されています。訪問販売法における撤回権が独立した事業の従事者には適用されない点についても言及があります。

II.議論の分析 Analysis of the Argument

この節では、撤回権(tekkaiken)に関する既存の議論を分析し、消費者事業者間の力関係の不均衡、および不意打ち(fuiuchi)状況における消費者保護の必要性を検討しています。**ドイツ民法(BGB)**における関連規定や判例も参照しながら、撤回権の適用範囲と限界について考察しています。

1. 消費者と事業者の力関係の不均衡

この小節では、撤回権の議論において中心的な位置を占める、消費者と事業者間の力関係の不均衡が分析されています。原理的な力の格差が存在する場合、民事法の基本的構想は異なる価値を得、その相対化がもたらされると指摘されています。市場メカニズムを前提とした消費者保護のあり方が議論され、従来の私法理論が軽視してきた実質的な契約自由の重要性が改めて強調されています。特に、強者の権利のみが貫徹され、経済力によって契約自由が他者決定のための道具に変質してしまう危険性が指摘されており、消費者が不利な状況でも自身の法的自由を十分に行使できるような制度設計の必要性が訴えられています。 形式的な私的自治や競争の確保だけでは不十分であり、実質的な契約自由の保障が不可欠であるという主張が展開されています。 また、この力関係の不均衡は、消費者が契約内容を十分に理解し、熟慮した上で契約を締結できない状況を生み出す要因であると分析されています。

2. 不意打ち状況と撤回権

本小節では、「不意打ち」状況下における契約締結と撤回権の関係が分析されています。不意打ちによって生じる心理的圧迫や、他の商品・役務との比較可能性の欠如といった点が、消費者の実質的な意思決定の自由を阻害する要因として指摘されています。消費者が自身の経済状況や将来的な影響を十分に考慮できない状態での契約締結は、撤回権の行使を正当化する根拠として捉えられています。 また、この不意打ち状況を客観的に判断するための基準や、撤回権の行使を容易にするための制度設計についても検討されています。 具体的には、消費者に法的な状況を知らせ、明確な撤回期間の開始時期を確定する仕組みの重要性が示唆されています。 さらに、撤回権の行使によって契約の拘束力を導き出すことが望ましくない状況も存在するという法秩序の評価が示されています。

3. 撤回権の法的正当性と限界

この小節では、撤回権の法的正当性とその限界について、様々な観点から分析が行われています。 撤回権が私的自治を過剰に制限する可能性や、市場経済に基づく自由主義的社会モデルとの整合性についても議論されています。 抽象的な危険に着目した消費者保護的な撤回権が、個別事例の状況に関わらず恣意的で一方的な契約の解消を可能とする場合のリスクも指摘されています。 契約解消においては相手方に一定の帰責原理が働く必要性を主張する一方で、消費者信用契約における撤回権の特殊性についても触れられています。特に、過剰債務の状態に気づくのが撤回期間後であることが多いという点を踏まえ、消費者信用法における撤回権のあり方が改めて検討されています。 また、ドイツ法(BGB)における撤回権に関する学説や判例を参照し、日本法への示唆が示されています。 具体的には、個別の事例における消費者の具体的な要保護性や教育の程度、取引経験などを考慮する点について否定的な立場が示されています。

III.撤回権と契約法の実質化 Substantiation of the Right of Withdrawal in Contract Law

本節は、撤回権(tekkaiken)契約法における実質的な意味合いを深掘りします。消費者信用(shouhisha shinyou)契約や訪問販売(houmon hanbai)における撤回権の運用、およびその法的効果について、具体的な事例を交えて分析しています。契約の拘束力帰責性、そして比例原則との関係も重要な論点です。

1. 撤回権と契約法における実質的効果

この小節では、撤回権が契約法においてどのような実質的な効果を持つのかを分析しています。契約の拘束力、特に消費者に不利な状況下における契約の拘束力のあり方が中心的な論点となっています。形式的な契約自由の尊重だけでは、経済的な力関係の不均衡を背景とした不公平な契約を是認してしまう可能性があるため、撤回権のような実質的な救済措置が必要であると主張されています。 また、比例原則の観点から撤回権の位置づけが検討され、特定の状況下においては、形式的な自由の行使から契約の拘束力を導き出すことは望ましくないという法秩序の評価が示されています。 消費者保護法規の適用除外における「消費者性」の役割や、消費者保護法規の存在を前提とした民法の法律行為法の理論的再編の必要性も指摘されています。 さらに、自己決定への影響の仕方の多様性や、それぞれの撤回類型が有する異なる保護目的についても言及があります。

