
戦後高等教育改革史:2016-2019年
文書情報
著者 | 木村 和範 |
学校 | 北海学園大学 |
専攻 | 高等教育 |
文書タイプ | 参考資料 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 25.94 MB |
概要
I.日本の高等教育改革 2016 2022年の主要政策と動向
この資料は、2016年から2022年にかけて実施された日本の高等教育改革に関する重要な政策と出来事を時系列でまとめたものです。高等教育改革、大学改革、教員養成、学生支援といったキーワードが中心テーマとなります。主な政策としては、専門職大学院の設立・強化、給付型奨学金制度の導入、大学入学共通テストの実施、高等教育の無償化に向けた取り組みなどが挙げられます。私立大学の定員管理や、23区における大学定員の抑制に関する議論も含まれています。さらに、Society 5.0に向けた人材育成や、教育の情報化、働き方改革といった社会情勢の変化を踏まえた教育政策の変遷も重要なポイントです。 これらの政策は、日本の高等教育の質的向上と多様化、そして社会ニーズへの対応を目指したものでした。具体的な数値データや大学名などは、後続のセクションで詳細に記述します。
1. 給付型奨学金制度の導入と高等教育の経済的支援
2016年から2022年にかけて、高等教育における経済的支援策として給付型奨学金制度の導入が大きな焦点となりました。2018年には制度が正式に発足し、年収380万円未満の世帯を対象とした授業料減免措置なども閣議決定されました(「未来への投資を実現する経済対策」、「ニッポン一億総活躍プラン」)。これは、経済的理由により高等教育へのアクセスが制限されている学生に対する支援強化を目的としています。日本学生支援機構法の一部改正もこの政策に関連しており、経済的負担の軽減による高等教育機会の拡大を目指した重要な施策と言えるでしょう。 さらに、「高等教育無償化」支援事業も開始され、実務家教員や外部理事の割合など、対象要件が議論されました。日本私立大学連盟からは、23区規制を含むこれらの要件が私立大学の特性と自主性を脅かすと批判の声が上がっています。この経済的支援策は、学生の学習環境の改善と、高等教育の質向上に大きく貢献すると期待されました。
2. 大学入試改革と大学入学共通テスト
大学入試改革においては、2020年度から大学入学共通テストが導入されました。文部科学省は「高校生のための学びの基礎診断」「大学入学共通テスト実施方針」を発表し、平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに関する予告も行われました。英語民間試験の導入も検討され、英検(新型)、TOEICなどが採用候補として公表されましたが、2023年度入試までは共通テストでも英語が実施されることになりました。大学入試センターが中心となり、試行調査(プレテスト)も複数回実施されました。これらの改革は、入試制度の公平性・透明性向上、多様な能力評価などを目指したものですが、英語民間試験の導入については様々な議論を呼びました。入試制度の改革は、高校教育との連携強化、学生の学びの質の向上にも影響を及ぼす重要な政策です。
3. 専門職大学院の設置と高度専門職業人養成
高度専門職業人養成機能の充実強化のため、専門職大学院の設置・強化が推進されました。中央教育審議会大学分科会大学院部会専門職大学院ワーキンググループの提言(中教審専門職大学院WG提言)に基づき、専門職大学院を中核とした教育体制の構築が進められました。専門職大学及び専門職短期大学の制度化も学校教育法の一部改正によって実現しました。専門職大学院の専任教員要件の緩和、専門職大学院と学士課程・修士課程との連携強化、法科大学院の入学者選抜に関する努力義務の要件緩和などが検討され、関連する規程整備が行われています。これにより、実践的なスキルを備えた高度専門職業人の育成を目指し、社会のニーズに対応した人材育成システムの構築が目指されました。
4. 大学改革 大学運営 および大学連携
高等教育の在り方改革においては、大学の連携・統合の推進、学部・研究科の枠を超えた学位プログラムの策定、リカレント教育の充実などが重要な課題とされました。中央教育審議会は、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」を答申し、大学設置基準と認証評価制度の抜本的な見直し、実務家教員や外部理事の増員など、大学運営に関する様々な改革が検討されました。大学等連携推進法人(仮称)の設置案が中央教育審議会に提示され、国立大学法人の運営形態の見直し(アンブレラ方式)なども議論されました。また、私立大学等の学長決定や学則変更に関する届出事項の変更、私立大学が行う受託研究の要件緩和など、私立大学の運営にも様々な改革が加えられました。東京23区における大学定員の抑制も重要な論点であり、大学改革は、高等教育の競争力強化と社会のニーズへの対応を目的としていました。
