地域経済統合の開発戦略としての可能性の研究 : 市場と政府の関係の新しい枠組みとして

地域経済統合開発戦略:市場と政府の新しい枠組み

文書情報

著者

小倉 明浩

専攻 経済学
出版年 平成11年度~平成14年度 (1999-2002)
場所 彦根 (推定)
文書タイプ 研究報告書
言語 Japanese
フォーマット | PDF
サイズ 33.60 MB

概要

I.新自由主義的開発政策とグローバル化による世界経済の不安定性

本稿は、新自由主義的開発政策の下での世界経済への統合(自由化・開放政策)が、経済発展にプラスの効果をもたらす一方で、市場の変動に翻弄されるリスクも孕むことを分析しています。特に、ラテンアメリカ諸国は1980年代の長期経済停滞とインフレの経験から、世界市場への統合を経済安定化政策と両立させる必要性に迫られ、所得格差問題も深刻な初期条件を抱えています。このため、市場の悪影響に対して脆弱な状態にあります。発展途上国、特にラテンアメリカ諸国は、世界経済の不安定性の中で経済発展のための政策を実行していく困難に直面しています。重要なキーワード:グローバル化、新自由主義、経済安定化、ラテンアメリカ、所得格差、市場リスク

1. 新自由主義とグローバル化の両面性

本文は、グローバル化が進む世界経済において、新自由主義的な開発政策(自由化・開放政策)が経済発展に大きなプラスの効果をもたらす一方、市場の変動に翻弄される危険性も同時に孕んでいると論じています。特にラテンアメリカ諸国は、1980年代の長期経済停滞と高インフレという苦い経験から、世界市場への統合を経済安定化政策と両立させる必要性に直面しています。さらに、既に深刻な所得格差問題を抱えているという初期条件も、市場の悪影響に対する脆弱性を増幅させています。つまり、グローバル化と新自由主義政策は、経済発展という大きな可能性を提供する一方で、市場の不安定性というリスクも同時に持ち込んでいるという、いわば両刃の剣のような存在であると指摘しています。発展途上国、とりわけラテンアメリカ諸国が直面する困難は、この世界経済の不安定性の中で経済発展のための政策を効果的に実施していくことの難しさにあると結論づけています。この部分では、グローバル化、新自由主義、経済安定化政策、ラテンアメリカ経済、所得格差、市場の不安定性といったキーワードが重要な役割を果たしています。

2. IMF 世銀のコンディショナリティと開発戦略の制約

1980年代、多くの国々が累積債務危機に陥り、IMFや世界銀行のコンディショナリティ(条件付き融資)によって、独自の開発戦略を否定せざるを得ない状況に置かれました。これは、各国独自の経済状況や社会構造を考慮しない画一的な政策の押し付けと捉えることができ、結果として経済の柔軟性を阻害し、市場の変動に対する脆弱性を高める一因となったと考えられます。 このコンディショナリティは、自由化や市場原理の導入を強く求めるものであり、結果として、途上国の経済はより市場の変動にさらされることになりました。これは、新自由主義的な開発政策が、必ずしもすべての国にとって最適なものではないという事実を浮き彫りにしています。 また、この章では、IMF、世界銀行、コンディショナリティ、開発戦略、債務危機といったキーワードが、問題点を理解する上で不可欠です。

3. 一方的な自由化と先進国との非対称性

先進国の自由化はウルグアイラウンドなど、双務的な自由化の枠組みを通じて進められてきたのに対し、多くの途上国は累積債務危機後の構造改革や資本流入促進策として、一方的な自由化を推進してきました。この非対称的な自由化は、先進国と途上国間の経済格差を拡大させ、途上国の経済を不安定化させるリスクを高めました。特に、製造業製品の関税障壁引き下げの遅れや、アンチダンピング措置のような裁量的な輸入制限の残存は、途上国にとって大きな脅威となっています。一方、サービス貿易の自由化や投資障壁の自由化が進んでいる一方で、途上国製品や労働力の先進国市場へのアクセスは懸念事項として残っています。この部分の議論では、貿易自由化、アンチダンピング、サービス貿易、外国直接投資、先進国と途上国の非対称性といったキーワードが重要です。 ストルパー・サミュエルソン定理も言及されており、 貿易自由化による所得への影響を理解する上で重要な理論的枠組みとなっています。

