
発達障がい少年と少年司法:連携の課題
文書情報
学校 | 不明 |
専攻 | 法学、社会学、または関連分野 |
出版年 | 不明 |
会社 | 不明 |
場所 | 不明 |
文書タイプ | 論文、研究報告書など |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 1.13 MB |
概要
I.発達障害のある非行少年の少年司法における課題と支援体制
本資料は、発達障害(特に自閉スペクトラム症を含む)のある非行少年に対する少年司法手続きにおける問題点と、効果的な支援体制の構築について論じています。少年のコミュニケーション障害や衝動性といった特性が、捜査段階から処遇段階に至るまで、誤解や不適切な対応を招くリスクを指摘。専門家(臨床心理士等)との連携不足、および適切なアセスメントの欠如が、冤罪や再犯につながる可能性が懸念されています。特に、捜査段階におけるコミュニケーションの困難さへの配慮の欠如や、処遇段階における地域生活定着支援センターなどの活用不足が課題として挙げられています。 少年院や少年鑑別所、家庭裁判所、弁護士、保護観察所など関係機関の連携強化、そして少年本人の権利擁護を重視した、より適切な発達支援と地域移行支援の必要性が強調されています。内藤千尋氏らの研究や、鴨志田祐美氏による被疑者弁護からの連携の重要性に関する記述も参考に、関係機関の協働体制構築が求められています。
1. 発達障害のある非行少年の特性と少年司法手続きにおける課題
このセクションでは、発達障害のある非行少年が少年司法手続きにおいて直面する困難について詳述しています。 特に、コミュニケーション障害や衝動性、想像力の欠如といった発達障害の特性が、捜査段階や裁判手続きにおいて誤解や偏見を生じさせ、不当な扱いや冤罪につながる可能性が指摘されています。 例えば、コミュニケーション能力の低さから捜査官との意思疎通がうまくいかず、自白を強要されたり、自分の状況を正確に説明できないといったケースが想定されます。また、衝動的な行動が犯罪行為につながる一方で、その行動の背景にある発達障害の特性が理解されないまま、厳罰に処せられる可能性も懸念されています。 さらに、少年の置かれた状況や特性を適切に評価するアセスメントが不足していることも問題視されており、関係機関における専門的な知識や理解の不足が、適切な支援や処遇を阻害している実態が示唆されています。 これらの課題を解決するためには、関係機関による連携強化と、発達障害に関する専門知識の普及が不可欠であると結論づけられています。
2. 関係機関の連携と専門家による支援の重要性
このセクションでは、発達障害のある非行少年に対する効果的な支援体制を構築するために、関係機関の連携と専門家による支援の重要性が強調されています。具体的には、家庭裁判所、医療機関、児童相談所、保護観察所、警察、弁護士などが連携して、少年の特性を踏まえた適切なアセスメントを行い、個々のニーズに合わせた支援を提供する必要性が指摘されています。 特に、臨床心理士などの専門家が少年の特性を理解し、捜査段階から処遇段階まで継続的に支援することで、冤罪を防ぎ、再犯防止に繋がる可能性が示唆されています。また、地域生活定着支援センターなどの活用も促進することで、社会復帰をスムーズに進めるためのサポート体制の構築が重要視されています。 しかしながら、現実には、全ての機関に発達障害に詳しい専門職員が常駐しているわけではなく、連携体制も十分に整備されていない現状があるため、関係機関の連携強化と専門家育成の必要性が強く訴えられています。 実例として、専門家の介入によって暴力行為が改善し、大学進学も実現したケースなどが紹介され、専門家による支援の効果が示されています。
3. 弁護士の役割と経済的支援の必要性 今後の課題
