
英語要約指導の効果と実践
文書情報
著者 | 中井弘一 |
学校 | 滋賀県立米原高等学校 |
専攻 | 英語教育 |
文書タイプ | 活動報告 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 2.76 MB |
概要
I.熊谷先生の授業改善への試み 要約力育成と生徒の理解促進
滋賀県立米原高等学校の熊谷教諭は、3年間のサラリーマン経験(換気扇販売)を経て教員となった自身の経歴を活かし、生徒の記憶に残る内容理解を目指した授業実践を発表しました。 特に要約力育成に焦点を当て、3ラウンドの要約活動を通して生徒の理解度を深める試みを紹介。課題として効果のデータ的裏づけや長期的な生徒の変化の検証、より適切な要約指導法の模索を挙げ、サマリーライティングの目的(理解促進かスキル習得か)についても活発な議論が展開されました。 生徒の英文には基本的な文法ミスが多く見られた点も報告されています。効果的なオーラルインタープリテーション指導の必要性も指摘されました。
1. 換気扇販売員から教師へ 熊谷先生のキャリアと教育理念
熊谷先生は、教員3年目にして3年間の換気扇販売員経験を持つという意外な経歴を語り、聴衆の関心を一気に惹きつけました。この経験は、ユーモラスな自己紹介としてだけでなく、自身の教育に対する真摯な姿勢を示す導入として機能していました。 先生は、教育哲学として「You can always do more than you think you can」を挙げ、生徒の可能性を信じる姿勢を強調しました。この言葉は、先生自身のひたむきな努力と、生徒への高い期待感を示すものとして印象的でした。 また、自身のサラリーマン経験から得た洞察や、教職への転身に至る経緯についても触れられ、参加者からの共感を呼んでいました。特に、実習時の生徒から「意外に面白い授業やった」と言われたことが、教員への転身を決定づけた大きな要因であったと語ったエピソードは、先生の教育への情熱を強く印象づけました。
2. サマリーライティング指導 3ラウンドの活動と課題
熊谷先生は、生徒の記憶に残る、真の理解を促すため、サマリーライティングを3ラウンドにわたって実施する独自の指導法を紹介しました。この実践を通して、生徒の要約能力の向上と、内容理解の深化を目指していました。しかし、生徒が作成した英文には文法的な誤りが多く見られ、その点も率直に報告されました。 この実践報告は、単なる成功事例の紹介ではなく、今後の課題を示唆するものでした。先生自身、効果をデータで裏付けること、長期的な生徒の変化を捉えること、教材や生徒に合わせたより適切な要約方法の模索、そして要約力を向上させるための指導法の探求などを今後の課題として挙げています。 さらに、フロアからの質問をきっかけに、「理解を目的とするサマリーライティングか、サマリーライティングの習得を目的とする理解促進か」という重要な論点についての活発な議論が展開されました。この議論は、サマリーライティング指導における根本的な問いを改めて提示するものでした。
3. 授業実践へのフィードバックと今後の展望
授業における教師のフォローの重要性も強調されました。間違えやすい箇所や理解が不十分な箇所を迅速に把握し、適切なフィードバックを行うことで、生徒の学習効果を高められると指摘されました。この迅速なフィードバックは、生徒の誤解を未然に防ぎ、より効果的な学習を促す上で不可欠な要素と言えます。 発表後には、アフレコやディベートにおけるオーラル・インタープリテーションの重要性、5時間という活動時間設定の妥当性など、実践内容に関する多角的な意見交換が行われました。特に、ディベートにおいてはスクリプトに頼るだけでは効果的なコミュニケーションが困難になるという指摘は、実践的な英語運用能力育成の重要性を改めて示唆しています。 発表全体を通して、熊谷先生の生徒への深い愛情と、常に改善を追求する姿勢が強く感じられました。 参加者からは、熱意あふれる授業実践への賞賛や共感の声が多く聞かれ、多くの教員にとって示唆に富む発表となりました。
II.戸田先生の授業改善 予習プリントと英文読解指導
滋賀県立石山高等学校(生徒数1080名、国公立大学進学率県内上位)の戸田教諭は、授業予習プリントを用いた英文読解指導について発表しました。チャンクごとに区切られた英文と日本語訳を掲載したプリントを使用し、ポーズ・リスニングを取り入れた音読指導の効果を検証。しかし、スラッシュ挿入作業が内容理解に繋がっていないという指摘や、チャンク理解の転移が不十分であるという問題点が議論されました。 3学期には訳文配布を廃止し、教科書より易しい英文を使用することで生徒の英文読解力の向上を図り、進研模試の結果にもわずかながら改善が見られました。和訳の位置づけや予習における完璧理解の必要性についても議論が交わされました。 また、英語ディベートの前に日本語ディベートを行うことの是非についても議論されました。
1. 予習プリントを用いた英文読解指導 滋賀県立石山高等学校の実践
