
花王決算短信:売上高、経常利益
文書情報
著者 | 花王株式会社 |
出版年 | 2000 |
会社 | 花王株式会社 |
場所 | 東京都 |
文書タイプ | 決算短信 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 613.27 KB |
概要
I.経営の基本方針と課題 Basic Business Policy and Challenges
花王株式会社(花王)は、「よきモノづくり」による顧客満足と豊かな生活文化への貢献を使命とし、「利益ある成長」を続ける強い会社を目指しています。しかし、国内市場の成長鈍化、激しいグローバル競争、円高の影響など、厳しい経営環境に直面しています。特に、家庭用製品事業は価格競争が激化しており、売上高の減少(前年比776億円減、8,469億円)が課題となっています。一方、海外事業、特にアジア市場への展開強化が成長戦略の柱となっています。
1. 経営の基本方針
花王株式会社は、顧客視点の『よきモノづくり』を基本方針として掲げています。顧客に喜びと満足を提供し、豊かな生活文化の実現に貢献することを使命とし、グローバル競争下においても『利益ある成長』を続ける強い会社を目指していることが明記されています。この基本理念に基づき、事業展開や経営戦略が展開されています。具体的には、独自の技術を活かした製品開発や、市場ニーズに対応した製品改良、ブランド力の強化などが含まれると考えられます。企業理念は、単なるスローガンではなく、具体的な行動指針として、日々の経営活動に反映されることが期待されています。また、この基本方針は、今後の経営課題への対応や、長期的な成長戦略の策定においても重要な指針となるでしょう。
2. 会社の対処すべき課題 市場環境の厳しさ
花王を取り巻く事業環境は厳しい状況が続いています。日本経済の回復の兆しが見え隠れするものの、個人消費の低迷は依然として続き、特に家庭用製品事業分野ではグローバルな企業間競争が激化し、需要低迷と価格下落が大きな課題となっています。当期の連結売上高は前期比776億円減少し、8,469億円となりました。この減少の主な要因は、情報関連事業からの撤退(484億円減)と円高による海外売上高の目減り(約301億円)です。これらの要因は、経営戦略の修正や、コスト削減、効率化などの対策を必要とする深刻な問題です。一方で、海外市場、特にアジア市場では経済回復の兆しが見られるものの、激しい競争が続いているため、新たな戦略が必要とされます。
3. 会社の対処すべき課題 業績概況と課題
当期の営業利益は991億円(伸長率8.2%)と増益となりましたが、これは国内事業の円高メリットとコストダウン効果によるものです。一方、海外事業は米国の家庭用製品事業減益や円高の影響で減益となりました。パーソナルケア製品では、毛穴パックの輸出減少が響き、売上高は1,752億円(伸長率△2.2%)と減少しました。日本の家庭用製品市場も価格低下が続き、需要は前期を下回っています。しかし、新製品開発やブランド強化により売上高は5,168億円(伸長率2.1%)と微増となりました。これらの結果から、国内市場におけるコスト削減と効率化による利益確保、そして海外市場における競争力強化が、今後の課題として浮き彫りになっています。円高の影響も継続的に考慮すべき重要な要素です。
4. コーポレートガバナンス強化と経営改革
スピーディーな経営意思決定と業務執行を可能にするため、6月29日付で経営諮問委員会を新設しました。この委員会は、取締役会の効率的な運営や経営上の重要課題に関して助言を行うことで、コーポレートガバナンスの充実を図ります。さらに、国内市場の成長鈍化への対策として、コストダウンと経営効率化を継続し、EVAの増大を目指します。事業運営のスピードアップのため、カンパニー制の導入などの経営改革も進めていく方針です。これらの施策は、変化の激しい経営環境下において、迅速な対応と持続的な成長を実現するための重要な取り組みです。経営の透明性と効率性を高め、株主価値の向上に貢献することが期待されます。
II.経営戦略と改革 Business Strategy and Reform
中長期的な経営戦略として、家庭用製品、化粧品(ソフィーナ)、工業用製品の3事業をコアに、アジア地域を中心とした海外事業の拡大を目指しています。M&Aや業務提携も積極的に検討し、EVA(経済価値付加)を経営指標として導入することで、株主価値の最大化を図ります。経営改革として、経営諮問委員会の新設、カンパニー制導入による経営の効率化、コストダウン、そしてフリーキャッシュフローの有効活用を推進しています。
1. 中長期的な経営戦略