このセクションは、少年司法における弁護士の役割の重要性と、その活動における課題について論じています。弁護士は、捜査段階から処遇段階まで一貫して少年を支援し、諸機関との連携の中核を担うべき存在であるとされています。特に、発達障害のある少年の場合、弁護士が専門家との連携を図り、適切な情報を提供することで、少年の権利擁護に大きく貢献できると考えられています。 しかし、弁護士の活動、特に処遇段階以降の活動に対しては、十分な経済的支援が確保されておらず、活動継続の大きな障壁となっている現実が指摘されています。そのため、弁護士への経済的支援の充実が、効果的な連携を実現するための重要な課題として提示されています。 また、弁護士が常に少年司法における諸機関連携の中心を担えるだけの力量を持つとは限らないため、各弁護士会による体制構築や、専門家紹介システムの整備なども今後の課題として挙げられています。これらの課題への対応は、発達障害のある非行少年の再犯防止、そしてより公正な少年司法制度の実現に不可欠であると結論づけられています。 さらに、日本社会における発達障害のカミングアウトの困難さへの言及もあり、社会全体の意識改革も重要な課題として認識されています。
II.弁護士の役割と連携強化の必要性
少年司法における弁護士の役割は、非行少年、特に発達障害のある少年の権利擁護において極めて重要です。捜査段階から処遇段階まで一貫した支援を提供することで、不当な扱いを防ぎ、適切な処遇につなげることが期待されます。しかし、弁護士の活動が処遇段階以降に及ぶ場合、十分な経済的支援が不足している点が課題として指摘されています。そのため、弁護士会レベルでの体制構築や、弁護士への経済的支援の強化が、効果的な連携を促進するために不可欠です。専門家とのネットワーク構築、情報提供体制の整備なども含め、弁護士主導の諸機関連携強化が提唱されています。
1. 弁護士の少年司法における中心的な役割
このセクションでは、発達障害のある非行少年に対する少年司法手続きにおいて、弁護士が中心的な役割を担うべきだと主張しています。 捜査段階から家裁を経て処遇段階に至るまで、一貫して弁護士が諸機関の連携の中核となり、少年の権利擁護に尽力することが理想的な姿として描かれています。 弁護士は、少年の特性を理解した上で、専門家(臨床心理士など)との連携を密にし、適切なアセスメント結果や情報を家庭裁判所やその他の関係機関に提供することで、誤った前提に基づく手続きの進行を防ぎ、少年にとってより適切な処遇が決定されるよう尽力する必要があります。 また、弁護士は少年本人やその家族との信頼関係を構築し、少年の意思を尊重しつつ、社会復帰に向けた支援を行う役割も担います。 このように、弁護士は少年の権利擁護だけでなく、社会復帰支援まで包括的に関与することで、再非行・再犯防止に貢献できると考えられています。
2. 弁護士活動の課題 経済的支援の不足と今後の対策
前項で弁護士の重要性を述べた上で、このセクションでは、弁護士の活動、特に処遇段階以降の活動における経済的支援の不足が大きな課題として指摘されています。 少年事件を担当する弁護士は、専門家への相談費用や、少年の社会復帰を支援するための多様な活動に多くの時間と費用を費やすことが予想されます。しかし、現状の報酬体系では、これらの活動に対して十分な経済的補償がなされておらず、弁護士間の活動量や報酬に深刻な格差が生じていることが問題視されています。 この経済的支援の不足は、弁護士が十分な時間を割いて少年への支援にあたることを困難にし、結果として少年の権利擁護や再犯防止に悪影響を及ぼす可能性があります。 そのため、処遇段階以降の弁護士活動に対する経済的支援の充実が不可欠であり、弁護士会レベルでの仕組みづくりや、刑事弁護における経済的保障の改善が求められています。 これは、単なる弁護士個人の問題ではなく、少年司法制度全体の課題として捉えられるべきだと結論付けています。
3. 連携強化のための具体的な方策と今後の展望
