
熱力学入門:圧力、仕事、温度の基礎
文書情報
著者 | 菊池誠 |
専攻 | 熱力学 |
文書タイプ | 入門書 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 190.52 KB |
概要
I.永久機関と熱力学の法則
この文書は、永久機関の実現不可能性を熱力学第一法則(エネルギー保存則)と熱力学第二法則に基づいて解説しています。第一種永久機関はエネルギーを無から生み出すため不可能であり、第二種永久機関も、エネルギー保存則には反しないものの、エントロピー増大の法則により実現不可能です。これらの法則が、現代の環境問題やエネルギー問題と深く関わっていることを強調しています。
1. 永久機関の定義と実現不可能性
文書はまず、外部から動力やエネルギーを加えることなく動き続ける機械を永久機関と定義しています。これは、エネルギー保存則に反するため実現不可能だと明確に述べています。 特に、エネルギーを無から生み出す第一種永久機関は、エネルギー保存則(熱力学第一法則)に直接反するため、いかなる工夫を凝らしても実現不可能であると断言しています。文章では、この実現不可能性を論理的に説明し、エネルギー保存則の普遍性を強調しています。 また、外からエネルギーを与えて、それ以上のエネルギーを取り出そうとする試みも、やはりエネルギー保存則によって阻まれていると指摘しています。 この節全体を通して、永久機関という概念を明確に定義し、それがエネルギー保存則という基本的な物理法則に反するため、実現不可能であるという結論が導き出されています。 この基礎的な理解が、続く熱力学第二法則の導入へと繋がっていく重要な役割を果たしています。
2. 熱力学第二法則と永久機関の不可能性
エネルギー保存則だけでは説明できない永久機関の実現不可能性を説明するために、熱力学第二法則が導入されています。 たとえエネルギー保存則を満たすとしても、エネルギーを消費せずに動き続ける装置(第二種永久機関)は、熱力学第二法則によって実現不可能であると述べられています。 これは、エネルギー保存則とは異なる、別の自然法則の存在を示唆しています。 熱力学第一法則(エネルギー保存則)と熱力学第二法則の両方が成立する限り、いかなる形態の永久機関も実現不可能であるという結論が導き出されています。 文章では、永久機関が実現不可能であることの根拠として、熱力学第二法則を明確に示し、その重要性を強調しています。 さらに、あらゆる機械は必ずエネルギー損失を伴うという事実から、熱力学の法則が現代の環境問題やエネルギー問題に深く関わっている点を指摘しています。この節は、永久機関の不可能性をエネルギー保存則に加え、熱力学第二法則という新たな視点から再確認し、その重要性を示唆することで締めくくられています。
II.熱と仕事 熱機関の原理
熱機関は熱エネルギーを仕事に変換する装置です。歴史的には蒸気機関が産業革命を牽引しましたが、現代ではガソリンエンジンやモーターが主流です。これらの熱機関は、ピストンとシリンダーの組み合わせが基本構造であり、熱力学の法則によってその効率が決定されます。熱による水の状態変化(気相、液相、固相)や、昇華などの現象も熱力学の重要な要素です。ランフォード伯の実験は、力学的仕事が熱に変わることを初めて明確に示しました。
1. 熱機関の定義と蒸気機関の歴史
このセクションでは、熱機関を熱を利用して仕事を行う装置として定義しています。 古代ギリシャのヘロンの自動ドアのような例も紹介しつつ、産業革命を牽引した蒸気機関の発明が、社会に大きな影響を与えたことを強調しています。 蒸気機関の発明を契機に、熱機関の効率向上を目指した研究が熱物理学の発展を促したと説明しています。 現代においてはガソリンエンジンやモーターといった熱機関が主流となっていますが、これらも熱物理学の原理に基づいて理解できると述べています。 つまり、熱機関の歴史的発展と、その技術的進歩が熱物理学の発展と密接に関連していることを示しています。 古代からの例から現代の技術までを俯瞰的に示すことで、熱機関という概念の広がりと、その重要性を強調しています。
2. 熱エネルギーの変換 身近な例から発電まで
