
英国地方税改革:レイフィールド報告と保守党政権
文書情報
学校 | 日本地方財政学会 |
専攻 | 地方財政 |
場所 | 日本(勁草書房から出版されているため) |
文書タイプ | 論文 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 785.54 KB |
概要
I.戦後イギリス地方財政改革の起点 レイフィール ド委員会報告 と 地方税 の変遷
本稿は、戦後イギリスにおける地方財政改革、特にレイフィール ド委員会報告 (1970年代)を起点とした改革の経緯を分析する。地方税体系、特にレイ ト(不動産税)、人頭税(コミュニティ・チャージ)、そして地方所得税導入の提案など、重要な政策転換点を考察する。保守党政権下の改革と、その背景にある財政責任の問題、中央政府と地方自治体の関係、住民負担、そして地方自治のあり方を探る。補助金制度の変遷についても触れ、一般交付金やレイ ト援助交付金などの役割を分析する。
1. 戦後イギリス地方財政における矛盾と課題の顕在化
第二次世界大戦後、イギリスでは福祉国家の構築が進み、地方自治体の役割が拡大しました。しかし、国庫補助金への依存度が高まる一方、地方自治体の財政的自立性は低下。従来、地方自治体が担っていた公的扶助、病院運営、公益事業などは国や他の機関に移管され、地方財政における国庫補助金の比率は増大。1950年代から60年代にかけては特定補助金の一般補助金化が試みられましたが、中央政府と地方自治体間の関係は深刻な問題を抱えるようになりました。この時代のインフレと不況は、公共歳出全体の水準を巡る問題を浮き彫りにし、地方歳出に対する中央政府の関与は増大しました。地方自治体の機能拡大と財源調達方法の矛盾が、地方財政改革の必要性を強く訴えることになったのです。1970~72年の高いインフレ率(年6~9%)、そして1974年第4四半期には前年同期比18%、1975年前半期には24%に達したインフレと不況の同時発生は、地方財政の危機をさらに深刻化させました。
2. 地方制度再編とレイ ト問題 1974年以降の変容
1974年4月よりイングランドとウェールズ、1975年4月よりスコットランドで実施された大規模な地方制度再編は、地方財政改革の必要性をさらに加速させました。イングランドとウェールズではカウンティとディストリクトの二層制、スコットランドではリージョンとディストリクトの二層制が導入されました。この再編により、1500を超えていた地方自治体の数は522に減少し、カウンティ・バラ(特別市)は廃止されました。しかし、この再編において財政制度全般にわたる改革は行われず、1974年以降、全国的にレイ ト税率が急上昇しました。イングランドとウェールズの平均で、1974年度の住宅レイ トは前年比30%、1975年度には25%も上昇し、地域差も非常に大きくなりました。政府は住宅レイ ト救済を1974年度に実施せざるを得ない状況に陥り、レイ トという伸縮性に欠ける税に依存した地方財政構造の脆弱性が露呈しました。このレイ ト税率の上昇は、急激なインフレへの対応と制度改革に伴う歳出の増大が原因でした。
3. 戦後イギリス地方財政改革に関する政府文書の検討 1957年白書 1966年白書 1971年緑書
戦後、イギリス政府は地方財政に関する様々な報告書や白書を発表し、改革を試みてきました。しかし、『レイフィール ド委員会報告』が目指す包括的な改革という点においては、それらの文書は限界を持っていました。1957年の白書『地方財政』は、補助金制度の抜本的再編とレイ ト制度の改善を提言し、特定補助金から一般補助金への統合を強く主張。これは1958年の一般交付金創設へと繋がりました。しかし、一般補助金の創設で補助金総額が減少すると予想され、その対応策として従来優遇されていた産業へのレイ ト課税強化が盛り込まれた点は注意が必要です。1966年の白書『地方財政』は、より広範なサービスを高い水準で供給するという政府の基本方針と、アレン委員会報告が指摘したレイ ト制度の逆進性の問題を同時に解決しようと試みましたが、新税導入は見送られ、主たる勧告は新しい補助金制度の導入でした。1971年の緑書『地方財政の将来像』は、新地方財源に検討を加えた初めての政府文書でしたが、包括性と一貫性に欠けると『レイフィール ド委員会報告』で評価されました。
