
信用金庫経営報告書:自己資本充実と事業概況
文書情報
専攻 | 金融学 |
出版年 | 平成26年度 |
文書タイプ | 財務報告書 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 2.20 MB |
概要
I.資金調達と信託運用
本資料は、農業協同組合(JA)の財務状況に関する報告書です。主な内容は、資金調達状況(貯金、借入金等)と信託運用状況、そしてそれらに基づく自己資本比率の分析です。自己資本比率は平成27年3月末時点で21.74%でした。プロパー資金と農業制度資金の状況も示されており、安定的な収益の積み上げによる内部留保に努めていると報告されています。永久劣後特約付借入金135億円(前年度150億円)の情報も含まれています。
1. 資金調達勘定の構成と計算方法
資料は、資金調達勘定の平均残高を算出する式を示しています。式は、(貯金+譲渡性貯金+借入金+その他-金銭の信託運用見合額)という構成要素から成り、金銭の信託運用見合費用を控除した後の値を分子、資金調達勘定平均残高を分母として計算することで、比率を求めています。この計算式において、「その他」には貸付留保金や従業員預り金などが含まれ、「うち預け金」には受取奨励金や受取特別配当金が、「うち貯金」には支払奨励金が含まれていると説明されています。さらに、資金調達勘定計の平均残高と利息には、金銭の信託運用見合額と金銭の信託運用見合費用が控除されている点が重要です。この計算式は、資金調達状況を正確に把握するための重要な指標となるものであり、その構成要素や計算方法を理解することは、財務状況の分析において不可欠です。 全体的な資金調達状況を把握し、効率性を分析するためにこの式が用いられていることがわかります。
2. プロパー資金と農業制度資金
資料では、資金調達の源泉としてプロパー資金と農業制度資金の2種類が区別されています。プロパー資金とは、当会原資の資金を融資しているもののうち、制度資金以外のものを指し、当会の独自の資金力を示す指標となります。一方、農業制度資金は、地方公共団体が直接または間接的に融資するもの、地方公共団体が利子補給等を行うことで当会が低利で融資するもの、日本政策金融公庫が直接融資するものがあり、資料では地方公共団体からの転貸資金と利子補給付き融資を対象としています。この区別は、資金調達の多様性を示すと同時に、それぞれの資金源の特徴を理解する上で重要です。プロパー資金の割合が高いことは、当会の財務的な自立性を示唆し、農業制度資金の活用状況は、公共政策との連携を示すものとなります。この両者のバランスが、当会の財務基盤の安定性に大きく影響を与えると言えるでしょう。
3. 自己資本比率と財務基盤強化
平成27年3月末時点における自己資本比率は21.74%に達しており、これは当会の財務基盤の健全性を示す重要な指標です。資料は、多様化するリスクへの対応と会員・利用者のニーズに応えるため、財務基盤の強化を経営の重要課題として位置付けていることを明記しています。自己資本比率の維持・向上のため、安定的な収益の積み上げによる内部留保に努めていると述べられており、持続的な経営を目指している姿勢が読み取れます。また、資本調達手段として、償還期限のない永久劣後特約付借入金(135億円、前年度は150億円)が用いられており、その特約についても言及されています。これは、必要に応じて柔軟な資金調達が可能な体制を構築していることを示しています。自己資本比率の高さは、金融機関としての信頼性を高め、安定的な経営を維持するために不可欠な要素であり、当会の経営戦略において重要な位置を占めていることが分かります。
II.貸出金と貸倒リスク
平成26年度の農業関係貸出金残高は84,919百万円でした。貸倒リスク管理については、貸倒引当金の計上が「資産の償却・引当要領」に基づき、正常先・要注意先債権、破綻懸念先、実質破綻先・破綻先に分類して行われています。延滞債権、貸出条件緩和債権などの危険債権への対応も説明されており、信用リスク管理の重要性が強調されています。具体的な予想損失率や、リスクマネジメント要領、リスクマネジメントマニュアルに基づいたリスク管理体制についても言及されています。
1. 貸出金の概要と平成26年度実績
資料によると、平成26年度の農業関係貸出金残高は84,919百万円でした。この貸出金は、農業者、農業法人、農業関連団体等に対する農業生産・農業経営に必要な資金、農産物の生産・加工・流通に関係する事業に必要な資金などを含みます。 貸出金の業種別残高の「農業」は、農業者や農業法人等に対する貸出金の残高を示しています。 この数値は、当該農業協同組合の農業分野への資金供給規模を示す重要な指標であり、その規模の大きさがわかります。貸出金の対象となるのは、農業生産活動や関連事業を行う多様な主体であり、農業経済を支える上で重要な役割を担っていることがわかります。 資産査定額については、「金融機能の再生のための緊急措置に関する法律」第6条に基づき、債務者の財政状態や経営成績などを考慮して区分されていると説明されています。ただし、当該組合は同法の対象ではないものの、参考として同法の基準に従い債権額が掲載されています。