熱エネルギーが力学的仕事に変換される具体的な例として、夏祭りの回り灯籠(走馬灯)が挙げられています。ろうそくの熱で温められた空気が上昇気流となり、羽根を回転させるという仕組みです。 さらに、台風を例に、大規模な上昇気流が気候に影響を与えることを示しています。 私たちの生活に欠かせない電気についても言及しており、発電所におけるタービンの回転を例に、水力、火力、原子力、風力発電など、様々な発電方法でタービンを回転させる力学的な仕事が、最終的に熱エネルギーから得られていると説明しています。 太陽電池は熱力学とは異なる原理に基づく例外として明確に区別されています。 日常的な現象から大規模な自然現象、そして現代社会の基盤を支える発電システムまで、熱エネルギーの多様な変換形態を示すことで、熱エネルギーの重要性を多角的に示しています。
3. 熱による物質の状態変化とランフォード伯の実験
熱が物質の状態を変える働きとして、水の三態変化(氷、水、水蒸気)を例に挙げています。 水はH₂O分子が集まったものでありながら、温度によって固体、液体、気体の異なる状態(相)を示すことを説明し、「相」という概念を導入しています。ドライアイスを例に、昇華という現象も説明しています。 また、アメリカ人ランフォード伯が、大砲の砲身製作時の摩擦熱を用いて水を沸騰させる実験を行い、力学的仕事が熱に変わることを近代科学で初めて実証した歴史的事実を紹介しています。 これは熱と仕事の等価性を示す重要な実験であり、このセクションの主題である「熱と仕事」の関連性を強く示唆しています。 この実験が、後の熱力学研究に大きな影響を与えたことを含む歴史的文脈を示すことで、科学的発見の過程と重要性を理解させる構成になっています。
III.圧力 体積 温度 そして仕事
このセクションでは、圧力、体積、温度といった状態量と、それらと仕事の関係を説明します。理想気体を例に、準静的過程や断熱過程といった熱力学的過程におけるエネルギー変化を分析し、内部エネルギーの変化と仕事の関係式を示しています。トリチェリの実験が紹介され、大気圧の測定方法とその原理が説明されています。
1. 圧力と仕事の定義 ピストンとシリンダー
このセクションでは、熱から仕事を取り出す基本的な装置としてピストンとシリンダーの組み合わせが紹介されています。 ニューコメンやワットの蒸気機関から現代のガソリンエンジンまで、様々な熱機関でこの構造が用いられていると説明されています。 ピストンとシリンダー内部の気体による圧力と、ピストンに加わる外力との関係が、仕事量を表す式ΔW = −PΔVで示されています。 ここで、Pはシリンダー内の気体の圧力、Vは体積を表し、式は外界の状況によらず気体自身の状態量だけで表されることに注意が促されています。 気体の体積が増加する際には、気体が外界に対して仕事をするという事実が、式の右辺のマイナス符号によって表現されていると解説されています。ピストンとシリンダーというシンプルな機構が熱機関の基礎であり、この基礎的な理解の上に後の議論が展開していくことを示唆しています。
2. 大気圧と圧力の性質 トリチェリの実験
私たちの周囲を満たす空気による圧力、大気圧(気圧)について説明されています。 大気圧は全方向に同じ大きさで作用し、高度によって変化する性質を持つと述べられています。 大気圧の起源は地球の引力であり、その地点より上にある空気全体の重さが及ぼす圧力であると解説されています。 トリチェリの実験が紹介され、水銀柱を用いた大気圧の測定方法と、その原理が簡潔に説明されています。 この実験は、大気圧という目に見えない力の存在とその大きさを定量的に示した重要な実験として位置づけられています。 大気圧の値は場所によって異なるものの、各地点では方向によらない(等方的)であるという性質も併せて説明されています。 大気圧という身近な現象を例に、圧力という物理量の概念を理解させ、それがどのように測定され、どのような性質を持つのかを説明しています。
3. 温度の単位と熱平衡状態
日常的に使われる摂氏温度(℃)と、物理学で用いられる絶対温度(K)の違いと関係性が説明されています。 摂氏温度は氷の融点と水の沸点を基準に定義されていますが、絶対温度は絶対零度を基準に、温度間隔が摂氏温度と同じになるように定義されています。 絶対温度を用いることで、熱力学的な議論がより明確になることが示唆されています。 また、外界の条件が一定に保たれた状態において、気体や液体がそれ以上変化しなくなる状態を熱平衡状態と定義しています。 温度計や冷蔵庫などを例に挙げて、熱平衡状態の概念を具体的に説明しています。 熱平衡状態にある二つの系について、温度と圧力が等しければ同じ熱平衡状態にあり、それらの体積や質量は足し合わせることができる一方、温度や圧力は変わらないという示強変数と、体積や質量のような示量変数の違いも説明されています。このセクションでは、熱力学における基本的な物理量である圧力、体積、温度の定義とその性質を整理し、熱平衡状態という重要な概念を導入することで、次のセクション以降の議論の基礎を築いています。
