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回路設計入門:NMR測定装置設計

文書情報

言語 Japanese
フォーマット | PDF
サイズ 741.71 KB
専攻 エレクトロニクス(または関連する物理学分野)
文書タイプ 講義ノート

概要

I.電磁気学の基礎と回路理論

このセクションでは、電磁気学の歴史的概観から始まり、オームの法則などの基礎的な概念を解説しています。電子回路を理解する上で重要な線形応答理論の視点も取り入れ、電気回路における電圧電流抵抗の関係を数学的に説明しています。さらに、半導体バンド構造導体絶縁体の違いについても触れられています。 歴史上重要な人物として、ギルバート、フランソワ・デュ・フェ、フランクリン、ガルヴァーニ、ボルタ、エルステッド、アンペール、ファラデー、マクスウェル、ヘルツなどが挙げられます。

1. 電磁気学の歴史的概観

このセクションは、電磁気学の歴史を古代ギリシャの琥珀の静電気現象から紐解いています。16世紀末、ギルバートによる様々な物質における電気現象の発見、17世紀における静電気の反発現象や帯電の発見、18世紀の導体と絶縁体の概念確立、そしてデュ・フェによる正負の電荷の発見、フランクリンによるプラスとマイナスの命名などが詳述されています。さらに、18世紀初頭のライデン瓶の発明、ガルヴァーニによる動物電気の研究、ボルタによる電堆と電池の発明、オームによるオームの法則の発見、エルステッドとアンペールによる電気と磁気の関係解明、ファラデーによる電磁誘導現象の発見と場の概念導入、マクスウェルによるマクスウェル方程式の確立、そしてヘルツによる電磁波の存在確認といった、電磁気学の発展に大きく貢献した研究者たちの業績が網羅的に説明されています。これらの歴史的経緯を理解することは、現代の電気・電子工学の基礎を学ぶ上で非常に重要です。

2. 物質の電気的性質 導体 絶縁体 半導体

この部分では、物質の電気的性質、特に導体、絶縁体、半導体の違いについて、原子レベルの視点から解説しています。原子の電子軌道とエネルギー準位、固体におけるバンド構造といった量子力学的概念が導入され、絶縁体では電子が完全に満たされたバンドと空のバンドしか存在しないため電流が流れないこと、半導体ではこれらのバンド間のエネルギーギャップが小さく、熱エネルギーによって電子が励起され伝導電子となることで電流が流れることが説明されています。真性半導体では、熱励起によって生成された電子と正孔の数が等しく、温度上昇に伴い電気伝導度が増加することが強調されています。さらに、シリコン(Si)やゲルマニウム(Ge)などの半導体では、最外殻電子が4つあり共有結合によって結晶構造を形成していること、そして不純物(リン、ヒ素、アンチモンなど)の添加によるn型半導体の生成、伝導電子と正孔の密度制御といった半導体デバイス作製における重要な概念が示されています。

3. 線形応答理論と電気回路

このセクションでは、電気回路を線形時不変システムとして捉えるための理論的枠組みが提示されています。まず、オームの法則の復習から始まり、電圧と電流の比例関係が強調されます。電気回路を数学的に表現する手法として、有向グラフを用いた節点と枝による表現が紹介されています。 圧変数と流れ変数の概念が導入され、それらの関係が枝によって決定されることが説明されています。このアプローチは電気回路だけでなく、熱の流れ解析や用水路の水の流れなど、様々な分野に応用可能であることが示唆されています。 さらに、直流電源と抵抗のみから成る単純な直流回路が線形応答システムの典型例として取り上げられ、状態を記憶する素子が存在しないためダイナミカルシステムではない点が注意喚起されています。抵抗の温度依存性についても言及され、金属における伝導電子のフォノンによる散乱がその温度依存性の原因として説明されています。

II.直流回路と交流回路

直流回路では、キルヒホッフの法則テブナンの定理を用いた回路解析が解説されています。 交流回路では、コイルコンデンサを含む回路の解析に複素インピーダンスが導入され、電圧電流位相差や力率といった概念が説明されています。これらの概念は、様々な電子回路の設計と解析に不可欠です。