II.年代の経済成長と金融危機 ラテンアメリカとアジアの事例

1980年代の停滞の後、ラテンアメリカ諸国は開放された市場への資本流入によって経済成長を回復しました。しかし、メキシコ通貨危機(テキーラ効果)、アジア通貨危機、ロシア通貨危機、ブラジル通貨危機など、国際金融市場の連関性の高まりによって世界経済や他国経済の危機が波及し、各国の経済を激しく揺るがしました。これらの危機を乗り越えるために、各国政府は財政支出削減や高金利政策などの緊縮策を余儀なくされました。重要なキーワード:金融危機、テキーラ効果、アジア通貨危機、資本流入、経済安定化政策

1. ラテンアメリカの1990年代 資本流入と経済成長

1980年代の経済停滞と高インフレを経験したラテンアメリカ諸国は、1990年代に入り、開放された市場への資本流入によって、曲がりなりにもプラスの経済成長を達成しました。これは、自由化・開放政策がもたらした結果と言えるでしょう。しかし、この経済成長は国際金融市場の高度な連関性と一体性によって脆弱性を帯びていました。世界経済や他の発展途上国の経済危機が容易に波及し、ラテンアメリカ諸国の通貨・金融市場を激しく揺るがす要因となりました。具体的には、1994年末からのメキシコ通貨危機(テキーラ効果)、1997年のアジア通貨危機、1998年のロシア通貨危機、ブラジル通貨危機などが挙げられ、これらの危機の度に各国政府は通貨・金融市場の安定化を図るため、財政支出削減や高金利政策といった実体経済を犠牲にする政策を余儀なくされました。この経済成長の持続可能性と、金融危機への脆弱性の克服が、ラテンアメリカ諸国の現実的な課題として浮上したのです。重要なキーワードとしては、ラテンアメリカ経済、経済成長、資本流入、金融危機、テキーラ効果、経済安定化政策などが挙げられます。

2. 国際金融市場の連関性と危機の波及効果

特に金融面において、国際的な市場の連関性と一体性の高まりが、世界経済や他の発展途上国の経済危機の波及効果を拡大させました。ラテンアメリカ諸国は、メキシコ通貨危機を端緒とする通貨・金融市場の動揺(テキーラ効果)をはじめ、アジア通貨危機、ロシア通貨危機、ブラジル通貨危機など、相次ぐ金融危機に直面しました。これらの危機発生の度に、各国政府は、通貨・金融市場の安定化を優先し、財政支出削減や高金利政策といった、実体経済を犠牲にする政策を余儀なくされました。これは、グローバル化がもたらす市場の相互依存性の高まりが、同時に危機の伝播を容易にするという負の側面を示しています。 これらの危機は、各国政府の政策対応能力や経済構造の脆弱性を改めて浮き彫りにし、より強靭な経済体制の構築の必要性を示唆しています。キーワードとしては、国際金融市場、市場連関性、金融危機、波及効果、経済脆弱性などが重要となります。

3. 新自由主義的開発戦略と地域経済統合の課題

ラテンアメリカ諸国が抱える課題へのアプローチとして、新自由主義的開発戦略への転換と同時に進んでいる地域経済統合が検討されています。地域経済統合は、いかに開放的なものであっても、世界経済への統合プロセスを歪曲する側面を持ちます。これは、政府による市場介入や市場メカニズムの誘導という側面があるためです。そのため、新自由主義的開発戦略と地域経済統合の同時推進は、世界経済への単純な統合ではなく、部分的に統合の速度や密度を高める戦略的選択であると解釈できます。この戦略の背後には、市場の完全な機能のための条件整備を超えて、政府による開発政策の有効性を示す可能性があるという期待が潜んでいます。しかし、その効果は必ずしも保証されるものではなく、地域統合が新たな課題をもたらす可能性も考慮する必要があります。キーワードとしては、地域経済統合、新自由主義、開発戦略、市場介入、経済政策の有効性などが挙げられます。

