
ロシア教育改革20年:展開と課題
文書情報
専攻 | 比較教育 |
文書タイプ | 中間報告書 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 4.45 MB |
概要
I.ロシアの教育改革 新たな教育基準と普遍的学習活動 УУД
本資料は、ソ連崩壊後20年間のロシアにおける教育改革、特に2000年代以降の動向を分析したものである。中心となるのは、従来の知識・技能・習熟(ЗУН)中心から、普遍的学習活動(УУД)の重視へと移行した第二世代の教育基準である。УУДは、問題解決能力や批判的思考力といったコンピテンシーの育成を目的とする。ヴィゴツキーやレオンチェフらの心理学理論がその基礎となっており、システム・活動アプローチに基づいた教育実践が推進されている。 新基準導入に伴い、教科書出版の在り方や教師の役割、地方政府の関与なども変化しており、その課題と現状が詳細に記述されている。
1. 新教育基準とУУД 普遍的学習活動 の導入
ロシアの教育改革の中心は、従来の知識・技能・習熟(ЗУН)中心の教育から、普遍的学習活動(УУД:Universsal Learning Activities)を重視する新しい教育基準への転換です。このУУДは、単なる知識の習得ではなく、問題解決能力、批判的思考力、創造性、協調性といった、社会で必要とされるより広い意味での「能力」を育成することを目指しています。 具体的には、生徒が自ら課題を設定し、解決策を探求し、その過程を分析・評価する能力を養うことを重視します。この新しい基準は、ソ連時代の心理学者のヴィゴツキーやレオンチェフの理論研究を基礎としており、彼らの研究成果が重要な概念的・論理的土台となっています。 また、この改革は、単に教育内容の変更だけでなく、教育システム全体の見直しを伴うものであり、教師の役割、教育現場におけるITの活用、学校と地域社会との連携など、多様な側面からの改革が求められています。 さらに、この新たな教育基準は、国際的な教育動向、特にボローニャ・プロセスへの対応も考慮されており、グローバル化への対応も視野に入れた改革であると言えるでしょう。 資料では、この新しい基準の導入によって、従来の教育システムとどのような違いが生じるのか、また、その導入にあたってどのような課題や問題点があるのかが詳しく分析されています。
2. ヴィゴツキー学派の理論とシステム 活動アプローチ
新たな教育基準は、ヴィゴツキー、レオンチェフ、ルリヤ、ダヴィドフ、エリコニンといったヴィゴツキー学派の研究を基礎としています。彼らの研究は、学習における社会文化的側面の重要性を強調し、学習は社会的な相互作用を通して行われるという考え方を提示しています。 この考え方を基盤とした「システム・活動アプローチ」は、学習プロセスを、生徒の活動、思考、そして社会との相互作用のダイナミックなシステムとして捉えるアプローチです。 このアプローチでは、教師は生徒の学習を単に教えるのではなく、生徒の活動や思考を促し、サポートする役割を担います。生徒は、自ら課題を発見し、解決策を探求する主体的な学習者として位置づけられます。 資料には、ヴィゴツキー学派の理論とシステム・活動アプローチが、どのように新しい教育基準に反映されているのか、そして、その教育理念が具体的にどのような教育実践に繋がるのかが示されています。 また、このアプローチは社会的構成主義の立場に立っており、学習は社会的な文脈の中で構築されるという考え方を明確に示していることが、資料の中で強調されています。
3. 新基準導入における課題と将来展望
新しい教育基準の導入は、スムーズに進んでいるとは言い難く、様々な課題や問題点が指摘されています。 例えば、地方政府による教科書の購入状況にはばらつきがあり、特に地方部では財政的な問題が大きな障壁となっています。また、教師の意識改革も大きな課題であり、新しい教育方法への対応や生徒個々の学習プランに沿った指導を行うには、教師のスキルアップと意識改革が不可欠です。 さらに、ITの活用も重要視されていますが、ロシアの広大な国土において、ITインフラの整備や、教師のITリテラシー向上も大きな課題となっています。 資料では、これらの課題を克服するための様々な取り組みや提案が示されています。例えば、教師向けの研修プログラムの充実、ITインフラ整備への投資、学校と地域社会の連携強化などです。 これらの課題への対応次第で、ロシアの教育改革の成功が大きく左右されると考えられます。資料は、今後の教育改革の展望を示唆する重要な知見を提供しています。
II.教科書出版と地方政府の役割