4. 地方財政における住民の不満と補助金制度の発展
レイ ト税率の急上昇により、住民の不満はレイ トに集中していました。レイ ト負担の増大、家計の支払い能力との関連性の欠如、受け取るサービスとの不均衡などが問題視されました。レイ トの課税評価の恣意性や理解困難さも批判されました。戦後の補助金制度は、国庫平衡交付金(1948年)、一般交付金(1958年)、レイ ト援助交付金(1967年)と段階的に発展しました。一般補助金という形式を取りながらも、算定配分方式に政府の具体的な意向が反映され、地方自治体の裁量性は限定的でした。レイ トは1840年以来、不動産の賃貸価額を課税ベースとしていましたが、再評価は限られていました。アレン委員会報告を受けて住宅レイ トにレイ ト割引制度が導入され、レイ ト支援交付金制度が住宅レイ ト軽減要素を含むようになり、可処分所得に占める住宅レイ トの比率は1966年以来ほぼ一定でした。しかし、レイ ト納税者にとって、地方歳出の変化とレイ ト負担との関係を理解することが困難になりました。
II.レイ ト制度と 人頭税 導入 地方財政 の課題と改革
戦後イギリスの地方財政は、レイ ト制度の逆進性や急激な税率上昇という問題を抱えていた。これに対応するため、レイ ト割引制度やレイ ト援助交付金が導入されたが、根本的な解決には至らなかった。その後、保守党政権は人頭税(コミュニティ・チャージ)を導入するが、国民の強い反発を招き、メジャー政権下で廃止される。この人頭税導入は、地方財政における財政責任の所在、中央と地方の関係を改めて問う契機となった。
1. レイ ト制度の課題 逆進性と税率上昇
戦後イギリスの地方財政において、レイ ト(不動産税)制度は大きな課題を抱えていました。レイ トは、その負担構造に逆進性があり、家計の支払い能力や受け取るサービスと必ずしも対応していませんでした。そのため、多くの住民から不満の声が上がっていました。特に、1974年以降、全国的にレイ ト税率が急上昇し、前年比30%(1974年度)、25%(1975年度)という高い上昇率を示しました。地域差も大きく、160%の上昇から9%の下落まで幅がありました。この急激な税率上昇は、急激なインフレへの対応と制度改革に伴う歳出増大が原因でした。レイ ト制度の伸縮性に欠ける構造が、地方財政の脆弱性を露呈させることになりました。政府は、1974年度に住宅レイ ト救済を実施せざるを得ない状況に陥りました。レイ トの課税評価が恣意的で理解困難であるという批判も、一般住民だけでなく小規模事業者からも上がっており、レイ ト制度の抜本的な改革が求められていました。
2. 人頭税導入とその失敗 サッチャー政権下の地方財政改革
サッチャー政権下(1979年5月~1990年11月)、地方財政改革の一環として、1990年4月よりイングランドとウェールズで人頭税(コミュニティ・チャージ)が導入されました。しかし、人頭税は、その逆進的な負担構造と税負担の急増から国民の強い反発を招きました。大臣やサッチャー氏自身も、正式名称である「地域住民負担料」よりも「人頭税」という呼称を使うことがありました。人頭税の導入と同時に、経常歳出に占める補助金の比率は42%と保守党政権下で最低を記録する一方、人頭税の比率は28%と従来の住宅レイ ト比率を上回る最高比率を示しました。人頭税の不人気と税率上昇への対応策として中央政府は大量の補助金を投入せざるを得ませんでした。「地域住民負担料削減計画」に基づく補助金の大幅増額、付加価値税の税率を引き上げることで得られた財源を用いた人頭税率引き下げのための補助金投入が行われましたが、人頭税の比率は1990年の28%から1991年には16%に激減しました。しかし、補助金総額は1990年度から1992年度にかけて55.3%も増大し、補助金比率は保守党政権発足時の水準に戻りました。この過程で地方税率制限と地方歳出統制の全般化が実施されました。結果的に、保守党政権下の地方財政改革は地方自治体の課税自主権を制限し、地方税基盤そのものを縮小させる結果となりました。国民の強い反発はサッチャー政権を退陣に追い込み、メジャー政権下で人頭税は廃止され、1993年4月からカウンシル税に移行しました。