2. 貸倒リスク分類と貸倒引当金計上
貸倒リスク管理においては、貸倒引当金の計上が「資産の償却・引当要領」に基づいて行われています。具体的には、債権の質に応じて、正常先・要注意先、破綻懸念先、実質破綻先・破綻先の4段階に分類し、それぞれの分類に応じた予想損失率を乗じた金額を一般貸倒引当金または個別貸倒引当金に繰り入れています。正常先・要注意先債権については、債権額に予想損失率を乗じた額を一般貸倒引当金に繰り入れますが、税法基準により容認される限度額を下回る場合は、税法基準により算定された金額を繰り入れます。破綻懸念先については、Ⅲ分類額からキャッシュフローによる回収可能額を控除した残額、もしくはⅢ分類額に予想損失率を乗じた額を個別貸倒引当金に繰り入れます。実質破綻先・破綻先については、全額を個別貸倒引当金に繰り入れるか直接償却します。このリスク分類と貸倒引当金計上方法は、貸倒リスクを適切に評価し、財務健全性を維持するために重要な役割を果たしています。予想損失率は貸倒実績率に一定の修正を加えて算出されています。
3. リスク管理体制とリスクマネジメント
当該組合では、理事会で定めた「リスクマネジメント要領」と「リスクマネジメントマニュアル(市場リスク・信用リスク編)」に基づき、リスク管理課において適切なリスク管理が行われています。リスク管理委員会を毎月開催し、保有するリスク量やリスク内容の報告、対応方針の検討が行われているとのことです。 これは、貸倒リスクを含む様々なリスクを体系的に管理するための体制が整備されていることを示しています。 さらに、自己資本比率算出に係る信用リスク・アセット額は、告示に定める標準的手法により算出され、リスク・ウェイトの判定には格付が用いられていると記述されています。これらの記述から、当該組合が貸倒リスク管理に高い関心を持ち、厳格な基準と体制の下で運用されている様子がうかがえます。 リスク管理の徹底は、組合の財務の安定性と健全性を確保する上で極めて重要であることがわかります。
III.信用リスク管理と信用リスク削減手法
信用リスク・アセット額の算出には標準的手法が用いられ、リスク・ウェイトの判定には格付が用いられています。信用リスク削減手法として「適格金融資産担保付取引」、「保証」、「貸出金と自会貯金の相殺」を適用し、エクスポージャーの管理を徹底しています。証券化取引に関する記述もあり、そのリスク管理についても言及されています。 信用リスクに関するエクスポージャーの残高は、平成26年度で1,134,893百万円です。
1. 信用リスク アセットの算出とリスク ウェイト
信用リスクに関するエクスポージャーの残高は、自己資本控除となるものや証券化エクスポージャーを除く資産、オフバランス取引、派生商品取引の与信相当額を含みます。 平成26年度の信用リスクに関するエクスポージャーの残高は、1,134,893百万円でした。この算出には、告示に定める標準的手法が用いられています。リスク・ウェイトの判定には、適格格付機関による依頼格付のみが使用され、格付がないエクスポージャーについても、明確な基準に基づいてリスク・ウェイトが判定されています。また、経過措置によってリスク・ウェイトを変更したエクスポージャーや、経過措置によってリスク・アセットに算入されたものも、集計の対象となっています。 これらの数値は、当該組合が抱える信用リスクの大きさを示すものであり、自己資本比率の算出や、適切なリスク管理を行う上で非常に重要な指標となります。 特に、エクスポージャーの定義やリスク・ウェイトの算出方法、格付の利用など、詳細な説明が記載されており、透明性と正確性の高いリスク管理体制が構築されていることがわかります。
2. 信用リスク削減手法の適用
信用リスク削減手法として、「自己資本比率算出要領」に定められた「適格金融資産担保付取引」、「保証」、「貸出金と自会貯金の相殺」の3つの手法が適用されています。 適格金融資産担保付取引については、簡便手法を用いて信用リスクの削減を行っています。保証については、被保証債権の債務者よりも低いリスク・ウェイトが適用される適格保証人(中央政府等、地方公共団体等)の保証を受けた部分については、被保証債権のリスク・ウェイトではなく、保証人のリスク・ウェイトが適用されます。貸出金と自会貯金の相殺については、法的に有効な相殺契約に基づき、特定の取引相手との間で貸出金と自会貯金を相殺することで、信用リスク・アセット額を軽減する手法です。これらの信用リスク削減手法は、自己資本比率の算出における信用リスク・アセット額を軽減し、財務の安定性を向上させる上で重要な役割を果たしています。それぞれの具体的な適用条件や、リスク管理上の配慮が示されている点も重要です。
3. 証券化エクスポージャーに関する事項
