HOKUGA: 当事者主義的民事訴訟運営と制裁型スキームに関する一考察(七) : 日本民事訴訟法の当事者照会とアメリカ連邦民事訴訟規則の質問書を素材として

当事者照会と制裁:日米民事訴訟比較

文書情報

学校

北研 (Hokuken)

専攻 法学 (Law)
文書タイプ 論文 (Article/Paper)
言語 Japanese
フォーマット | PDF
サイズ 2.26 MB

概要

I.アメリカ連邦民事訴訟規則におけるディスカバリと制裁 日本民事訴訟法との比較

本論文は、アメリカ連邦民事訴訟規則(FRCP)におけるディスカバリ手続きと、それに伴う制裁スキームを詳細に分析し、日本の民事訴訟における当事者主義の実現に向けた当事者照会制度の有効性向上について考察する。特に、FRCP Rule 37における強制命令の申立てや、Rule 26におけるディスカバリの範囲と負担、そしてRule 37における様々な制裁(訴訟却下、懈怠判決、費用償還など)の適用基準に焦点を当て、日本における証拠開示手続きの改善に繋がる示唆を得ることを目的とする。FRCP Rule 37は、ディスカバリへの不応答に対する強制命令の申立てを規定し、その不遵守に対する制裁として、費用償還、訴訟却下懈怠判決などを認めている。 本論文では、これらの制裁の適用基準や、不遵守当事者への責任の所在、そしてディスカバリの濫用防止について検討する。 日本の当事者照会制度を効果的に運用するための制裁導入の可能性についても議論する。

1. アメリカ連邦民事訴訟規則 FRCP Rule 37 強制命令と制裁

このセクションでは、FRCP Rule 37に焦点を当て、ディスカバリ要求に対する不完全な回答があった場合の対応について論じている。当事者は、適切な回答を強制するための強制命令の申立てをしなければならないと規定されている。この強制命令の申立てに先立ち、当事者間で非公式な解決を試みることを求める規定は、1993年のFRCP改正時に採用された。一部の裁判所は、申立人が相手方との協議を試みなかったことを免責する場合もある。さらに、十分な理由があれば、裁判所は訴訟に関連する全ての事項についてディスカバリを命じることができ、その重要性と費用負担のバランスを考慮する。また、ディスカバリ要求の情報が関連性を満たしていることを申立人が裁判所に納得させれば、ディスカバリ義務を争う当事者に費用償還の制裁が課せられる可能性がある。ただし、費用償還が不当となる場合もあり、その判断基準については判例が少ない。強制命令の不遵守に対する制裁は、当事者または代理人弁護士に科せられる可能性があり、申立書による手続きが必要となる。当事者の不利益は制裁の必須条件ではなく、司法運営の観点から判断される。裁判所は関連要素を総合的に考慮し、事実審裁判所の判断に明白な誤りがあった場合にのみ、最も厳しい制裁を科すべきであるとされている。連邦最高裁判所は、代理人弁護士の過失を理由とする原告訴状の却下は依頼者への不当な罰であるとの考えを排除しており、不遵守当事者が重大な過失を負う限り、FRCP Rule 37の抑止目的は最も厳しい制裁を正当化しうることを示唆している。連邦地方裁判所は、訴訟の却下や懈怠判決といった制裁に訴える前に、事前に警告を与えるべきであると判示している。具体的な制裁の種類としては、費用償還、裁判所侮辱、証言録取の禁止などが挙げられる。

2. アメリカ連邦民事訴訟規則 FRCP Rule 26 ディスカバリの範囲と負担

FRCP Rule 26は、ディスカバリの範囲と負担について規定している。裁判所は、十分な理由があれば、訴訟中に含まれる係争事項に関連する全ての事項についてディスカバリを命じることができる。ただし、提案されているディスカバリの負担と費用が、想定される利益を上回る場合は、その範囲を限定する可能性がある。ディスカバリによって要求されている情報が関連性の要件を満たしていることを、申立人が裁判所を納得させることができれば、ディスカバリ義務を争う当事者に費用償還などの制裁が科せられる可能性がある。しかし、その他の事情により費用償還が不当となる場合もあり、その判断基準は判例において十分に議論されていない。 このルールは、ディスカバリの範囲を明確にするだけでなく、当事者間のコミュニケーションと協力を促進し、裁判所に提出される申立ての数を削減することを目的としている。 1993年のFRCP改正では、ディスカバリ義務の履行に関する紛争を非公式に解決するための試みを要求する規定が追加された。これは、以前から存在していた同様のローカルルールを反映したものであるが、一部の裁判所は、申立人が相手方との協議を試みなかったことを免責する場合もある。