III. レイフィール ド委員会報告 地方所得税 導入提案と 財政責任 の明確化
レイフィール ド委員会報告は、地方財政における財政責任の明確化を主張し、中央責任型と地方責任型の二つのシステムを提示した。地方責任型を選択する場合、地方所得税の導入が不可欠とされた。報告書は、レイ ト制度の改善、補助金制度の改革、そして中央政府と地方自治体の対等な協議の場としての新フォーラム設立を提言した。この報告は、イギリスの地方税改革において画期的な提案であったと言える。
1. レイフィール ド委員会報告の目的と背景 財政責任の明確化
レイフィール ド委員会報告は、イギリスの地方財政における深刻な問題、特に中央政府と地方自治体間の関係、財源の不均衡、そして住民へのサービス提供の効率性などを解決するために作成されました。報告書は、既存の地方財政システムにおける一貫性の欠如を指摘し、財政責任の明確化を強く主張しています。これは、地方歳出の責任を中央政府が負う「中央責任型」と、地方議会が歳出と歳入の両方に責任を持つ「地方責任型」という二つの選択肢を提示することで具体的に示されました。委員会は、中央政府による詳細な統制が地方の状況に応じた歳出の必要性や優先順位の判断と矛盾しており、地方歳出の決定が地方税水準に反映するという点でも矛盾していると指摘し、真に責任ある地方自治体の実現こそが重要だと結論付けています。この報告書は、単なる財政問題の解決策ではなく、地方自治のあり方そのものを問うものでした。1970年代のインフレや不況、そして地方制度再編という背景も、この報告書が作成された重要な要因でした。
2. 地方所得税導入の提案 地方課税基盤の拡大と財政責任強化
レイフィール ド委員会報告は、地方責任型財政システムの実現に向けて、地方所得税の導入を強く主張しています。これは、国税である所得税を基礎とし、各地方自治体が税率を決定する仕組みで、内国歳入庁が徴収を行うことを想定していました。税率構造としては、国税所得税の課税ベースに比例税率を課す方法と、国税所得税額を課税ベースに比例税率を課す方法が提案されています。後者の方法では、国税所得税の累進構造に対応した累進性を持つことになります。地方所得税の導入は、地方自治体の課税能力を強化し、中央政府からの補助金への依存度を減らすことを目的としていました。委員会は、より広い地方課税ベースを持つことが、地方財政責任を強化するための不可欠な第一歩であると結論付けています。レイ ト制度については、住宅レイ トと事業レイ トを区別して考察し、住宅レイ トの課税ベースを賃貸価額から資本価額に変更することを提案しています。事業レイ トについては、コストへの課税であり、法人税や所得税の計算において控除が認められている点を考慮する必要があると指摘しています。既存のレイ ト制度、補助金制度、そして提案された地方所得税の全体像を再考することで、より良い地方財政システムを構築できると示唆しています。
3. 新フォーラムの提唱 中央政府と地方自治体の連携強化
レイフィール ド委員会報告は、中央政府と地方自治体間の緊密なコミュニケーションと情報交換の必要性を強調し、地方財政に関する政策決定において、両者が対等な立場で協議できる場として「新フォーラム」の設立を提案しています。この新フォーラムは、政府機関から独立し、地方歳出の見通し、計画、優先順位などを協議する場となることを想定しています。特に、地方責任型システムの場合、中央と地方の協議の場がどのようなものとなるかが重要だとされています。既存の地方財政協議会との関係性も考慮しつつ、より明確な役割分担と、地方自治体の発言力を高めるための提案でした。中央政府は、補助金制度の改革、特に財源要素と需要要素に分かれている補助金を単一補助金に置き換えることを提案しています。財源均等化の指標としては、従来のレイ ト課税価額ではなく、当該地域の総個人所得を用いることを推奨しています。単一補助金は、地方歳出の評価決定に中央政府が責任を持つ点で中央責任型に基礎を置くものの、地方責任型にとっても財源と需要の地域差を是正する利点があると指摘されています。新フォーラムと単一補助金は、より効果的で効率的な地方財政運営を実現するための重要な提案でした。