III.市場指向型開発政策の評価と政府介入の役割

世界銀行などの市場指向型開発政策推進機関においても、アジアの政府による市場介入の有効性については微妙な評価がなされてきました。『東アジアの奇跡』では、金融抑制や選択的介入を肯定的に評価する論調も見られました。しかし、市場の制度的整備を行う強い政府の必要性も指摘されています。グローバル化は、様々な文化的・社会的背景を持つ各国が世界経済において平等な競争条件(レベル・プレイング・フィールド)を確保するために、経済制度・市場の標準化を要求します。重要なキーワード:市場指向型開発政策、政府介入、金融抑制、東アジアの奇跡、グローバル化、レベル・プレイング・フィールド

1. 世界銀行による市場指向型開発政策の評価 揺れ動く視座

世界銀行自身、市場指向型開発政策の推進において、その評価に揺らぎが見られました。特に1997年以前は、その評価は定まってはいませんでした。1993年の『東アジアの奇跡』では、金融抑制や選択的な政府介入を肯定的に評価する論調が見られました。これは、東アジア諸国の著しい経済成長を、政府による戦略的な市場介入が支えたという見方です。しかし、『世界開発報告1997年版』では「国家の再考」をテーマに、市場と政府の関係を考察しており、市場を制度的に整備できる強い政府の必要性を強調しつつも、市場への介入効果については明確な結論を示していません。つまり、政府による市場介入の有効性については、肯定的な見解と否定的な見解が混在し、明確な結論は得られていない状況が示されています。 この章では、市場指向型開発政策、政府介入、金融抑制、『東アジアの奇跡』、世界銀行といったキーワードが重要な役割を果たしています。

2. 市場介入の有効性と制度的発展の多様性 単一市場モデルへの疑問

世界銀行の報告書は、各国の歴史的・制度的発展に応じた市場整備のあり方の多様性を示唆しています。しかし、その示唆は、文化・社会に応じた「市場」の多様性の認識には至っていません。つまり、単一の「市場」制度への収斂プロセスに多様性があることを認めていても、そのプロセスは早期に終わらせるべきものと考えられている可能性を示唆しています。この点は、市場経済の普遍的なモデルを前提とした政策が、必ずしも各国の固有の状況に適応できるわけではないという疑問を投げかけています。特に、1990年代後半のアジア通貨危機は、この疑問を明確に示す事例となっています。タイにおける通貨危機は、経常収支の悪化、短期外債の増加、そして投機的な資金流出が絡み合って発生しました。これは、市場の力だけで経済が安定的に発展するとは限らないことを示す重要な事例と言えるでしょう。重要なキーワードは、市場整備、制度的発展、アジア通貨危機、市場の多様性、政府の役割です。

3. グローバル化と市場標準化 リスク管理と資源配分の課題

IMFが求める改革は、アジアにおける政府の市場介入を否定するものであり、国際金融市場はコスモポリタン(特殊な歴史・制度的前提を持たない)でなければならないという前提に基づいています。グローバル化は、各国経済主体が世界経済で平等に競争できるよう経済制度・市場の標準化(スタンダード化)を要求します。特に急速に進む国際金融市場では、リスク管理の観点からも標準化が求められます。しかし、この標準化は金融市場におけるグローバル化の急速な進展そのものの是非を問うことなく、資源配分の最適化を前提にしています。そのため、各国はそれに合わせた急激な制度改革を要求されます。ラテンアメリカやアジアにおける経済運営の失敗の原因は、十分に市場指向的ではなかったことにあるとされていますが、この考え方は、各国の歴史的・文化的背景を十分に考慮していないという批判を受ける可能性があります。重要なキーワードは、グローバル化、市場標準化、リスク管理、資源配分、IMF、金融自由化です。