花王株式会社の中長期的な経営戦略は、家庭用製品、化粧品(ソフィーナ)、工業用製品の3事業をコアに据え、独自の技術に基づく『よきモノづくり』をベースに事業領域の拡大を目指しています。特に、成長市場であるアジア地域での展開を積極的に進め、米国事業の拡大などを通して海外事業のウェイトをさらに高めることを目標としています。この戦略実現のため、M&Aや業務提携といった積極的な取り組みも検討されています。これらの戦略は、国内市場の成熟化による成長鈍化への対応策として位置づけられ、海外市場への進出と既存事業の強化を両輪としたバランスの取れた成長戦略と言えるでしょう。また、アジア市場への注力は、今後の成長を牽引する重要な要素と捉えられています。
2. 株主視点の経営とEVA導入
企業価値の最大化、ひいては株主価値の向上を明確に目指すため、今期からEVA(経済価値付加)を経営の主たる指標として導入しました。EVAを経営目標、投資評価、事業活動の管理指標として定着させ、EVA改善へのモチベーションを高めるインセンティブ報酬制度も導入されています。これは、従来の売上高や利益といった指標だけでは捉えきれない、企業の真の価値を評価し、経営の透明性と効率性を高めるための取り組みです。長期的な視点でEVAの増大を目指すことで、持続可能な成長と株主への利益還元を実現しようという意思が明確に示されています。フリーキャッシュフローに関しても、事業投資やM&Aなど、将来の企業価値増大のための投資を優先する方針です。
3. 経営改革 経営諮問委員会とカンパニー制導入
経営の迅速化と効率化のため、経営改革も積極的に進められています。その一環として、6月29日付で経営諮問委員会が新設されました。この委員会は、特別顧問2名、社長及び取締役1名、社外顧問2名の計6名で構成され、取締役会に対して助言や意見具申を行います。取締役会の活性化と、公正で透明な経営を実現するためのコーポレートガバナンス強化が目的です。さらに、各事業分野の経営の権限と責任を委譲し、事業運営を迅速化するため、カンパニー制の導入も推進しています。これらの改革は、変化の激しい経営環境の中で迅速な意思決定と柔軟な対応を可能にし、競争優位性を確保するための重要な施策です。
III.事業別業績概要 Business Performance Overview
家庭用製品事業は、国内市場では堅調に推移しましたが、円高の影響で海外事業は減収となりました。化粧品(ソフィーナ)事業は、プレステージ化粧品市場の縮小が影響しましたが、新製品の投入により一定の成果を上げています。工業用製品事業は、国内需要の回復と輸出増加により好調です。アジア市場では、ビオレ、ロリエなどの主力ブランド育成に注力しています。米国ではビオレブランドの育成と、キュレル買収によるスキンケア事業拡大に力を入れています。
1. 家庭用製品事業
家庭用製品事業は、国内市場では堅調に推移し、営業利益も増加しました。これは、消費者の新しいニーズを捉えた新製品の開発、ブランドパワーの強化、製品改良、そしてコストダウンと費用の効率化によるものです。日本の家庭用製品の売上高は5,168億円(伸長率2.1%)となりました。しかし、海外事業は米国の売上減少と円高の影響で、売上高6,324億円、営業利益860億円と大幅な減収減益となりました。国内市場では価格競争が激化しており、今後の更なる成長には、新製品開発やブランド力強化に加え、海外市場での競争力強化が不可欠です。円高の影響も、今後の事業計画において考慮すべき重要な要素となっています。
2. 化粧品 ソフィーナ 事業
化粧品(ソフィーナ)事業の売上高は708億円、営業利益は22億円でした。消費者の節約志向の高まりと低価格品へのシフトにより、プレステージ化粧品市場全体が縮小していることが影響しました。しかし、新製品である若年肌向けの『ベリーベリー』と熟年肌向けの『グレイスソフィーナ』が好評で売上増加に貢献しました。利益面では、ナフサ価格上昇の影響を受けましたが、天然油脂原料価格の軟調な推移と生産・販売部門の合理化効果により、前期を上回る営業利益を達成しました。価格競争の激化が続く市場において、新製品開発とコスト管理の両面での戦略が重要となります。ターゲット層を絞り込んだ製品展開も、今後の事業継続に大きく影響を与えると考えられます。
3. 工業用製品事業
工業用製品事業は国内市場では需要の回復により堅調に推移し、輸出も増加しました。複写機用トナー関連製品、香料、業務用食用油脂、界面活性剤などの売上伸長が貢献しています。しかし、円高の影響により海外事業の売上高と営業利益は減少しました。国内では需要の上向きが続いているものの、海外市場では円高の影響が今後も課題となりそうです。国内市場の好調を維持しつつ、海外市場での競争力強化が今後の重要な課題となります。新しい年金会計基準の適用による費用増加も、コスト削減と利益管理の徹底が求められます。
4. アジア事業