1. 直流回路 キルヒホッフの法則とテブナンの定理

このセクションでは、直流電源と抵抗のみから構成される単純な直流回路について解説しています。 これは、コイルやコンデンサを含まない、典型的な線形応答システムであり、状態を記憶する素子がないためダイナミカルシステムではない点が強調されています。 キルヒホッフの法則、特にキルヒホッフの第二法則(電位差の総和がゼロ)が回路解析の基本として説明されています。 電位差の総和がゼロにならない場合、回路のある点の電位が経路によって異なるという矛盾が生じることを指摘しています。さらに、複数の直流電圧源、直流電流源、抵抗からなる複雑な回路を簡略化する手法として、テブナンの定理が紹介されています。テブナンの定理を用いることで、回路をブラックボックス化し、解析を容易にすることができます。 これは、より複雑な回路の解析に繋がる重要な概念です。抵抗の温度依存性についても触れられており、抵抗の温度係数αを用いた抵抗値の温度依存性の式が示されています。金属における伝導電子のフォノンによる散乱が、この温度依存性を説明する上で重要であるとされています。

2. 交流回路 コイル コンデンサ 複素インピーダンス

交流回路においては、コイルとコンデンサの特性が直流回路とは大きく異なることが説明されています。交流電圧が印加された場合、コイルとコンデンサを流れる電流の位相は電圧の位相と異なる、具体的にはコイルでは電流の位相が電圧の位相よりπ/2進み、コンデンサではπ/2遅れることが述べられています。この位相差の余弦を力率と呼び、交流回路で消費される電力は電圧、電流の実効値、力率の積で表されることが解説されています。コイルのみ、またはコンデンサのみの回路では力率がゼロとなり、電力は消費されないことが示されています。 コイルやコンデンサを含む回路の解析は微分方程式を解く必要があり複雑ですが、複素インピーダンスを導入することで解析が簡略化されます。複素インピーダンスは、コイルやコンデンサに関する微分方程式から導かれ、入力電流と出力電圧の関係を表現する重要なツールです。 流れ変数と圧変数の関係を複素インピーダンスによって表すことで、直流回路で用いられたキルヒホッフの法則やテブナンの定理を、抵抗を複素インピーダンスに置き換えることで交流回路にも適用できることが示されています。

III.能動素子と演算回路

このセクションでは、ダイオードトランジスタオペアンプなどの能動素子の動作原理を説明しています。特に、PN接合ダイオード、NPNトランジスタ、FET(ここでは説明なし)の動作メカニズムと、オペアンプを用いた加算回路積分回路微分回路といった基本的な演算回路の構成法が解説されています。これらの能動素子は、現代の電子回路において重要な役割を果たしています。

1. 能動素子 ダイオードとトランジスタ

このセクションでは、電子回路において重要な役割を果たす能動素子であるダイオードとトランジスタの動作原理について解説しています。まず、PN接合ダイオードについて、p型半導体とn型半導体の接合部における電子と正孔の挙動が説明されています。PN接合部では電子と正孔が結合し、空乏層が形成され、その両端には拡散電位が生じますが、キャリアの再結合によって電圧は0となります。順方向バイアスと逆方向バイアスの違い、そしてそれぞれの状態での空乏層の広がり方、内部電界の強さ、拡散電位の変動が詳細に説明されています。次にNPN接合トランジスタの動作原理について解説しています。エミッタ、ベース、コレクタのそれぞれの半導体の種類と、それらにおける多数キャリア(電子と正孔)の挙動が示されています。ベース領域の幅が非常に狭い点が強調され、順方向バイアスが印加された際の電子と正孔の挙動、そしてエミッタからコレクタへの電流の流れが説明されています。コレクタ電流がベース電流の関数であること、つまりベース電流を制御することでコレクタ電流を制御できることがトランジスタの増幅作用の根本原理として述べられています。

2. オペアンプと演算回路

このセクションでは、オペアンプ(演算増幅器)とその応用例である演算回路について解説しています。オペアンプは、高い入力インピーダンスと低い出力インピーダンスを特徴とする増幅素子であり、その動作原理は簡潔に説明されています。具体的な演算回路として、加算回路、積分回路、微分回路の3つの回路構成が紹介されています。加算回路では、入力信号の和を出力する仕組みが、各抵抗を流れる電流の和がR2を流れる電流に等しいことから説明されています。積分回路と微分回路については、抵抗の代わりにインピーダンスを導入することで理解できると述べられています。これらのオペアンプを用いた演算回路は、様々な信号処理に利用され、現代の電子機器において非常に重要な役割を果たしていることが暗黙のうちに示唆されています。 本セクションでは、オペアンプを用いた具体的な演算回路の構成例とその動作原理を簡潔に説明することで、オペアンプの多様な応用可能性を示しています。