3. 日本民事訴訟法における当事者照会とアメリカ連邦民事訴訟規則との比較検討

このセクションは、アメリカ連邦民事訴訟規則のディスカバリ手続きと制裁、そして日本の民事訴訟における当事者照会制度を比較検討している。特に、日本の民事訴訟における当事者主義的訴訟運営の実現のため、当事者照会の実効化を図るために制裁を新設することの必要性を論じている。 日本の第一審民事訴訟手続は近年迅速化が進み、その要因の一つとしてIssue Management Proceduresの活用が挙げられる。しかし、当事者と弁護士が自主的に事実や証拠を提示せず、裁判所に依存する傾向があるとの批判もある。そのため、当事者と弁護士の主導による訴訟運営(アドバーサリアル・プロセス)の必要性が指摘されており、その実現のための基盤として当事者照会制度の強化が議論されている。 アメリカにおけるディスカバリと制裁のスキームは、日本の当事者照会制度の改善に役立つ知見を提供する。特に、ディスカバリ不遵守に対する様々な制裁(費用償還、訴訟却下、懈怠判決など)の適用基準や、それらの制裁が司法運営に及ぼす影響は、日本の当事者照会制度に制裁を導入する際の重要な参考となるだろう。

II.ディスカバリ不遵守に対する制裁の現状と課題

アメリカにおけるディスカバリ不遵守に対する制裁は、比較的厳格である。訴訟却下懈怠判決といった重い制裁も、当事者の故意や重大な過失が認められる場合に科せられる。しかし、制裁の適用にあたっては、裁判所は、当事者の行動の正当性、ディスカバリ要求の妥当性、そして制裁の過酷さなどを慎重に考慮する必要がある。 裁判所による強制命令の不遵守が、訴訟却下懈怠判決といった厳しい制裁に繋がるケースもある一方、当事者の状況やディスカバリ要求の妥当性を考慮した、より穏やかな制裁(例えば、費用負担の命令)が適用されるケースもある。Wilson v. Argon AgencyFDIC v. Connerなどの判例は、これらの判断基準を示している。これらの判例を通して、ディスカバリ不遵守に対する制裁の適用においては、個々の事案における事実関係や状況を総合的に判断することが重要であることがわかる。

1. ディスカバリ不遵守に対する制裁の種類と厳格性

アメリカ連邦民事訴訟規則(FRCP)では、ディスカバリへの不遵守に対して、様々な制裁が科せられる。FRCP Rule 37は、強制命令の不遵守に対する制裁として、費用償還、訴訟の却下、懈怠判決などを規定している。これらの制裁は、不遵守の程度や当事者の故意、重大な過失の有無などを考慮して、裁判所が判断する。訴訟の却下や懈怠判決は、極めて厳しい制裁であり、軽微な違反に対して適用されることは少ない。 しかし、裁判所がこれらの厳しい制裁を科す際には、当事者の行為の正当性、ディスカバリ要求の妥当性、制裁の過酷さなどを総合的に考慮する必要がある。例えば、原告によるディスカバリの濫用が組織的なパターンとして証明される場合、連邦地方裁判所は訴訟を却下する裁量権を濫用していないと判断されるケースもある一方、原告が憲法修正第5条の異議を撤回しなかったことや被告の質問書に回答しなかったことを理由とする訴訟却下は、過酷な制裁として認められない可能性もある。 また、連邦地方裁判所は、訴訟の却下や懈怠判決といった制裁に訴える前に、事前に警告を与えるべきであるとの判示もある。

2. 制裁適用における裁判所の裁量と考慮事項

裁判所は、ディスカバリ不遵守に対する制裁を科す際に、様々な要素を考慮する必要がある。当事者の不利益は、制裁を科すための本質的な前提条件ではない。司法の運営のため、たとえ違反が他の当事者の権利に不利益に影響したことが明らかでない場合であっても、制裁が科せられる可能性がある。 審理を行う裁判所は、全ての関連要素を考慮した上で、事実審裁判所が明白な誤りを犯したと確信した場合にのみ、制裁を科すべきである。違反した当事者が基礎となるディスカバリ命令に従わなかった場合、よりはなはだしい結果の警告を伴うべきであるとされている。連邦最高裁判所は、代理人弁護士の免責されない行為を理由とする原告の訴状の却下は、依頼者に対する不当な罰であるとの概念を排除している。しかし、不遵守当事者が重大な過失の責任を負う限り、FRCP Rule 37の広範かつ一般的な抑止目的は、最も厳しい制裁を正当化しうる。 費用償還に関しても、その他の事情により不当となる場合があり、その証明責任はディスカバリの応答を懈怠した当事者に課せられる。