戸田先生は、滋賀県立石山高等学校(生徒数1080名、県内トップレベルの進学校)における、英文読解指導の1年間の実践を報告しました。その中心は、授業予習のためのプリントです。このプリントは、教科書本文をチャンクごとに区切り、左側に英文、右側に日本語訳を配置し、空所補充問題も取り入れた構成になっています。 授業では、このプリントを用いてチャンクごとの英文の音読や理解活動を行いました。しかし、参加者からは、生徒が自らスラッシュを入れてチャンクを区切るポーズ・リスニングと、予めチャンクが示されたプリントを用いた音読との間に有意差が見られないという指摘がありました。 さらに、ポーズ・リスニングによるスラッシュ挿入作業が、生徒にとって単なるメカニカルなドリルになっており、内容理解に繋がっているとは言い切れないという意見も出されました。また、1年生でスラッシュ入りのプリントを用いた学習が、2年生になっても効果的に転移していないという問題点も浮き彫りになりました。
2. プリント構成の変更と教材選定 VIEWPOINT教材の導入
授業改善の一環として、プリントの構成も変更されました。当初は穴埋め形式の日本語訳が含まれていましたが、日本語訳が目に入りやすいという指摘を受け、英語と日本語の配置を逆転させました。この変更によって、生徒の視線が日本語訳に偏ることを防ぎ、英文への注視を促す狙いがありました。しかし、プリントを真ん中で折ればどちらの配置でも問題ないという意見も出て、議論を呼びました。 興味深い点として、採用試験の面接官が授業参観に来るシステムが紹介されました。これは、教員の育成や指導に力を入れている学校の姿勢を示すものでした。 3学期には、長文読解教材「VIEWPOINT」を導入し、訳文の配布を廃止しました。この変更にも関わらず生徒から不満は出なかったことから、教材の英文レベルが教科書より易しかったことが要因として考えられました。進研模試の結果は3学期にわずかに伸びており、3学期の指導法を次年度にどう活かすかが今後の課題となりました。戸田先生は、和訳は英文読解の補助であり、予習では完璧な理解を求めないという自身の指導方針を明確に示しました。
3. 英語ディベートと和訳の役割 授業改善における議論
英語ディベートの前に日本語でディベートを行うべきかという議論も展開されました。参加者の多くは、日本語でディベートを行うことに賛成していました。英語でディベートを行うことのメリットとしては、授業時間短縮と、他教科の知識を活かせる点が挙げられました。しかし、思考は言語に依存しないという意見の一方で、思考回路は母語であるという意見もあり、結論は出ませんでした。 さらに、サーキット・スピーチのような即時的なサマリー活動は、高度な英語力を持つ生徒に限定される可能性が指摘されました。 また、16行で構成された文章が、ボディ1・2・3という構成になっているかどうかの検証も必要であるという指摘があり、生徒への定型指導におけるバランスの重要性が強調されました。 これらの議論を通して、英文読解指導における様々な側面が改めて検討され、今後の授業改善のための貴重な示唆が得られました。
III.小野木先生の英語活動授業 英語特区での実践報告
大阪教育大学付属池田高等学校の小野木講師は、池田市の英語教育特区における6年間の授業実践を報告しました。オーセンティックシチュエーションの提供による生徒のモチベーション向上や、思考力・判断力・表現力育成のためのタスクベース学習の重要性を強調。ペア活動・班活動、協働学習(collaborative learning)、共同学習(cooperative learning)の有効性と課題についても言及されました。 また、学校運営への参加や、研修、保護者とのコミュニケーションの在り方など、特区ならではのユニークな取り組みも紹介されました。パフォーマンス評価やcan-do評価の導入についても議論されました。
1. 小野木先生の経歴と英語教育特区での活動
小野木先生は、ご主人の転勤に伴い各地を転居しながらも、教員として活躍されてきました。息子さんの成長を機に職場復帰を目指し、池田市の英語教育特区で非常勤講師の職を得たとのことです。 長年の経験と、特区という環境が相まって、小野木先生はこれまで培ってきた教育ノウハウを存分に発揮している様子が伺えます。 発表では、渋谷中学校での6年間の授業活動が報告されました。 この経験から、小野木先生は様々な教育手法を実践し、その成果や課題を明らかにしました。発表内容は、英語教育特区という特殊な環境下での実践に基づいており、他の教育現場においても参考となる多くの示唆を含んでいます。 特に、文部科学省が推進する「思考力・判断力・表現力」の育成という観点からも、その取り組みは注目に値します。
2. オーセンティックシチュエーションとタスクベース学習