IV.内部エネルギーと熱容量
ジュールの羽根車の実験を通して、力学的仕事と熱の等価性が示され、内部エネルギーの概念が導入されます。断熱過程における仕事と内部エネルギーの関係、そして熱容量、比熱、モル比熱といった熱力学的性質が説明されています。断熱過程と等温過程といった異なる熱力学的過程の違いについても解説されています。
1. ジュールの実験と内部エネルギーの概念
このセクションでは、ジュールの羽根車を使った実験が紹介されています。この実験は、一定量の力学的仕事が水の温度上昇、すなわち熱エネルギーの増加に等しいことを示した重要な実験です。 実験装置は、おもりの落下による位置エネルギーの減少が、羽根車と水との摩擦によって熱に転換される仕組みになっています。 この実験を通して、熱と仕事が等価であること、そして内部エネルギーという概念が導入されます。 ジュールの実験は、断熱条件下で行われたと仮定することで、熱の出入りを考慮する必要がなくなり、解析が簡略化されると説明されています。 断熱条件下での力学的仕事や電気的仕事によって、一定体積の液体の温度を任意に上げられることが示されていると述べられています。ただし、この方法で温度を下げることはできないと補足されています。 ジュールの実験は、熱と仕事の等価性を示し、熱力学における内部エネルギーという重要な概念を理解する上で極めて重要な役割を果たしています。
2. 熱と仕事の換算 断熱過程と熱平衡状態
1グラムの水を1気圧下で14.5℃から15.5℃まで上げるのに必要な熱量を1カロリー(cal)とする単位が説明され、熱と仕事の換算率が示唆されています。 任意の二つの熱平衡状態間は、断熱過程での仕事によって必ず結びつけられると述べられていますが、その変化が双方向に自由に実現できるわけではないと注意書きがあります。少なくとも片方向への変化は可能であると補足説明があります。 断熱過程とは、外部との熱の出入りがない条件下で行われる過程であり、この条件下では、内部エネルギーの変化は外部から加えられた仕事に等しくなるという重要な関係式 U₂ − U₁ = W が示されています。 この関係式を用いることで、二つの熱平衡状態間の内部エネルギー差を、断熱過程での仕事量を測定することによって求めることができることが説明されています。 どのような過程を経たとしても、熱平衡状態間の内部エネルギー差は一定であることが強調されています。 このセクションでは、熱と仕事の等価性に基づいた内部エネルギーの定義と測定方法が提示され、熱力学における基本的な概念の理解を深めるための重要な情報が提供されています。
3. 熱力学的過程の種類と熱容量 比熱 モル比熱
熱力学的過程の種類として、準静的過程、可逆過程、急変過程、断熱過程、等温過程が説明されています。 準静的過程は平衡状態を保ちながらゆっくりと変化させる過程であり、現実には厳密な準静的過程は存在しないものの、ゆっくりとした変化であれば近似的に準静的過程とみなせるとしています。 可逆過程は、過程を逆にたどることによって元の状態に完全に戻せる過程です。準静的過程は可逆過程の特別な場合です。 一方、急変過程は外部条件を急激に変えた場合に起こる過程であり、過程の途中は非平衡状態となります。 断熱過程は外部と熱のやり取りがない過程、等温過程は温度一定の過程として定義されています。 温度一定の環境は熱源または熱浴と呼ばれます。 さらに、熱容量、比熱、モル比熱といった物質の熱的性質が説明され、比熱やモル比熱は物質固有の性質であると述べられています。 アボガドロ数とモルの概念も導入されています。 様々な熱力学的過程の定義と特性を明確に示し、物質の熱的性質を表す熱容量、比熱、モル比熱といった概念を導入することで、熱力学的な現象をより詳細に理解するための基盤が構築されています。
V.理想気体の状態方程式と断熱過程
このセクションでは、理想気体の状態方程式と断熱過程における温度変化、断熱自由膨張におけるエントロピー変化を計算を通して示しています。断熱線の方程式と等温線の方程式を比較し、それらがP-V図上どのように表されるかを説明しています。さらに、大気における準静的断熱膨張と気温の高度による変化について考察しています。