3. 関連判例による分析 制裁適用基準の解釈

いくつかの判例が、ディスカバリ不遵守に対する制裁の適用基準を示している。Wilson v. Argon Agency, Inc. (262 F.R.D. 561 (D. Nev. 2010))は、相手方との協議の試みがなかったことを免責理由とする裁判所の判断を示している。FDIC v. Conner (20 F.3d 1376 (5th Cir. 1994))では、被告が継続的かつ故意にディスカバリに抵抗し、誤解させる回答を提供した場合の制裁について論じられている。United States for use of Wiltec Guam v. Kahaluu Constr. Co. (857 F.2d 600 (9th Cir. 1988))では、事実審裁判所がより厳しい制裁を考慮せずに訴訟却下に至らなかった理由の議論が不足していたと指摘されている。Simmons v. Abruzzo (49 F.3d 83 (2d Cir. 1995))は、原告によるディスカバリの濫用にもかかわらず、連邦地方裁判所が実体的な効果を伴う却下の制裁を拒絶した事例である。 これらの判例は、制裁の適用において裁判所の裁量権の行使と、個々の事案における事実関係の慎重な検討が不可欠であることを示している。

III.日本における当事者主義的訴訟運営と制裁の必要性

日本の民事訴訟においては、当事者主義の徹底が課題となっている。当事者照会制度は、当事者主義を促進するための重要な手段であるが、その実効性を高めるためには、不応答に対する効果的な制裁が必要となる。本論文では、アメリカにおけるディスカバリ制裁スキームを参考に、日本の当事者照会制度に制裁を導入することの有効性について論じる。 具体的には、不応答または不完全な応答に対する制裁として、費用負担、訴訟却下、もしくは懈怠判決といった様々な制裁の可能性を検討する。これらの制裁の導入により、当事者証拠開示への積極的な協力を促し、民事訴訟の迅速化と公正性の向上に資すると考えられる。

1. 当事者主義と訴訟運営の現状 日本民事訴訟の課題

日本の民事訴訟における当事者主義的訴訟運営の現状と課題について、本論文は考察している。過去12年間、日本の地方裁判所の第一審民事訴訟手続は迅速化が進んでいるが、その主要因の一つとしてIssue Management Procedures(事件管理手続)の頻繁な活用が挙げられる。しかし、一部の民事訴訟法学者、裁判官、実務家は、日本の民事訴訟において、裁判官が積極的に事件管理を行う一方で、当事者及び弁護士が自発的に主張を裏付ける事実や証拠を提示せず、事件管理手続において裁判官に依存している点を指摘している。この状況は、当事者と弁護士の主導による訴訟運営(アドバーサリアル・プロセス)の不十分さを示唆しており、より当事者主導の訴訟運営を実現するための様々な基盤整備が求められている。

2. 当事者照会制度の現状と課題 実効性向上のための提案

当事者主義的訴訟運営を実現するための基盤として、当事者照会制度の有効性向上に焦点を当てている。現状では、当事者照会制度が十分に機能していない可能性があり、その実効性を高めるために制裁の導入が必要だと主張している。 アメリカ連邦民事訴訟規則におけるディスカバリ手続きと制裁スキームを参考に、日本の当事者照会制度に制裁を導入する可能性を検討している。 具体的には、当事者照会への不応答または不完全な応答に対する制裁として、費用負担、訴訟の却下、あるいは懈怠判決といった様々な制裁の可能性について考察している。これらの制裁の導入は、当事者の証拠開示への積極的な協力を促し、民事訴訟の迅速化と公正性の向上に資すると期待されている。

3. アメリカのディスカバリ制度からの示唆 制裁導入の具体例

アメリカ連邦民事訴訟規則におけるディスカバリ制度とその制裁スキームを、日本の当事者照会制度の改善に役立つ事例として分析している。特に、FRCP Rule 37における強制命令とそれに伴う制裁(費用償還、訴訟却下、懈怠判決など)の運用実態が詳しく検討されている。 これらの制裁の適用基準、不遵守当事者への責任の所在、そしてディスカバリの濫用防止策について、アメリカにおける判例を分析することで、より詳細な理解を目指している。 アメリカにおけるディスカバリ制度の経験は、日本の当事者照会制度に制裁を導入する際の参考となる貴重な知見を提供する。 効果的な制裁システムの構築は、当事者の権利と義務の明確化、裁判所の迅速かつ公正な判断の両立に不可欠であり、結果として日本の民事訴訟の効率性と信頼性の向上に貢献すると期待されている。