IV. 地方所得税 と 新フォーラム 地方自治 の未来に向けて
レイフィール ド委員会報告は、地方所得税を新たな地方税として導入することを強く推奨した。これは、地方自治体の財政基盤を強化し、中央政府からの依存度を減らすことを目的とする。同時に、中央政府と地方自治体が対等に協議できる新フォーラムの設立も提言された。しかしながら、この提案は、当時の中央政府によって受け入れられなかった。
1. 地方所得税導入の提案 地方財政責任強化のための鍵
レイフィール ド委員会報告の中心的な提案は、地方所得税の導入です。これは、地方自治体の財政基盤強化、そして中央政府への依存度軽減という明確な目的を持っていました。報告書では、地方所得税は、当該地域に居住する個人が所得に応じて負担する税であり、各地方自治体が税率を決定する一方、国税所得税を基礎とし、内国歳入庁によって徴収される仕組みが提案されています。税率構造については、国税所得税の課税ベースに比例税率を適用する方法と、国税所得税額を課税ベースに比例税率を適用する方法の2つが示されました。後者の方法は、国税所得税の累進構造を踏襲した累進性を持つ点で注目に値します。課税団体は、地方制度再編後の主要歳出団体であり、イングランドとウェールズでは大都市ディストリクトと非大都市カウンティ、スコットランドではリージョンとなります。委員会は、地方所得税の導入が、地方財政責任を強化するための不可欠な第一歩だと結論づけています。これは、地方自治体の財政的自立性を高めるだけでなく、住民へのサービス提供の効率性向上にも繋がると期待されていました。しかし、税源を中央政府と共有する点から、地方独自の財源としての独立性については疑問が残る部分もありました。
2. 新フォーラムの役割 中央と地方の対等な協議の場
レイフィール ド委員会報告は、地方所得税導入と並んで、中央政府と地方自治体が地方財政問題について対等な立場で協議できる独立した機関として「新フォーラム」の設立を提唱しました。これは、地方財政における中央政府の関与のあり方、そして地方自治体の自主性を確保するための重要な提案でした。新フォーラムは、地方歳出の見通し、計画、優先順位について中央政府と地方自治体が共同で協議できる場として機能することが期待されました。しかし、委員会の審議中に設立された地方財政協議会との関係性が曖昧だったこと、そして地方歳出抑制のための合意形成という限定的な目的で設立された協議会が、中央政府による地方自治体への統制の手段に転用されるリスクがあったことは、新フォーラム設立の成功に影を落とす可能性を示唆しています。報告書では、地方財政協議会に対する明示的な評価は避けられていますが、新フォーラムが地方財政協議会のような形に発展することを期待しつつも、その潜在的な危険性を指摘している点は注目に値します。中央と地方の緊密な連携が不可欠である一方で、地方自治体の独立性を確保するための工夫が求められていたと言えるでしょう。
3. 財政責任と地方自治の未来 報告書の意義と限界
レイフィール ド委員会報告は、地方財政における財政責任の明確化を巡り、「中央責任型」と「地方責任型」の二つの選択肢を示しました。中央責任型は、中央省庁に大きな機構変更を伴いますが、比較的短期間で実現可能である一方、地方責任型は、地方所得税導入という大きな制度変更を伴い、5年以上の期間が必要とされました。報告書は、財政責任とは、歳出総額が民主的統制下におかれるように、歳出に責任を負う者が歳入にも責任を持つことだと強調し、個人間と地域間の公平性、投資と消費の選択に関する意思決定の保障、サービス供給における効率性の促進、そして安定性、柔軟性、包括性を備えた制度の必要性を指摘しました。しかし、報告書は、財政責任論において住民と地方自治体の関係を十分に論じておらず、住民の予算過程への参加システムの改革や地方選挙制度の改革といった視点が欠けていました。この点が、保守党政権下での地方税改革における財政責任論の強調に利用され、人頭税導入の合理化や地方税基盤の縮小へと繋がったと言えるでしょう。住民参加を十分に考慮した地方財政システムの構築が、真の地方自治の実現には必要だったと言えるでしょう。