IV.地球磁場を用いたNMR測定装置

最終セクションでは、地球磁場を利用した**NMR(核磁気共鳴)**測定装置の原理と構成が解説されています。磁化のダイナミクス、ラーモア周波数縦緩和時間(T1)横緩和時間(T2)といったNMR特有の概念が説明され、測定装置の各構成要素(コイル、高周波パルス発生器、検出器など)の役割が詳細に述べられています。 具体的な数値例として、地球磁場の磁束密度(47 µT)とプロトンのラーモア周波数(2π · 2 × 10³ rad s⁻¹)が提示されています。 関連URLとして、電磁気学における単位系に関するウェブサイトと広島大学の論文が挙げられています。

1. 地球磁場を用いたNMR測定装置の原理

このセクションでは、地球磁場を利用したNMR測定装置の原理について説明しています。まず、静磁場(地球磁場)中に置かれた試料に生じる磁化Mについて、そのダイナミクスが磁気回転比γを用いた式で記述されています。磁化Mが静磁場の方向から外れると、ラーモア周波数ω0=γB0で歳差運動(回転運動)を開始することが解説されています。水素や炭素原子のラーモア周波数の具体的な値も提示されています。回転座標系を用いることで、複雑な磁化のダイナミクスを簡略化できることが説明されています。回転磁場B1'を印加した場合、回転座標系では磁場は静止して見え、磁化Mは実効的な磁場B1の影響を受けて回転運動を行うことが示されています。ラーモア周波数と一致する回転磁場を印加することで、磁化Mを傾けることができ、その角度は回転磁場の強度と印加時間によって決定されます。縦緩和時間T1と横緩和時間T2、そして環境の不均一性によるT2*が実験的に重要なパラメータとして挙げられています。これらの緩和時間は、磁化が熱平衡状態に戻る速度を表しています。

2. 地球磁場NMR測定装置の構成と信号検出

このセクションでは、地球磁場を用いたNMR測定装置の具体的な構成と信号検出方法が説明されています。装置の構成要素として、高周波パルス発生器、同調回路、コイル、増幅器、検出器、ローパスフィルター、アナログ-ディジタル変換器などが挙げられています。高周波パルス発生器によって生成された高周波パルスは同調回路を通じてコイルに印加され、試料の磁化を制御します。試料の磁化の運動はコイルに誘導起電力を発生させ、この信号を増幅器で増幅した後、検出器で検出します。ローパスフィルターはノイズ除去の役割を果たし、アナログ-ディジタル変換器によってアナログ信号をデジタル信号に変換します。方向性結合器が信号の流れを制御する役割も担っています。本装置は、通常のNMR装置とは異なり、大きな超伝導磁石を用いずに地球磁場を利用している点が特徴です。試料として水中の水素原子を用い、コイルに強い電流を流し磁化を誘起した後、電流を遮断することで地球磁場による歳差運動を発生させ、その際にコイルに生じる誘導起電力を測定することでNMR信号を得る仕組みが説明されています。

3. 計算に必要な物理定数

この短いセクションは、地球磁場を用いたNMR測定装置における信号強度を推定するために必要な物理定数を提示しています。信号強度の計算は電磁気学IIで学ぶ内容の応用として位置づけられています。具体的な値として、地球磁場の磁束密度(47 µT)と、その磁場におけるプロトンのラーモア周波数(ωH = 2π・2×10³ rad s⁻¹)が示されています。 これらの定数を用いることで、実際に数値計算を行い、信号強度を予測することが可能になります。このセクションは、実践的な数値計算への橋渡しとなる重要な情報を含んでいます。さらに、電磁気学における単位系に関する注意喚起と、関連するウェブサイトおよび広島大学山崎氏による文献へのリンクが提供されています。これは、単位系に関する混乱を防ぎ、より深い理解を促すための配慮です。