ソ連時代は国家が教科書を無償提供していたが、現在は地方政府が予算配分を行い、一部を無償、残りを保護者の負担とするシステムに移行している。新基準導入により、地方政府による教科書の購入状況にはばらつきが見られ、財政的な課題が浮き彫りになっている。 地方コンポーネントの扱いも重要な論点であり、新基準では地方独自のカリキュラムの扱いが検討段階にあることが示されている。
1. ソ連時代からの教科書出版システムの変化
ソ連時代、教科書出版は国家主導で行われ、出版社への発注、買い取り、児童生徒への無償貸与という一貫したシステムでした。しかし、ソ連崩壊後、このシステムは大きく変化しました。現在、中央政府は地方政府に教科書予算を交付しますが、その額は最小限に留まり、地方政府は地方予算を合わせて学校に配分します。 そのため、地方政府によって教科書の購入率は大きく異なり、必要な教科書の20~30%しか購入しない地域もあれば、100%購入する地域もあるという状況です。新しい教育基準(スタンダード)の導入後、基準を導入した地方政府の多くは教科書の70~80%を購入したものの、この状況が継続できるかどうかは不透明です。親の負担が大きくなっている現状も課題となっています。 一冊の教科書は原則3年間使用されることになっていますが、予算の制約や地域差によって、教育の質にばらつきが生じる可能性が示唆されています。
2. 新教育基準導入後の教科書購入と地方政府の財政負担
新たな教育基準の導入は、教科書出版システムにも大きな影響を与えています。特に、初等教育段階では、新しいスタンダードに沿った教科書の需要が急増し、地方政府の財政負担が大きくなっています。 多くの地方政府が新しいスタンダードの教科書を100%購入することを目指してはいますが、現実には財政的な制約から、その目標を達成するのは難しい状況です。 地方政府による教科書の購入率には大きなばらつきがあり、必要な教科書の10%しか購入できない地域も存在します。このことは、教育の機会の公平性に深刻な影響を与える可能性があります。 この状況は、地方政府の財政状況や、教育に対する優先順位の違いを反映していると考えられます。 新しい教育基準の下では、教科書購入の公平性を確保するための新たな政策や仕組みが必要とされていることが示唆されています。
3. 地方コンポーネントの扱いと今後の課題
新しい教育基準では、地方独自のカリキュラム(地方コンポーネント)に関する明確な規定がありません。そのため、これまで地方コンポーネントで教えられていた科目をどのように扱うかが、大きな課題となっています。 資料では、まだ第1学年で導入が始まった段階であり、5学年以降の地方コンポーネントの授業時間の設定は検討中であると説明されています。おそらく、放課後の10時間以内に設定される見込みです。 このことは、地方の教育ニーズへの対応と、新しい教育基準とのバランスを取る必要性を示しています。 また、新スタンダードは活動的なアプローチを重視しているため、学校ではテレビ、パソコン、電子ボードなどのICT設備の整備が進められています。しかし、家庭環境によって、すべての生徒がノートパソコンを所有しているわけではないため、学校でのICT環境整備は必須となっています。 地方コンポーネントの扱い方、ICT環境の整備、そして財政的な課題など、様々な問題が複雑に絡み合っている状況が読み取れます。
III.教師の役割と育成 意識改革の重要性
新基準では教師の役割が大きく変化しており、生徒個々の学習プランに沿った指導、つまり最近接発達領域へのアプローチが求められる。教師は単なる知識の提供者ではなく、生徒の成長を支援するコンサルタントとしての役割を担う必要があり、そのためには教師の意識改革と育成が不可欠である。教員養成と現職教育の改革が喫緊の課題として挙げられている。
1. 新教育基準下での教師の役割の変化
新しい教育基準(スタンダード)の導入により、教師の役割は大きく変化しています。従来の知識伝達型の授業から、生徒一人ひとりの学習プランに沿った個別指導へと重点が移行しています。これは、ヴィゴツキーの最近接発達領域論に沿ったアプローチであり、生徒が自身の能力を最大限に発揮できるよう、適切な課題を設定し、個々のペースで学習を進めることを支援する必要があります。 特に、生徒数が多いクラスでは、学習内容の難易度が生徒によって大きく異なるため、教師は生徒の理解度を的確に把握し、適切な支援を提供する必要があります。そのため、教師は生徒の状況を詳細に把握するために、保護者との連携を密にすることも重要となります。 教師は、単なる知識の提供者ではなく、生徒の学習をサポートするコンサルタントとしての役割が求められています。この新しい役割を果たすためには、高度な指導力と、生徒への深い理解が必要です。 この変化に対応するためには、教員の資質向上のための研修や、新たな教育手法の習得が不可欠となっています。また、個別の学習プランを作成・管理するための時間やリソースの確保も重要な課題です。