V.結論 地方財政改革 の持続可能性と課題
イギリスの地方財政改革は、レイ ト制度、補助金制度、そして地方税体系の変遷を通じて、財政責任、中央政府と地方自治体の関係、そして住民参加といった複雑な課題と向き合ってきた。レイフィール ド委員会報告は、これらの課題への重要な示唆を与えたが、その実現には、政治的、制度的な多くの困難があったことがわかる。今後の地方自治のあり方、地方税制度の在り方を考える上で、この歴史的背景の理解は不可欠である。
1. 地方財政改革の現状と課題 一貫性の欠如と財政責任
戦後イギリスの地方財政は、中央政府の関与が拡大し、補助金への依存度が高まる一方、地方自治体の財政的自主性は低下しました。レイ ト制度、補助金制度、そして地方歳出の抑制策など、様々な政策が問題に応じて実施されてきましたが、その過程において地方財政運営の一貫性に欠け、問題が長期化・構造化しました。レイフィール ド委員会報告は、この状況を分析し、地方財政の危機の原因は、イギリスにおける地方財政運営の一貫性の欠如にあると結論づけています。中央政府は、地方サービスの内容と水準にますます関与し始め、補助金を通じて地方歳出に影響を与え、地方税水準にもコミットするようになりました。「公共歳出の見通し」を通して、中央政府は地方財政の構成要素についても統制を強めています。1960年代には教育、医療、福祉、住宅、運輸などのサービスに対する国民の政治的関心が増大し、より良いサービスとより均一なサービスへの要求が高まりました。これらの要求への対応が、中央政府による地方財政への関与の増大に繋がったのです。この状況を変えるために、財政責任の明確化が必要不可欠でした。
2. 地方所得税と新フォーラム 地方自治の持続可能性のための提案
レイフィール ド委員会報告は、財政責任の明確化という観点から、中央責任型と地方責任型の二つのシステムを提示しました。中央責任型では、地方歳出全体について国が責任を負い、補助金は国の望ましい歳出規模に対応するように配分されます。一方、地方責任型では、地方議会が歳出と歳入の両方に責任を持つことになります。委員会は、地方責任型の実現のためには、補助金への依存を減らし、地方の課税能力を強化することが必要だとし、そのための手段として地方所得税の導入を提案しました。これは、地域住民が所得に応じて負担する税で、各地方自治体が税率を決定し、国税所得税を基礎として内国歳入庁が徴収するという仕組みです。また、中央政府と地方自治体が対等に協議できる場として、政府機関から独立した新フォーラムの設立も提唱されました。この新フォーラムは、地方歳出の望ましい変化率や税収増加の基準などを協議する場として機能することが期待されました。しかしながら、地方所得税の税源を中央政府と共有する点や、既に存在していた地方財政協議会との違いが明確でない点などが課題として残りました。
3. 財政責任論の限界と地方自治の未来 住民参加の重要性
レイフィール ド委員会報告における財政責任論は、中央政府と地方自治体の関係に焦点が当てられており、住民と地方自治体の関係については十分に論じられていませんでした。そのため、住民の予算過程への参加システムの改革や地方選挙制度の改革といった視点が欠けていた点が指摘されています。住民と地方自治体の関係を重視する視点に立てば、地方税は単なる地方財源としてだけでなく、地方資源の管理や地域経済の管理という重要な役割を持つことになります。レイ ト、地方所得税といった税制改革だけでなく、住民参加による予算編成や地域経済の管理といった視点を取り入れることで、より持続可能な地方自治の実現に繋がる可能性があったと言えるでしょう。保守党政権下では、財政責任論が人頭税導入の合理化や地方税基盤縮小の論理として利用された点も、この報告書の限界を示しています。真に住民にとって有効な地方財政システムの構築には、住民参加の促進と地方自治体の自律性の確保が不可欠であると言えるでしょう。