5. 教員養成 研修 働き方改革 その他の教育関連政策
教員養成・研修機能の強化、教職員の働き方改革も重要な政策課題でした。教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に関する有識者会議の報告書が発表され、国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革が検討されました。教員資格、授業担当時数の明示化も進められました。教育公務員特例法の一部改正により、教職員支援機構(教員研修センターの改称)が設立されました。学校における働き方改革に関する総合的な方策も中央教育審議会で検討されました。 その他、教育の情報化に伴う情報セキュリティの確保、地域学校協働計画の推進、国際バカロレアを中心としたグローバル人材育成、消費者教育の指針改訂、学校司書のモデルカリキュラムの改正など、多岐にわたる教育関連政策の動向が示されています。Society 5.0に向けた人材育成、遺伝子組換え生物等の使用規制の遵守徹底なども、教育政策と密接に関連する重要な事項として挙げられています。
II.専門職大学院の設置と高度専門職業人養成
専門職大学院の充実・強化は改革の中核をなしました。中央教育審議会等の答申に基づき、高度専門職業人の養成体制整備が進められました。専任教員要件の緩和や、学士課程・修士課程との連携強化なども検討されました。関連法規の整備や、中教審専門職大学院WG提言の内容が重要な要素です。
1. 専門職大学院の設置と高度専門職業人養成政策の背景
この資料は、専門職大学院を中心とした高度専門職業人養成の政策動向を記述しています。まず、中央教育審議会答申(「個人の能力と可能性を開花させ,全員参加による課題解決社会を実現するための教育の多様化と質保証の在り方について」)において、実践志向の専門職業人養成のための新たな高等教育機関の設置が提言されたことが挙げられます。これは、社会のニーズに応じた高度な専門性を有する人材育成の必要性から生まれた政策です。 その後、中央教育審議会大学分科会大学院部会専門職大学院ワーキンググループ(以下、中教審専門職大学院WG)が「専門職大学院を中核とした高度専門職業人養成機能の充実・強化方策について」と題する提言をまとめました。この提言は、専門職大学院の設置基準、専任教員要件、学士課程・修士課程との連携など、具体的な政策の方向性を示しています。 これらの動きは、高度な専門知識と実践力を兼ね備えた人材の育成が、日本の社会経済の発展に不可欠であるという認識に基づいています。
2. 専門職大学院に関する具体的な政策と制度改革
中教審専門職大学院WG提言を踏まえ、専門職大学院の設置基準に関する規定が整備されました(「専門職大学院設置基準の制定等について」中央教育審議会答申)。これは、専門職大学院の質保証と、教育内容の適切性を担保するための重要なステップでした。さらに、専門職大学院の専任教員要件の緩和、専門職大学院と学士課程・修士課程との連携強化、法科大学院の入学者選抜に関する努力義務の要件緩和といった具体的な政策が実施されました。これらの改革は、中教審専門職大学院WG提言(2016年10月)に基づいて行われ、2019年には専門職大学及び専門職短期大学の制度化も実現しています(学校教育法の一部改正)。大学設置基準及び短期大学設置基準の一部改正により、大学及び短期大学における専門職学科に関する規定も整備されました。これらの政策により、専門職大学院の教育の質を高め、社会のニーズに柔軟に対応できる高度専門職業人養成システムの構築が目指されました。
III.高等教育の無償化と学生支援
低所得世帯への授業料・入学金減免と給付型奨学金の支給拡大を目指した高等教育の無償化政策が推進されました。日本学生支援機構が中心となり、制度設計と実施が図られました。年収380万円未満の世帯を対象とした授業料減免措置なども重要な施策です。これらの施策は、経済的理由による高等教育へのアクセスの障壁を低減することを目指しました。
1. 給付型奨学金制度の導入と経済的支援策