資料には、証券化エクスポージャーに関する記述があり、リスク管理の方針やリスク特性の概要が説明されています。証券化エクスポージャーとは、原資産に係る信用リスクを優先劣後構造のある2以上のエクスポージャーに階層化し、その一部または全部を第三者に移転する性質を有する取引に係るエクスポージャーのことです。 再証券化エクスポージャーについても言及されており、原資産の一部または全部が証券化エクスポージャーである取引に係るエクスポージャーと定義されています。ただし、当該組合では、証券化目的導管体を用いた第三者の資産に係る証券化取引、証券化取引に係る証券化エクスポージャーを保有している子会社等及び関連法人等、信用リスク削減手法として証券化取引を用いる事例は、該当がないと報告されています。 証券化エクスポージャーに係る信用リスク・アセット額の算出については、標準的手法を採用していると明記されています。 これは、証券化取引を用いたリスク管理に関する情報開示であり、透明性を高める上で重要な記述です。
IV.市場リスクとオペレーショナルリスク
金利リスク管理については、分散共分散法によるVaR(信頼区間99.0%、保有期間1年)を用いて、市場統合VaRの計測を行っています。また、アウトライヤー基準に基づく金利リスクも計測しています。 オペレーショナル・リスク管理は「リスクマネジメント要領」、「リスクマネジメントマニュアル(事務リスク)」に基づき、事故、交通事故、事務ミスなどに分類して管理されています。オペレーショナルリスク相当額の算出には「基礎的手法」を採用しています。
1. 金利リスク管理
資料では、金利リスク管理について、有価証券等の市場性資産に加え、貸出金や預け金、貯金等の金融資産・負債の金利リスク量を分散共分散法によるVaR(信頼区間99.0%、保有期間1年)を用いて計測していることが記載されています。これは、金利変動による損失の可能性を定量的に評価するための手法です。さらに、過去5年間の計測期間において1%の確率で起こりうる金利変動(1%タイル値、99%タイル値)による金利リスク(アウトライヤー基準に基づく金利リスク)も計測しています。これは、極端な金利変動によるリスクへの対応を考慮していることを示しています。金利リスク管理体制として、ALM委員会において収支シミュレーションの実施やアロケーション方針の決定を行い、リスク管理委員会においてモニタリング・検証を行う体制が構築されていると説明されています。ALM委員会は企画管理課、リスク管理委員会はリスク管理課がそれぞれ主管しており、責任体制も明確です。これらの記述から、当該組合は金利リスクを複数の方法で評価し、ALMとリスク管理委員会による綿密なモニタリングと検証体制により、市場金利変動リスクへの対応を徹底していることがわかります。
2. オペレーショナルリスク管理
オペレーショナルリスクとは、業務の過程、役職員の活動、システムの不適切さ、または外的な現象によって損失を被るリスクと定義されています。このリスクに対する管理は、「リスクマネジメント要領」と「リスクマネジメントマニュアル(事務リスク)」に基づいて行われています。事務リスクは、役職員の事務上のミスや事故、不正によって損失を被るリスクと定義され、事故(システム障害を含む)、交通事故、事務ミスの3つに分類して管理されています。管理部署は総務部であり、経営に重大な影響を与える不祥事やコンピュータ・システム障害についてはその都度、その他の事項については必要に応じて理事会や経営管理委員会に報告される体制が整えられています。オペレーショナル・リスク相当額の算出には「基礎的手法」を採用しており、1年間の粗利益に15%を乗じた額の直近3年間の平均値により算出されると説明されています。この手法は、オペレーショナルリスクを定量的に把握するためのシンプルな方法であり、リスク管理の透明性を高める上で役立っています。
V.苦情対応窓口
JA等の信用事業に関する利用者の苦情対応窓口として「JAバンク相談所」が設置・運営されています。利用者からの苦情に対して誠実な対応を行い、迅速な解決を目指しています。
1. JAバンク相談所の役割と運営
資料によると、JA等の信用事業に関する利用者の苦情対応窓口として「JAバンク相談所」が京都府農業協同組合中央会によって設置・運営されています。この相談所は、利用者から苦情の申し出があった場合、それを誠実に受け付け、利用者の了解を得た上で、関係するJA等に対して迅速な解決を求める役割を担っています。 相談所の設置は、利用者の権利保護と円滑な顧客関係維持を目的としており、公正かつ誠実な立場から問題解決に当たることが強調されています。 これは、JAグループ全体の顧客対応における信頼性と透明性を高めるための重要な取り組みであり、顧客満足度向上にも貢献する仕組みとして位置付けられています。 相談所の具体的な対応プロセスや、解決に至らなかった場合の対応など、詳細な情報は本文からは読み取れませんが、利用者からの苦情に対して誠実に対応し、迅速な解決を目指すという基本的な姿勢が明確に示されています。