2. 教師養成と現職教育の改革の必要性
新しい教育基準を効果的に実施するためには、教師の意識改革と育成が不可欠です。 資料では、教員の給与増額や住宅支援などの待遇改善も重要ですが、それだけでは不十分であり、教員の意識と心の変化がなければ教育の改善はできないと指摘されています。全ロシア教育会議でも、教員養成と現職教育の改革が重要な議題として取り上げられています。 教員養成においては、新しい教育基準に基づいた指導法や、生徒個々の学習プランの作成・管理方法などを学ぶ必要があります。 現職教育においては、最新の教育理論や実践方法についての研修、ICTツールの活用方法、生徒との効果的なコミュニケーション方法などを学ぶ機会を提供することが重要です。 さらに、教師同士の情報共有や、経験豊富な教師による指導・サポート体制の構築も重要です。 教員の意識改革と育成は、教育改革全体の成功を左右する重要な要素であり、継続的な取り組みが必要とされています。資料は、この点について強い懸念と同時に、改革への期待を示しています。
3. IT活用と国際的な連携
情報社会においては、ITの活用が教育現場においても重要性を増しています。特にロシアのような広大な国土では、ITを活用した情報共有や遠隔教育が、教育の質の向上に大きく貢献する可能性があります。 資料では、ITを活用した教員間の情報交換や、国際的な学術交流プロジェクトの推進が提案されています。アメリカ、カナダ、オランダの大使館が、ITを活用した国際的な学術交流プロジェクトを促進していることも言及されています。 日本の学者との情報交換についても、より持続的なものにする必要性が指摘され、SkypeなどのIT技術を活用した共同プロジェクトの可能性が示唆されています。 これらの取り組みは、ロシアの教育の国際化や、日本の教育との連携強化にもつながる可能性を秘めています。 ただし、ITツールの導入や活用には、教員のITリテラシー向上のための研修や、適切なインフラ整備が必要不可欠です。資料では、コンピュータの使いすぎによる子供の目の負担についても懸念が示されています。
IV.メディア教育と理数系教育への統合
メディア教育は、人文科学と理数系の科目を統合する手段として注目されている。ロシアではメディア教育が独立した科目として存在しないが、化学の授業において新聞記事や広告を題材とした課題作成が試みられている。一般的学習能力の育成も重要視され、情報技術(IT)の活用が強調されている。
1. メディア教育の現状と課題 人文科学と理数系の統合
ロシアでは、フランスやドイツと同様に、メディア教育は独立した科目として存在しません。しかし、マスコミ報道などを通して得られる人文的な知識を、理数系の科目とどのように結びつけるかが課題となっています。 資料では、この課題への取り組みとして、化学の授業で新聞記事や広告の文章を題材にした課題集を作成する試みが紹介されています。生徒たちがビールのコマーシャルを分析するなど、身近な題材を通して、人文科学的な視点と科学的な思考力を同時に養うアプローチが試みられています。 米国の一部の州ではメディア教育が独立した科目として存在する一方、ロシアではそのような状況ではないことが指摘されています。 このことは、ロシアの教育システムにおいて、メディアリテラシーの育成が十分に重視されていない可能性を示唆しています。 メディア教育をどのようにカリキュラムに組み込むか、そして、人文科学と理数系の科目を効果的に統合していく方法の探求が、今後の教育改革において重要な課題となっています。
2. 一般的学習能力 の概念とメディア教育の統合
「一般的学習能力」という概念は、ソ連時代にも存在していましたが、2004年の教育基準において、その概念が拡大・再定義されています。この拡大には、技術的な理由と政治的な理由が挙げられています。 技術的な理由としては、80~90年代初頭のインターネットや情報伝達手段の発達によって、情報社会に対応した学習能力の育成が必要になったことです。 政治的な理由としては、ソ連時代にはマスコミ報道への批判的思考が抑制されていたのに対し、現在では多様なメディアからの情報を批判的に吟味する能力が求められるようになったことです。 資料の記述者であるアレクセイ氏は、かつて所属していた研究所で「一般的学習能力」の概念を開発しており、それが2004年のスタンダードに取り入れられたことを喜んでいます。 この「一般的学習能力」の育成は、メディア教育と密接に関連しており、多様な情報源から得られる情報を批判的に評価し、活用する能力を育成することが重要であることを示しています。 この概念は、新しい教育基準において、批判的思考力や情報活用能力の育成を重視する方向性を示す重要な指標となっています。