IV.アジア通貨圏構想とグローバル金融秩序

既存のドル中心の国際金融秩序への対抗策として、アジア通貨圏(円圏)構想が提唱されています。これは、アメリカナイズされた市場制度に対する防波堤としての役割や、地域経済統合によるグローバル化への調整能力の獲得、他地域に対する競争力強化を期待するものです。しかし、この議論には米英の制度支配力への対抗という視点が強く、既存のアジア型システムの成功を前提とし、公正や平等性の観点からの批判を背景に退けてしまう可能性があります。重要なキーワード:アジア通貨圏、円圏、国際金融秩序、ドル中心体制、地域経済統合

1. アジア型金融システムとグローバル金融市場の不整合性

このセクションでは、グローバル化する金融市場の秩序と、アジア特有の高負債/資本比率経済を特徴とする金融システムとの不整合性が、アジア通貨危機の主要因として取り上げられています。 アジアの金融システムは、高経済成長を支えてきた実績があり、それ自体が機能不全に陥っていたわけではありません。問題は、グローバル金融市場のルールとアジア型金融システムのルールの違いが認識されずに、金融自由化(境界の開放)が進められたことにあると指摘されています。 つまり、グローバル化の進展に伴い、国際金融市場はコスモポリタン化、すなわち特殊な歴史的・制度的背景を無視した均一化の方向へ進む中で、アジア諸国は独自の金融システムを維持しつつグローバル化に対応していくという困難に直面していたと分析されています。 この部分では、グローバル化、金融自由化、アジア型金融システム、高負債/資本比率経済、国際金融市場といったキーワードが重要になります。

2. アジア通貨圏構想 アメリカナイズされた市場制度への対抗軸か

既存の国際金融秩序、すなわちアメリカ主導のグローバル金融市場への対抗策として、アジア通貨圏(円圏)構想が提案されていることが述べられています。 その根拠として、アジア的価値観の重視(アメリカナイズされた市場制度への防波堤としての期待)、地域経済統合によるグローバル化への調整能力の向上、他地域との競争力強化などが挙げられています。しかし、この構想には、米英の制度支配力(グローバル金融市場のパワー)への対抗という視点が強く反映されていると指摘されています。 さらに、アジア型システムの成功を前提とする議論には、公正や平等性の観点からのアジア諸国の政治経済構造への批判、日本とアジア諸国間の国際関係における階層性への批判が背景に隠されている可能性が示唆されています。 このセクションでは、アジア通貨圏、円圏、グローバル金融秩序、アメリカナイズ、地域経済統合、国際金融市場といったキーワードが中心的な役割を果たしています。

3. アジア通貨危機の要因 為替政策のミスマッチと地域統合の必要性

東アジア諸国は、対ドル相場安定政策を重視する一方で、日本との間の競争関係や資本・中間財依存関係を無視し、アメリカ市場への輸出にのみ注力していました。この対ドル相場安定政策と、日本・アジア・アメリカ間の国際経済相互依存関係のミスマッチが、アジア通貨危機の発生要因の一つとして分析されています。 各国の通貨がドルに結び付けられ、円・ドル相場の大きな変動に連動して東アジア諸国間の経済関係が揺らぐことが、危機の根源だと考えられています。 この論理的展開の結果として、アジア通貨圏構想が提案されていますが、アメリカ市場への依存、円高恐怖症の拡大、日本の役割と負担といった懸念事項も指摘されています。 この部分では、アジア通貨危機、為替政策、ドル中心体制、地域経済統合、日本、アメリカといったキーワードが分析の軸となっています。