資料によると、高等教育における経済的支援策として給付型奨学金制度の導入が重要な政策課題として挙げられています。「未来への投資を実現する経済対策」(閣議決定)や「ニッポン一億総活躍プラン」(閣議決定)において、給付型奨学金制度の創設が検討され、2018年には制度が正式に発足しました。これは、経済的な理由で高等教育を受けられない学生を支援し、高等教育の機会均等を促進するための重要な政策です。 さらに、年収380万円未満の世帯を対象とした大学等の授業料減免も「未来投資戦略」(閣議決定)として実施されています。 これらの施策は、独立行政法人日本学生支援機構法の一部改正など、関連法規の整備を伴いながら進められました。しかしながら、「高等教育無償化」支援事業の対象要件(実務家教員、外部理事の割合など)や「23区規制」については、日本私立大学連盟から私立大学の特性と自主性を脅かすと批判が出ている点が注目されます。
2. 高等教育無償化に向けた取り組みと課題
高等教育の無償化に向けた取り組みとして、「高等教育無償化」支援事業が文部科学省によって実施されました。この事業は、低所得世帯層への授業料・入学金の減免と給付型奨学金の支給を柱としています。 しかし、この支援事業の具体的な内容や対象要件をめぐっては、様々な議論がなされました。特に、日本私立大学連盟は、支援事業の対象要件や「23区規制」が私立大学の特性と自主性を脅かすと批判しています。 これは、高等教育無償化の推進と私立大学の自律性を両立させるための政策設計における課題を示唆しています。 資料からは、高等教育無償化の制度設計、実施に向けた政府の方針と、大学関係者からの意見、懸念が複雑に絡み合っていることが読み取れます。
IV.大学入学共通テストと入試改革
大学入試制度改革の一環として、大学入学共通テストが導入されました。英語民間試験の活用(その後見送りに)や、入試制度の見直し、高校教育との接続といった課題が議論されました。大学入試センターが中心的な役割を果たしました。
1. 大学入学共通テストの導入と実施
大学入試改革の一環として、2020年度から大学入学共通テストが導入されました。文部科学省は「高校生のための学びの基礎診断」「大学入学共通テスト実施方針」及び「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに関する予告」を発表し、大学入試センター試験に代わる新たな入試制度として位置づけられました。大学入試センターが中心となり、テストの実施、英語民間試験の選定・公表(英検(新型)、TOEICなど)を行いました。ただし、2023年度入試までは共通テストでも英語が実施されることになっています。 この共通テスト導入は、入試制度の公平性・透明性向上、多様な能力評価などを目指した改革の一環であり、高校教育との連携強化や学生の学びの質の向上にも影響を与える重要な政策です。複数回のプレテスト(試行調査)も実施され、導入に向けた準備が綿密に行われたことがわかります。
2. 英語民間試験導入とその後
大学入学共通テスト導入にあたり、英語の民間試験の活用が検討され、英検(新型)、TOEICなどが採用候補として公表されました。しかし、この英語民間試験の導入については、公平性や情報格差、地方における受験機会の確保などの課題が指摘され、多くの議論を呼びました。国立大学協会総会においては英語民間試験導入が了承されましたが、資料からは、この導入に関する様々な意見や懸念が反映されていることが伺えます。最終的には、2023年度入試までは共通テストでも英語が実施されるという対応が取られましたが、この経緯は大学入試改革における複雑な要素と、関係者の様々な立場を反映した結果と言えます。
V.大学改革と大学運営
大学統合・再編、大学設置基準の見直し、認証評価制度の改善、産学連携の強化といった大学運営に関する改革が推進されました。私立大学の定員管理、特に23区における定員抑制問題は重要な論点であり、文部科学省、日本私立学校振興・共済事業団などが関係しました。大学間の連携推進や、学部横断的な学位プログラムの導入なども検討されました。
1. 大学の定員管理と23区規制
資料には、大学改革の一環として、大学定員管理に関する記述が複数あります。2017年には東京23区における大学の定員増が不認可となり(「まち・ひと・しごと創生基本方針2017」閣議決定)、その後も東京都23区の大学定員抑制が「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)」で継続的に決定されています。 私立大学の定員管理については、文部科学省と日本私立学校振興・共済事業団の共同通知で、強化の見送りが決定され、一定期間は2018年度と同様の基準が維持されました。入学定員充足率が1.0倍を超える場合の学生経費の減額措置や、充足率が1.0倍以下の場合の増額措置など、具体的な定員管理に関する規定も存在します。これらの措置は、平成28年度から平成30年度にかけて段階的に実施され、三大都市圏における入学定員超過の改善や、三大都市圏以外の地域における入学定員未充足の改善に一定の効果が見られたとされています。しかし、高等教育無償化支援事業の対象要件として設けられた「23区規制」は、日本私立大学連盟から批判を受け、私立大学の特性と自主性を脅かすと指摘されています。