2. 訪問販売 消費者信用契約における撤回権の適用

本小節では、訪問販売取引や消費者信用契約を例に、撤回権の具体的な適用状況が分析されています。訪問販売において消費者が十分な熟慮期間を有していない点を踏まえ、撤回権の必要性が強調されています。また、不意打ちによる心理的圧迫や、他の商品・役務との比較可能性の欠如といった問題点も取り上げられています。 消費者信用契約においては、過剰債務の状態に気づくのが撤回期間後であることが多い点を考慮し、撤回権の制度設計について検討が加えられています。 不意打ち状況と契約締結との因果関係の要件や、特定の契約類型と撤回権の直結といった特徴も分析されています。 さらに、独立した事業の従事者への撤回権の適用除外に関する議論や、信用受領による価値創造の可能性、撤回権のもつ諸刃の剣としての性格についても触れられています。

3. 撤回権制度設計における課題と改善点

この小節では、撤回権制度の設計における課題と、その改善点について考察されています。定型化された要件と短い契約解消期間によって問題に対応している現状を分析し、その定型化という手法の法体系上の位置づけについて検討しています。 また、撤回権の適用範囲の人的な限定や、民法とは異なる固有の原理による正当化についても論じられています。 さらに、個別事例における消費者の具体的な要保護性や教育の程度、取引経験などを考慮することの是非について、判例や学説を交えながら議論が展開されています。 ドイツ法(BGB)の規定や判例も参照しつつ、日本法における消費者保護のあり方について示唆が与えられています。 特に、撤回権が契約締結上の過失法理を用いた解決の発展を阻害する可能性についても言及されています。

IV.日本法への示唆 Implications for Japanese Law

最終章では、ドイツ法(特にBGB)における撤回権に関する議論を踏まえ、日本における消費者保護法制の改善策を提案しています。訪問販売法消費者信用法等の既存の法律の課題を指摘し、撤回権の制度設計における課題や改善点を探っています。消費者自己決定権の保護と**契約自由(keiyaku jiyuu)**の調和をどのように実現するかという点が、本節の中心的なテーマです。

1. ドイツ法 BGB からの示唆と日本法の現状

この小節では、ドイツ法、特にBGBにおける撤回権に関する議論を参考に、日本法における消費者保護のあり方について考察しています。 ドイツにおける消費者概念や消費者保護法規のBGBへの統合に関する議論、そしてその統合に反対する意見などが紹介され、日本法における消費者保護と一般民事法の関係性についても検討されています。 特に、ドイツの撤回権に関する学説等からの示唆を得ることが目的であると明記されており、BGBにおける消費者と事業者の定義が、単に消費者契約という締結状況に着目した契約範疇の定義に過ぎない点についても触れられています。 日本の消費者保護法規の現状と課題、およびドイツ法の知見を踏まえた改善の方向性が模索されています。

2. 日本における撤回権制度の課題と改善の方向性

本小節では、日本の現状における撤回権制度の課題と、その改善策について具体的な提案が行われています。 訪問販売法や消費者信用法等の既存法における撤回権の規定や適用範囲、そしてその効果について分析が行われ、改善の必要性が示唆されています。 例えば、訪問販売法における撤回権が独立した事業の従事者には適用されない点や、消費者信用契約における撤回期間と過剰債務の発生時期との関係などが、課題として挙げられています。 また、撤回権の要件や適用範囲、そして撤回期間の設定について、より消費者に配慮した制度設計の必要性が指摘されています。 さらに、撤回権の行使による契約解消において、相手方への一定の帰責原理が働くべきであるという主張も紹介されています。

3. 契約自由と消費者保護の調和

この小節は、撤回権制度設計における根本的な課題である、「契約自由」と「消費者保護」の調和について論じています。 撤回権が私的自治を過剰に制限する可能性や、市場経済に基づく自由主義的社会モデルとの整合性といった問題点が改めて指摘されています。 一方で、消費者の自己決定権の保護という観点からも撤回権の必要性が強調され、そのバランスの取れた制度設計が求められています。 具体的には、撤回権の適用範囲や要件の設定、そして撤回期間の長さなどを適切に定めることで、消費者の保護と契約自由の調和を図ることが重要であるとされています。 ドイツ法における議論を踏まえつつ、日本におけるより効果的でバランスの取れた消費者保護のための具体的な提案が期待されます。 通信教育受講者保護法の規定なども参照しつつ、より実効性のある消費者保護制度の構築が目指されています。