このセクションでは、弁護士を中心とした諸機関連携を効果的に実現するための具体的な方策と、今後の展望について述べられています。 まず、弁護士が常に少年司法における諸機関連携の中心となるだけの力量を持つとは限らないため、各弁護士会が少年事件を担当する弁護士の能力向上のための仕組みを構築することが求められています。 また、発達障害の専門家と連携できるネットワークを持つ弁護士による専門家紹介システムの構築も、効果的な支援体制を構築するために重要です。 加えて、捜査段階から少年が手続きに参加できるよう、合理的な配慮を提供するための諸機関連携についても言及されており、これは少年の権利擁護において不可欠な要素であると強調されています。 これらの課題への取り組みを通して、より効果的な少年司法における諸機関連携を実現し、発達障害のある非行少年の再犯防止に繋げていくための道筋を示唆しています。
III.関係機関の連携強化と今後の課題
発達障害のある非行少年の再犯防止のためには、関係機関(家庭裁判所、少年院、少年鑑別所、地域生活定着支援センター、医療機関、警察、弁護士、保護観察所など)の連携強化が不可欠です。専門家(臨床心理士、精神科医など)による適切なアセスメントと支援、少年の特性を理解した対応、そして関係機関間の情報共有が求められます。少年のコミュニケーションの困難さを考慮した捜査方法や、少年の成長発達権を保障する処遇の選択など、人権尊重を前提とした対応が必要です。予算面などの制約があるものの、上位規範の価値観を重視した体制作りが今後の大きな課題となります。
1. 関係機関の連携強化の必要性と現状の課題
このセクションでは、発達障害のある非行少年の支援において、家庭裁判所、医療機関、児童相談所、保護観察所、警察、弁護士など関係機関間の連携強化が不可欠であると強調しています。 特に、捜査段階から処遇段階まで一貫した支援を行うためには、各機関が連携し、少年の特性を踏まえた適切なアセスメントを行い、情報共有を徹底する必要があると指摘されています。 しかしながら、現状では、各機関間の連携が十分とは言えず、専門的な知識や理解を持つ職員の配置も不足しているという課題が挙げられています。 例えば、捜査段階において、発達障害のある少年のコミュニケーションの困難さを理解せずに取り調べが行われ、冤罪につながるリスクがあることや、処遇段階において、地域生活定着支援センターなどの専門機関の活用が不十分であることが問題点として示されています。 これらの課題を克服するためには、関係機関間の情報共有システムの構築や、専門職員の育成・配置、そして各機関の役割分担の明確化などが重要になります。
2. 専門家によるアセスメントと支援の重要性
効果的な支援のためには、臨床心理士などの専門家による適切なアセスメントが不可欠であると強調されています。 専門家は、少年の特性を正確に把握し、その特性に合わせた支援計画を作成する役割を担います。 アセスメントの結果は、少年自身にも分かりやすく提示され、自身の状況を理解する機会を与えることで、問題行動の改善や社会復帰に繋がる可能性があると示唆されています。 また、専門家は、関係機関との連携を図り、情報共有を通じて、少年への支援を円滑に進める役割も担います。 具体的には、医療機関との連携による治療や、保護観察所等との連携による社会生活への円滑な復帰支援などが挙げられます。 専門家によるアセスメントと継続的な支援を通して、少年の成長発達権を保障し、人権制約を最小限に抑えた適切な処遇を実現することが重要だと結論付けられています。
3. 予算的制約と今後の展望 社会全体の意識改革の必要性
このセクションでは、関係機関の連携強化を阻む要因として、予算的な制約や、公的機関における上位規範の価値観への重視不足が指摘されています。 予算不足は、専門職員の採用や研修、情報システムの整備などを困難にし、連携強化の取り組みを阻害する要因となっています。 また、公的機関が、少年の権利擁護や再犯防止といった上位規範の価値観を十分に重視していない状況も、問題解決を困難にしている現状です。 さらに、日本社会における発達障害への理解不足や、カミングアウトの困難さも、関係機関の連携強化を阻む大きな要因の一つとして挙げられています。 そのため、今後の展望としては、予算の確保や制度改革による体制強化とともに、社会全体の意識改革を進める必要性も強調されています。 発達障害への理解を深め、偏見や差別をなくしていくことで、より効果的な支援体制を構築することが可能になると結論付けられています。