V.MERCOSURとNAFTA 地域経済統合の比較分析

ラテンアメリカのMERCOSURと北米のNAFTAは、異なる経済開発戦略に基づいて形成された地域経済統合の事例です。MERCOSURは、各国が市場指向型開発戦略の下で貿易自由化を一方的に進める中で形成され、開放的な地域主義(Open Regionalism)と呼ばれています。NAFTAは、メキシコ経済の安定化要因として期待されましたが、メキシコ金融危機(テキーラ効果)がその統合過程に影響を与えました。重要なキーワード:MERCOSUR、NAFTA、地域経済統合、開放的な地域主義、貿易自由化、メキシコ通貨危機

1. MERCOSURとNAFTA 形成背景と経済開発戦略の違い

このセクションでは、MERCOSURとNAFTAの形成背景と経済開発戦略の違いを比較分析しています。1960年代からの過去の地域経済統合は、ラテンアメリカ諸国が輸入代替工業化戦略を遂行する中で、域内市場の狭さを克服する手段として追求されました。これは、各国が貿易保護政策をとる中で、統合によって域内の貿易と分業を形成しようとしたものです。一方、現在の地域経済統合、特にMERCOSURとNAFTAは、各国が市場指向型開発戦略のもとで貿易自由化を一方的に進める中で行われています。これは、各国が自由化によって発生した貿易の流れの上に域内自由化を進めていくという特徴を持っており、「開放的な地域主義(Open Regionalism)」と呼ばれています。 従って、MERCOSURとNAFTAは、その形成背景にある経済開発戦略において、大きく異なるアプローチをとっていたことがわかります。重要なキーワードは、MERCOSUR、NAFTA、地域経済統合、輸入代替工業化、市場指向型開発戦略、貿易自由化、開放的な地域主義です。

2. メキシコとNAFTA メキシコ経済の安定化要因としてのNAFTAの役割

メキシコは、累積債務危機直後から市場指向型・対外開放型の経済転換に着手し、サリナス政権下で急激な自由化政策を進めてきました。1994年1月から発効したNAFTA(北米自由貿易協定)は、メキシコ経済の安定要因として期待されました。メキシコは、1982年までの40年間、年平均6%の経済成長を達成していましたが、1980年代は「失われた10年」となり、累積債務危機以降、外資流入が途絶え、経済状況は悪化しました。NAFTA締結による期待は、製造業製品輸出の拡大にありました。実際に、メキシコはNAFTA発効後、対米輸出を拡大しましたが、その効果は限定的で、輸出主導成長はまだ実現していませんでした。特に中小企業が中心となる繊維・雑貨・履物などは、貿易自由化のメリットを享受できず、むしろデメリットを被りました。NAFTAは、メキシコ経済の安定化に貢献する一方、その効果には限界があったことを示しています。重要なキーワードはNAFTA、メキシコ経済、貿易自由化、輸出拡大、マキラドーラです。

3. テキーラ効果とMERCOSUR 経済不安定化と統合過程の停滞

メキシコ金融危機(テキーラ効果)は、MERCOSURの統合過程を停滞させることになりました。テキーラ効果による経済不安定化は、貿易収支改善への圧力、財政収支改善のための関税収入の必要性から、各国が推進してきた対域外貿易の自由化の流れを停滞・逆転させ、域内統合過程にも動揺を与えました。 ブラジルは、自動車や冷蔵庫など109品目の域外関税を引き上げ、MERCOSUR域内自由化への影響は限定的でしたが、ローカル・コンテント規定を通じて他国への影響を与える可能性がありました。アルゼンチンは、域外からの輸入品に統計税を課すなどの措置をとりました。 このように、経済不安定化は、自由化の流れを停滞・逆転させるだけでなく、地域経済統合の進展にも大きな影響を与えることを示しています。重要なキーワードは、テキーラ効果、MERCOSUR、経済不安定化、貿易収支、財政収支、域内統合です。