アジア経済は通貨危機を乗り越え回復基調にありますが、日用消費財市場は需要の伸びが鈍く、激しい競争が続いています。花王は「ビオレ」「ロリエ」「アタック」などの主力ブランド育成に注力し、中国では洗剤事業を新たに開始、タイ・台湾ではビオレの新製品を発売、ロリエは各国で製品改良を行いました。ハウスホールド製品の売上高は2,621億円(伸長率3.9%)と増加しましたが、毛穴パックの減少、中国の在庫圧縮、円高の影響により営業利益は前期を下回りました。アジア市場での競争激化が予想される中、ブランド力強化と新製品開発が重要となります。また、円高の影響を考慮した戦略も必要不可欠です。中国市場への進出は今後の成長に大きく貢献する可能性を秘めている一方で、流通在庫管理も重要な課題となります。
5. 欧米事業
欧米事業では、米国のアンドリュー・ジャーゲンズ社では毛穴パックの需要一巡により売上減少となりましたが、ビオレブランドの育成に注力しています。一方、健康エコナクッキングオイルは好調に推移しました。サニタリーほか製品の売上高は794億円(伸長率6.3%)で、子供用紙おむつと大人用紙おむつの好調が貢献しましたが、生理用品は市場低迷により減収となりました。米国市場ではスキンケア事業の拡大を目指していますが、円高の影響を受けると予想されています。市場動向を的確に捉えた製品開発と、円高対策が今後の事業展開における鍵となるでしょう。中国華南での新工場竣工は、今後の事業拡大のための重要な投資となります。
IV.今後の展望と業績予想 Future Outlook and Performance Forecast
国内市場の個人消費低迷は続くものの、主力ブランドの強化、新製品開発、コスト削減・経営効率化により、次期の売上高8,540億円、経常利益1,000億円、純利益550億円を目指します。EVAは5%以上の改善を目指し、配当金も増配予定です。また、年金会計基準の変更にも対応し、持続的な成長を追求していきます。
1. 次期の業績予想
次期の業績予想は、売上高8,540億円、経常利益1,000億円、純利益550億円とされています。これは、家庭用製品事業が国内外で営業増益を達成し、ゴールドウェル社のリストラによる特別損失がなくなることを前提としています。 この予想には、2001年3月期から適用される新しい年金会計基準に基づいた退職給付費用(割引率3%、期待運用収益率4%)も織り込まれています。 ただし、会計基準変更時差異や年金制度改訂に伴う債務減少額については、今後の状況をみて会計処理を再検討するとのことです。 各事業セグメントにおいては、コストダウンと経営効率化の更なる推進により、大幅な改善を目指していることが示されています。 また、EVAに関しても、当期のEVAを5%以上改善することを目標としています。
2. 事業別業績予想 家庭用製品事業
家庭用製品事業は、国内市場では堅調な推移が予想されますが、海外市場では円高の影響により売上高は減少するものの、営業利益は増益が見込まれています。アジア市場では競争激化が予想されるため、ブランド力強化による売上伸長を目指しています。欧米市場では、米国のスキンケア事業の伸長を目指しますが、円高の影響で売上高は減少すると予想されています。営業利益については、アジア、欧米ともにコストダウンと経営効率化の更なる推進により大幅な改善を目指しています。国内市場では、主力ブランドの強化、新製品の発売、製品改良によって、当期を上回る売上高を目指しています。厳しい市場環境が続くことが予想される中、これらの戦略が重要となります。
3. 事業別業績予想 その他事業
工業用製品事業は、国内では需要回復と輸出増加により順調な推移が予想されます。しかし、海外市場では円高の影響を受け、売上高と営業利益は減少すると予想されており、全体としては売上高・営業利益とも横ばいを想定しています。化粧品事業、特にプレステージ化粧品市場は厳しい状況が続くと予想され、その中で主力ブランドの強化を図り、新製品の開発や製品改良を通じてブランド価値を高めることで、売上高の増加を目指します。 これらの予想は、国内景気のやや回復傾向を踏まえつつも、雇用状況の悪化による個人消費の低迷が継続することを考慮した上で立てられています。 また、2001年1月には現行年金基金制度の改訂、さらに確定拠出型年金の導入も検討しており、これにより退職給付債務の減少が見込まれています。
4. 配当金予想
次期の配当金は、予想利益の達成を勘案し、1株当たり24円(前期比4円増配)、中間配当金は1株当たり12円(前期比2円増配)と予定されています。これは、企業の収益性向上と株主への利益還元を両立させるための施策の一つです。 増配計画は、今後の事業展開における自信と、株主へのリターンに対するコミットメントを示す重要な指標となります。 この増配計画は、安定した経営基盤と将来への成長への期待感に基づいていると言えるでしょう。