2. 大学統合 再編と大学連携の推進
大学改革においては、大学統合や再編も重要なテーマとして扱われています。文部科学省は、大学統合、大学再編等のために「大学等連携推進法人(仮称)」の設置案を中央教育審議会に提示しました。これは、大学の連携・統合を促進するための仕組みづくりの一環として考えられています。 中央教育審議会は、「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」において、学部、研究科の枠を超えた学位プログラムの策定、リカレント教育の充実、大学連携・統合の推進などを提言しています。 具体的な方法としては、「大学等連携推進法」(仮称)の制定による大学連携、「アンブレラ方式」による国立大学運営、私立大学による学部譲渡などが検討されています。これらの大学改革は、大学間の連携強化、教育資源の効率的な活用、高等教育の競争力強化などを目指しています。 大学設置基準や認証評価制度の抜本的な見直しなども、これらの改革と関連して議論されています。
3. 大学におけるその他改革
大学改革は、定員管理や連携・統合以外にも、様々な側面で進められています。大学設置基準の一部改正では、教員と事務職員等の連携及び協働を促進するため、専任職員を配置する事務組織の設置が盛り込まれています。私立大学が行う受託研究の要件緩和(法人税法施行令の一部改正)も、大学の研究活動を活性化させるための施策として挙げられます。 また、「新しい時代の教育に向けた接続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(中央教育審議会中間まとめ)は、大学運営における働き方改革への取り組みを示唆しており、大学における産学連携の充実強化に関する検討会最終会合(「イノベーションシステムにおける大学の研究成果の活用推進に資する技術異端機能等の最適化に向けて」)の結果が発表されていることも注目されます。これらの多様な改革は、大学の機能強化と社会への貢献を同時に目指していると言えます。
VI.教員養成と教職員の働き方改革
教員養成、教員研修の在り方の見直し、教職員の働き方改革も重要なテーマでした。教員需要の減少期における教員養成・研修機能強化のための議論が行われ、教員養成機関の改革なども検討されました。教員資格、授業担当時数の明示化なども関連する動きです。
1. 教員養成 研修機能の強化と教員政策
資料によると、教員養成・研修機能の強化は、特に教員需要の減少期において重要な課題として認識されています。「教員需要の減少期における教員養成・研修機能の強化に向けて」(国立教員養成大学・学部、大学院、附属学校の改革に関する有識者会議報告)では、国立教員養成機関の改革を含む、教員養成・研修システムの抜本的な見直しが行われています。 教職課程の再課程認定に関する説明会も文部科学省によって開催されており、教員養成の質向上に向けた取り組みが継続的に行われていることが分かります。 また、教育公務員特例法の一部改正により、教員研修センターは教職員支援機構に改称され、教員の研修体制強化が図られています。教員資格や授業担当時数の明示化(「大学入学のための準備教育課程の指定等に関する規程の一部改正」文部科学省告示)なども、教員養成・配置に関する政策の一環として位置付けられます。これらの施策は、質の高い教育の提供を担保するための教員の育成と能力開発に焦点を当てています。
2. 学校における働き方改革と教職員の連携
学校現場における働き方改革も、教員養成・研修と並んで重要な課題として取り上げられています。「新しい時代の教育に向けた接続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について」(中央教育審議会中間まとめ)では、学校における働き方改革に関する総合的な方策が検討され、教職員の負担軽減と業務効率化が目指されています。 大学設置基準の一部改正では、教員と事務職員等の連携及び協働を促進するため、専任職員を配置する事務組織の設置が規定されました。これは、教職員間の協調体制の強化を通じて、教育現場の改善を目指す取り組みです。 また、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令」も、学校現場の働き方改革に関連する動きとして挙げられます。これらの政策は、教職員の労働環境改善と、教育の質向上を両立させることを目指しています。