3. 情報技術 IT 活用の重要性と国際協力の可能性
ロシアの教育改革においては、情報技術(IT)の活用が重視されています。広大な国土を持つロシアでは、ITを活用することで、遠隔地にいる生徒や教員との情報共有や、効率的な教育活動が可能になります。 資料では、ITを活用した瞬間的な情報交換の重要性が強調されており、日本の学者との情報交換についても、IT技術(スカイプなど)を活用した持続的な連携の可能性が示唆されています。 また、アメリカ、カナダ、オランダの大使館が、ITを活用した国際的な学術交流プロジェクトを促進していることも挙げられています。 これらの事例は、国際的な協力関係を構築することによって、ロシアの教育改革を推進できる可能性を示しています。 ただし、ITの活用には、適切なインフラ整備や、教員のITリテラシー向上のための研修が不可欠です。 資料では、コンピュータの使いすぎによる子どもの目の負担についても懸念が示されており、IT活用の適切な方法についても検討する必要があることを示唆しています。
V.モスクワとウラジオストクの教育機関 事例紹介
資料ではモスクワとウラジオストクの教育機関の事例が紹介されている。モスクワの伝統校では国際交流が盛んであり、ウラジオストクの教育機関では、ウラジオストク市の教授法センターの役割を果たすなど、教師の育成にも力を入れている。また、ノボシビルスク国立大学への進学率が高い学校や、物理オリンピックで優秀な成績を収めた生徒を対象としたサマースクールなども紹介されている。
1. モスクワの伝統校 国際交流と教師需要
資料では、1936年創立のモスクワの伝統校の事例が紹介されています。この学校は、規模は小さいものの、近隣のマイクロ地区から330人の生徒が通学しています。モスクワの中心地という立地から、近隣には大使館が多く、様々な国籍の生徒がロシア語を学ぶ「ロシア語学校」クラスも存在します。 韓国の小学生を10日間受け入れるなど、活発な国際交流活動も展開されています。地理教師である副学長が、この国際交流の中心的役割を担っています。 入学希望者は定員を上回っており、特に近年は就学前教育と初等学校の教師の需要が高まっています。一方、社会教育士は、大学卒業が必須となったことで需要が減少傾向にあります。 学校では、職業博覧会への参加やオープンキャンパス開催、テレビCM放映など、積極的に生徒募集活動を行っています。 1947年から続く同窓会には、3世代にわたる卒業生が参加するなど、地域に根付いた学校であることがわかります。
2. ウラジオストクの教育機関 リソースセンターとしての役割と教師育成
ウラジオストクの教育機関は、ウラジオストク市の「リソースセンター」としての役割を担い、市内の教員育成に貢献しています。副校長がウラジオストク市の教授法センター長を兼任しており、若手教員の現職教育にも力を入れていることが示されています。 ウラジオストク市内の教員向けのフェスティバルを開催するなど、積極的な教師育成活動を行っており、教員は自ら教材研究や教材開発を行い、特にプロファイル教育(生徒の個性や能力に合わせた教育)では教材開発が盛んです。 基礎的な内容についても、様々な方法で指導できる教材や指導法の開発が行われており、国家標準に沿った授業に加えて、教師独自の工夫による指導が行われていることが紹介されています。 例えば、10学年で対数の概念を教える国家標準に対して、対数方程式や不等式を合わせて指導することで、対数を機能的に使用できるよう工夫している事例が挙げられています。 これらの取り組みは、教育の質の向上と、教師の専門性向上に繋がるものとして評価できます。また、ノボシビルスク国立大学への進学率が75%と高く、大学進学率はほぼ100%であることも示されています。
3. その他の教育機関 英才教育と国際オリンピック
資料には、モスクワやウラジオストク以外の教育機関の事例も散見されます。 例えば、理数系の英才教育に特化した学校では、語学教育やビジネス教育にも力を入れており、高度な教育を提供することで、卒業生が国内外の大学に進学できるよう支援しています。 また、国際的な数学オリンピックのようなコンテストにも言及されており、参加国は80カ国以上に及び、規模は小さいながらもコストパフォーマンスが高いと評価されています。特に韓国の25都市が強豪として挙げられています。 これらの学校では、生徒個人の能力や興味関心に合わせた教育が提供されており、一斉授業ではなく、個々の生徒に合わせた指導が行われています。 さらに、サマースクールの実施や、地方の教師との連携など、多様な取り組みによって、生徒の能力開発を支援している様子が伺えます。これらの事例は、ロシアの教育における多様性と、高い教育水準の一端を示しています。
VI.高等教育の改革とボローニャ プロセス