VI.アルゼンチンとブラジルの経済調整とMERCOSUR

アルゼンチンは急激な民営化・貿易自由化政策を推進し、短期的には経済成長とインフレ抑制を達成しましたが、失業率の上昇や貿易赤字の拡大などの調整コストを伴いました。ブラジルはレアル・プランによる安定化政策を採用し、外資流入の確保に力を入れていました。両国の経済調整はMERCOSURの統合過程にも影響を与え、関税同盟化に向けた交渉においては、両国の産業政策や対外戦略の差異が課題となりました。重要なキーワード:アルゼンチン、ブラジル、MERCOSUR、民営化、貿易自由化、レアル・プラン、経済調整、関税同盟

1. アルゼンチンの急激な自由化政策 成果と調整コスト

アルゼンチンは、メネム政権下で急激な民営化と貿易自由化政策を推進しました。民営化計画は、鉄鋼・造船などの基幹産業はもちろん、鉄道・水道・電気・通信などの公共事業、石油・石油化学といった資源関連産業を含め、例外なく進められました。貿易自由化も同様に徹底的に行われ、1993年には最高関税率が65%から20%に、平均関税率も39%から10%に引き下げられ、資本財・中間財に関しては関税が撤廃されました。この政策の結果、GDP成長率は1985年から1995年までの年平均0.3%から、1991年から1993年には7.9%に急激に改善し、1994年も7.0%を記録しました。インフレ率も大幅に低下しました。しかし、この安定の裏には、企業倒産、民営化による合理化、行政改革による公務員削減など、厳しい調整コストがありました。失業率は上昇し、為替レート固定による過大評価は国内産業の競争力を悪化させ、貿易収支赤字を拡大させました。この赤字は外資流入によってカバーされていましたが、外資流入に依存した消費主導の成長という脆弱性も抱えていました。重要なキーワード:アルゼンチン、民営化、貿易自由化、経済安定化、調整コスト、失業率、貿易収支赤字、外資依存

2. ブラジルのレアル プラン 安定化政策と為替レート維持

ブラジルでは、1993年にはインフレ率が2000%を超え、経済安定化が喫緊の課題となっていました。そこで1993年12月から実施されたのがレアル・プランです。これは、1ドル=1レアルの為替相場維持を背景に、国内通貨価値を安定させようとする為替アンカー型政策でした。アルゼンチンのコンバティビリティ・プランと同様の性質を持つものの、ドルとレアルの自由交換は想定されておらず、通貨発行に外貨の裏付けを必要とする措置も取られていませんでした。政府はあらかじめ発表された拡大率を遵守することが要求されました。レアル・プランは、アルゼンチンのコンバティビリティ・プランと比較して、通貨発行の柔軟性が高く、外貨準備の減少リスクを抑える政策でした。重要なキーワード:ブラジル、レアル・プラン、経済安定化、インフレ抑制、為替アンカー型政策、外貨準備

3. MERCOSURの形成とアルゼンチン ブラジルの戦略 関税同盟化と対立

MERCOSURの形成は域内貿易拡大に貢献しましたが、加盟国は関税同盟化に向けた交渉を進め、1994年12月には関税同盟として発足しました。ラテンアメリカのおよそ半分を占める市場が誕生したのです。域内関税は多くの品目で撤廃され、域外共通関税が適用されました。しかし、アルゼンチンとブラジル間の貿易で大きなシェアを占める自動車部門は例外となり、関税同盟発足当初の品目数ベースでのカバー率の高さは必ずしも重要な意味を持ちませんでした。関税同盟をめぐる両国の対立は、両国企業の域内覇権争いというよりも、外資の投資・立地先をめぐる争いでした。特に自動車部門では、ブラジルは国内産業を一定程度温存しつつ外資による競争力強化を図り、アルゼンチンは貿易自由化により海外からの部品供給を確保した上で海外資本による工場建設を志向しました。この対立は、両国の経済調整がMERCOSURにも及んだことを示しています。重要なキーワード:MERCOSUR、関税同盟、アルゼンチン、ブラジル、貿易自由化、外資誘致、経済調整