1. 断熱条件下での理想気体の温度変化
このセクションでは、1モルの理想気体の体積を断熱条件下で準静的に変化させた際の温度変化について論じています。断熱過程であるため、体積変化に伴う仕事分だけ内部エネルギーが変化します。微小体積変化ΔVに対する内部エネルギー変化は、断熱条件と準静的過程の仮定の下で計算されています。 この計算を通して、断熱過程における理想気体の温度と体積の関係式が導出され、断熱線の方程式が示されています。 等温線の方程式との比較もなされており、理想気体の断熱線と等温線、そして等圧線がP-V図上にどのように描かれるかが説明されています。 理想気体という単純化されたモデルを用いることで、断熱過程における熱力学的な挙動を明確に理解するための基礎的な関係式が導かれています。このセクションは、理想気体という単純な系を用いることで、断熱過程における重要な熱力学的関係式を導出することに重点が置かれています。
2. 準静的断熱膨張と気温の高度による変化
地表付近の大気温度が、地表の加熱による大気の膨張と上昇によって決定されるメカニズムが説明されています。 大気は熱の不良伝導体であるため、この膨張は準静的断熱膨張とみなせるとしています。 そのため、山に登ると高度が高くなるにつれて気温が下がる現象が、準静的断熱膨張によって説明されています。 大気を理想気体と仮定することで、気温の高度による変化率の計算方法が示されています。 この例を通して、熱力学の原理が、私たちの身近な自然現象を説明する上で有効であることが示されています。 具体的には、理想気体モデルを用いた計算によって、気温の高度変化率という定量的な予測が可能になることを示し、理論と現実世界との繋がりを示すことで、熱力学の応用範囲の広さを示唆しています。
3. 断熱自由膨張と不可逆過程
断熱自由膨張という現象が取り上げられています。これは、真空の容器と理想気体が封入された容器を繋ぎ、コックを開放することで気体が自由膨張する過程です。 この過程は、体積が急激に変化する急変過程であり、外部からの仕事は行われず、外部との熱のやり取りもない断熱過程であるため、熱力学第一法則より内部エネルギーは一定となります。 しかし、気体を元の状態に戻すには外部からの仕事が必要なため、この過程は不可逆過程であると説明されています。 この断熱自由膨張は、外部との仕事や熱のやり取りがない孤立系における自発的な変化の例として挙げられ、最終状態のエントロピーが初期状態よりも増大する過程であることが示唆されています。 このセクションは、理想気体における断熱自由膨張という具体例を用いて、不可逆過程とエントロピー増大の関係を理解するための導入として機能しています。
VI.カルノー機関と熱力学第二法則
カルノー機関(カルノーサイクル)は理想的な熱機関のモデルとして取り上げられ、その効率が高温熱源と低温熱源の温度によって決まることを示しています。可逆機関であるカルノー機関の効率は最大であり、すべての熱機関の効率はそれ以下であることが熱力学第二法則から導かれます。熱力学第二法則のクラウジウスによる表現とトムソンによる表現が紹介され、絶対零度への到達不可能性と永久機関の実現不可能性が説明されています。環境への廃熱排出の問題もこのセクションで議論されています。
1. カルノー機関 カルノーサイクル の効率
このセクションでは、理想的な熱機関としてカルノー機関(カルノーサイクル)が紹介されています。 カルノー機関は、高温熱源と低温熱源の間で熱をやり取りしながら仕事を行う循環過程であり、その効率が二つの熱源の温度だけで決まることが示されています。 具体的には、効率ηは η = 1 − TL/TH (TH:高温熱源の絶対温度、TL:低温熱源の絶対温度) の式で表され、高温熱源の温度を上げるか、低温熱源の温度を下げることで効率を高められると説明されています。 しかし、TH→∞やTL→0は実現不可能であるため、効率が1になることはないと結論付けられています。 この結論はカルノー機関に限らず、全ての熱機関に適用されると述べられています。現実のエンジンでは、低温熱源として外部環境を利用することが多く、必ず廃熱が環境に放出されると指摘されています。カルノー機関は準静的過程のみで構成される可逆機関であることも説明されています。可逆機関とは、サイクル運転後、逆向きに運転することで環境も含めて元の状態に戻せる機関です。
2. 熱力学第二法則と絶対零度の到達不可能性