高等教育機関では、ボローニャ・プロセスへの対応が課題となっている。大学は、官費、国家予算、自費の3つのカテゴリーに分類され、本学は国家予算と自費収入で運営される第二カテゴリーに分類される。このことは、大学の運営の自主性を高める一方、リスクも伴うことを示唆している。
1. 高等教育改革と市場化 3つのカテゴリー
ロシアの高等教育は、2012年度から本格的に市場システムに移行します。大学は、官費だけで運営される大学、国家予算と自費収入の両方で運営される大学、そして完全に自費で運営される私立大学の3つのカテゴリーに分類されます。 各大学は、国家からの提案を考慮した上で、どのカテゴリーに属するかを決定します。 資料で言及されている大学は、国家予算と自費収入で運営される第二カテゴリーに分類されるため、自己の収益活動を行うことができます。これは、大学運営の自由度を高める一方、財政的なリスクも伴います。国家は、これらのリスクに対して責任を負いません。 この改革は、大学の財政的な自立性を高め、運営の効率化を促進することを目指していますが、同時に、財政的なリスクや、教育の質の低下といった懸念も存在します。私立大学は、国立大学に組織替えされることはない、という点も明記されています。
2. ボローニャ プロセスへの取り組みと課題 アジア太平洋地域との関係
資料では、ボローニャ・プロセスへの取り組みについて言及されています。ボローニャ・プロセスとは、ヨーロッパ高等教育領域における質保証と学位制度の統一を目指す国際的な枠組みです。 しかし、この大学では、地理的にアジア太平洋地域に位置しているため、ヨーロッパ教育圏に合わせるメリットがどれほどあるのか、疑問を感じていると述べられています。 ヨーロッパ諸国との現在の交流状況に大きな不満を感じていないため、ボローニャ・プロセスへの参加は、単位制の導入など、折衷的な形で進められる予定です。 現在の高等教育プログラムは第3世代のものであり、ボローニャ・プロセスを基準にしているものの、バカラーブリ、スペツィアリスト、マギストル、アスピラントゥーラ、ドクトラントゥーラといった新旧の制度が併存している状況です。 アジア太平洋地域との関係を考慮しながら、どのようにボローニャ・プロセスに対応していくかが、今後の課題となっています。地理的な位置づけと国際的な枠組みの適合性のバランスが、重要な論点です。
VII.シベリア 北海道文化センターと日本語教育
シベリアでは、経済成長とインターネット普及により日本語学習者が増加している。シベリア・北海道文化センターでは、Can-do方式を取り入れた日本語教育が実践されている。この方式は、学習者が「日本語で~ができる」という視点から言語活動能力を育成することを目指す。
1. シベリア 北海道文化センターの概要と日本語教育
シベリア地域、特にノボシビルスクにおける日本語教育の現状について、シベリア・北海道文化センター(SHC)の事例が紹介されています。経済成長とインターネットの普及により、シベリア地域での日本語学習者は増加傾向にあり、札幌との交流も活発化しています。 国際交流基金のプログラムも充実しており、日本語教育においても変化が見られます。2009年までは文型中心のシラバスが主流でしたが、現在は言語活動を中心としたCan-do方式を取り入れています。 Can-do方式とは、「日本語で…ができる」という視点から、言語活動能力の育成を目指す教育方法です。学習者は、誰に対して、どのような場面で、どのような活動を行いながら日本語を使うのかを意識した学習を行います。 具体的な目標設定例として、「交流事業で、日本人の知り合いに挙げたロシアの民芸品、ノボシビルスクの名物について、学習済みの表現を用いて、ゆっくりと説明ができる」といった目標が示されています。SHCコースは3年間、290時間、約250名の受講者規模で行われています。
2. Can do方式の詳細と効果
Can-do方式は、学習者の言語活動能力の育成を重視する教育方法です。文法や語彙の知識を習得するだけでなく、具体的な場面でどのように日本語を使うのかを重点的に学習します。 シラバスのポイントは、「誰に対して」「どんな場面で」「どんな活動をしながら」日本語を使うかを明確にすることです。 具体的な目標例として、「交流事業で、日本人の知り合いに挙げたロシアの民芸品、ノボシビルスクの名物について、学習済みの表現を用いて、ゆっくりと説明ができる」ことが挙げられています。この例は、コミュニケーション能力の育成を重視するCan-do方式の特性をよく表しています。 この方式は、3年間、290時間という期間をかけて行われるSHCコースで実践されており、一定の成果を上げているとされています。 しかし、具体的な成果やデータは示されていません。より詳細な評価や分析が必要であることが示唆されます。