VII.地域経済統合によるグローバル化過程の歪曲効果と経済開発

地域経済統合は、世界経済への統合プロセスを歪曲する効果を持ち、政府による開発政策の有効性を示唆する可能性があります。しかし、域外貿易障壁が高く、国際競争力の低い産業を育成するだけでは、過去の輸入代替工業化と同様の結果を招く可能性があります。地域経済統合は、資本移動を統合加盟国に有利に歪める可能性や、域外国に対する交渉力を強化する可能性を持ちます。重要なキーワード:地域経済統合、グローバル化、貿易障壁、国際競争力、資本移動、交渉力

1. MERCOSURの成立と関税同盟化 ブラジルとアルゼンチンの戦略的思惑

MERCOSURの成立は域内貿易拡大に寄与しましたが、その背景にはブラジルとアルゼンチンの異なる戦略的思惑がありました。両国は関税同盟化に向けた交渉を進め、1994年12月、ウルグアイ・パラグアイも加わって関税同盟が発足しました。これは、ラテンアメリカにおける広大な市場の形成を意味しました。域内関税は多くの品目で撤廃され、85%以上の品目に対して0%から20%の域外共通関税が設定されました。しかし、自動車部門など例外的に域内関税撤廃が遅れた分野もあり、発足当初のカバー率の高さは、必ずしも重要な意味を持つとは限りません。ブラジルとアルゼンチンは、域外からの投資を呼び込み、自国産業の競争力強化を目指していました。しかし、両国の経済状況や産業構造の違いから、関税同盟化をめぐる摩擦も発生しました。特に、自動車部品の貿易をめぐっては、ブラジルとアルゼンチンの間で数量制限などが導入されるなど、両国の経済調整がMERCOSURの統合過程に影響を与えました。重要なキーワード:MERCOSUR、関税同盟、ブラジル、アルゼンチン、域内貿易、域外共通関税、経済調整、産業政策

2. アルゼンチンとブラジルの経済政策 異なる安定化戦略

アルゼンチンは、メネム政権下で急激な民営化・自由化政策を採り、短期的には経済成長とインフレ抑制を達成しましたが、高い失業率や貿易赤字などの問題も引き起こしました。一方、ブラジルは、レアル・プランによる為替レート維持を軸とした安定化政策を採り、外資流入の確保に力を入れていました。両国の経済政策の違いは、MERCOSURの統合過程にも影響を与えました。例えば、共通関税率の設定をめぐっては、アルゼンチンは低い水準を、ブラジルは高い水準を主張し対立しました。これは、アルゼンチンが安価な輸入品の流入による経済安定化政策の一環として貿易自由化を進めていたのに対し、ブラジルは自国産業の保護を重視していたためです。両国の異なる経済政策とMERCOSUR統合の進展過程の相互作用が、統合の成功に影響を与えた重要な要素となりました。重要なキーワード:アルゼンチン、ブラジル、MERCOSUR、経済安定化、貿易自由化、レアル・プラン、為替レート、共通関税率

3. MERCOSURにおける外資の役割と両国の戦略的差異 自動車産業を事例に

アルゼンチンとブラジルのMERCOSURにおける戦略的差異は、自動車部門において顕著に現れました。ブラジルは国内自動車産業を一定程度温存しつつ、外資による競争力強化を目指しました。一方、アルゼンチンは貿易自由化により海外からの部品供給を確保し、海外資本による工場建設を推進しました。両国の異なる戦略は、関税同盟化をめぐる対立を引き起こしました。1990年代前半はアルゼンチンへの外資の進出が目立ちましたが、ブラジルは自動車輸出への数量制限を導入するなど対応しました。ブラジルは、域外共通関税の引き上げや例外品目の拡大を要求し、アルゼンチンも域外輸入品への統計税を課すなど、テキーラ効果を受けた経済の不安定化が、自由化の流れを停滞・逆転させ、域内統合過程にも動揺を与えました。重要なキーワード:MERCOSUR、ブラジル、アルゼンチン、外資、自動車産業、域内関税、貿易自由化、テキーラ効果