熱力学第二法則が、自然界において熱が自発的に低温から高温へ移動することはないという観測事実を基礎として導入されています。 この法則は、クラウジウスとトムソンによる異なる表現が紹介されています。 与えられた温度の熱源を用いる熱機関の効率は、可逆機関であるカルノー機関の場合が最大であり、η = 1 − TL/TH であるとされています。 他の熱機関の効率は必ずこれよりも低いと説明されています。 熱力学第二法則の帰結として、絶対零度には決して到達できないことが示され、これは熱機関の効率が決して1にならないことを意味すると解説されています。 (η = 1となるには、低温熱源の温度TLを0にする必要があるため)。 よって、あらゆる熱機関は必ず廃熱を出し、エネルギー保存則を破らなくても永久機関は実現不可能であると結論づけられています。 このセクションでは、熱力学第二法則が環境問題やエネルギー問題と深く関わっていることを示唆し、その重要性を強調することで締めくくられています。
VII.エントロピーと熱力学第三法則
エントロピーという新たな状態量が導入され、その定義と性質が解説されています。エントロピーは熱力学第二法則と密接に関連しており、孤立系ではエントロピーは最大となる平衡状態へと変化することが説明されています。エントロピーのミクロな解釈にも触れられています。熱力学第三法則についても簡単に触れられています。ヘルムホルツ自由エネルギーとギブス自由エネルギーについても軽く説明されています。
1. エントロピーの導入と状態量としての性質
このセクションでは、エントロピーという新たな状態量が導入されています。 エントロピーは熱力学第二法則と深く関わっており、状態量であるため熱平衡状態でのみ定義される量であることが強調されています。 カルノー機関を用いて、任意の二つの状態間のエントロピー差が経路によらず一定であること、つまりエントロピー差が状態量であることが説明されています。 エントロピー差を定義するだけでは不便なため、内部エネルギーと同様に基準状態を設定し、その状態とのエントロピー差をSで表すことが提案されています。 内部エネルギーと異なり、絶対零度(0K)のエントロピーを基準として、物質によらない絶対的なエントロピー値を定義できることが、熱力学第三法則の帰結として簡単に触れられています。 このセクションでは、エントロピーという新たな状態量の概念を導入し、その性質と重要性を明確に示すことで、次のセクションでのより詳細な議論へと繋げています。
2. エントロピーのミクロな解釈と孤立系
1モルの理想気体のエントロピーが式で与えられ、その式における体積項が、容器の体積増加に伴うエントロピー増加を表していることが説明されています。 さらに、外部との熱や仕事のやり取りがない孤立系が考えられ、孤立系ではエントロピーは減少せず、熱平衡状態へ向かう自発的な変化のみが起こることが述べられています。 孤立系の熱平衡状態とは、与えられた条件下でエントロピーが最大となる状態です。 断熱自由膨張が孤立系における自発的変化の例として挙げられ、最終状態のエントロピーが初期状態よりも増大していることを示唆しています。 エントロピー変化の具体的な計算は練習問題として残されています。 このセクションでは、エントロピーのミクロな解釈に軽く触れ、マクロな熱力学的性質とミクロな状態との関連性を示唆しています。 特に、孤立系におけるエントロピー最大化の原理は、熱力学第二法則の重要な側面を理解する上で不可欠です。
3. 熱力学第三法則への言及と自由エネルギー
熱力学第三法則に触れられていますが、詳細は省略されています。 この法則の帰結として、温度0Kでのエントロピーを基準とした、物質によらない絶対的なエントロピー値を定義できることが示唆されています。 ヘルムホルツ自由エネルギーとギブス自由エネルギーについても軽く触れられていますが、内部エネルギーとエントロピー、そして温度、体積、圧力だけで熱力学の議論は十分であると述べられています。 これらの自由エネルギーは、断熱定積条件では内部エネルギーU、等温定積条件ではヘルムホルツ自由エネルギーF、等温定圧条件ではギブス自由エネルギーGを用いることで、より便利な議論が可能になるという説明にとどまっています。 このセクションは、熱力学におけるより高度な概念である熱力学第三法則と自由エネルギーに簡単に触れ、全体の議論の範囲を示す役割を果たしています。 特に、絶対零度におけるエントロピーの性質は、熱力学の基礎を理解する上で重要なポイントです。