小野木先生は、生徒が実際に英語を使う場面や機会を与える「オーセンティックシチュエーション」の重要性を強調しました。 これにより、生徒は英語学習への現実味を感じ、モチベーションの向上に繋がるとしています。これは、文部科学省が推進する「思考力・判断力・表現力」の育成にも合致する考え方です。これらの能力は、教科書の訳読だけでは育成されず、タスクを与えてそれをこなす中で培われると述べています。 そのため、言語の使用を促す現実的な状況設定が重要であり、タスク達成のための思考・判断過程を重視した授業デザインが推奨されています。 小学校を中心に広がりつつあるパフォーマンス評価を中学校・高等学校にも導入し、can-do評価と併せて検討すべきという提案もなされました。 これは、生徒の英語運用能力をより正確に評価し、効果的な指導を行うための重要な視点となっています。
3. 協働学習 cooperative learning と共同学習 collaborative learning の導入と課題
小野木先生の授業では、多くの参加者がペア活動や班活動を取り入れていることが報告されました。その目的として、「寝る生徒がなくなる」「協力し合いながら学習する」といった効果が挙げられていました。 しかし、「協力(cooperate)」と「協働(collaborate)」の違い、そして共同学習の目的(補うためか、目標を分担して達成するためか)によって、学習効果が大きく変わる可能性が指摘されました。 効果的な実践のためには、具体的なプランや指導案の策定が不可欠であり、英語授業と「英語活動」の連動が重要であると強調されました。「英語活動」は生徒主体、英語授業は4技能をバランスよく育成するという異なるスタンスを持つ両者を、効果的に連携させる必要があるとされました。 門真市で教員をされていた先生からは、授業と活動が連動せず、大きな力となり得ないもどかしさがあったという指摘があり、実践における課題が明らかになりました。
4. 英語教育特区以外の学校現場における考察 学校運営への参加と研修
小野木先生は、池田市の英語教育特区における学校運営のユニークな側面も紹介しました。 校長や教頭、リーダー教員との会議に、関係者ではない小野木先生が参加していたこと、そして、入学前の保護者会における校長のビジョンに基づいた迅速な意思決定、保護者からの質問受付システムなどが紹介されました。 また、教員研修は年5回行われ、そのうち2回は保護者との話し合いに充てられている点も興味深いものでした。 さらに、多くの委員会とMLによる情報伝達、教員スタッフの配置、スタッフミーティングの頻度など、学校運営の効率性とコミュニケーションの重視について詳細な説明がありました。 これらの報告を通して、英語教育特区における独自の取り組みが示されましたが、同時に、学校運営のあり方や教員研修、保護者との連携など、他の学校現場においても参考となる多くの示唆が提示されました。
IV.中西先生の英語授業 Visualizeによる授業デザイン
八幡高校の中西教諭は、英語授業のスローガンとして“visualize”(視覚化)を掲げ、イメージングを取り入れた授業デザインを紹介しました。和訳プリント、予習プリント、コラムナー・リーディングなどを用いた実践と、それらを用いた授業におけるペアワークの効果について発表。生徒のチャンク理解の程度や、文法知識の重要性、イメージ・リーディングの限界などが議論されました。 また、和訳プリントのあり方、Columnar Readingにおけるサイト・トランスレーションの工夫、口癖化させたキーワードによる授業効果についても触れられました。KJ法を用いたキーワード整理も提案されました。
1. 中西先生の職歴と授業のスローガン Visualize
中西先生は、滋賀県内の高校2校勤務経験、ミシガン州への交換教員派遣(10ヶ月)、彦根のホテルでの民間企業研修(3ヶ月)、滋賀県教育委員会での指導主事勤務(2年)を経て、現在は八幡高校で教員として研究開発事業に従事しているという豊富な経験を持つ先生です。 中西先生の英語授業のスローガンは“Visualize”で、「思い浮かべる、心に描く、目に見えるようにする、視覚化する」という意味を持ちます。このスローガンは、先生の授業デザイン全体を貫く重要なキーワードとなっています。 発表では、この“Visualize”をどのように授業に取り入れているか、具体的な教材や指導法が紹介されました。 参加者との議論を通して、この“Visualize”が生徒にとってどのように捉えられているか、そしてその効果や限界などが多角的に検討されました。先生の多様な経験に基づく授業デザインと、参加者からの活発な意見交換は、英語教育における様々な課題と可能性を示唆するものとなりました。
2. 教材と指導法 和訳プリント 予習プリント コラムナー リーディング
中西先生は、授業で使用する様々なプリントについて説明しました。 まず、言語材料や英語特有の言い回しを空欄にした和訳プリント、教科書会社のCDRを参考に作成した予習プリント(新出単語の意味・品詞調べ・読解)、そしてコラムナー・リーディング用プリント(自宅で一人通訳作業、授業でペアワーク)の3種類です。 和訳プリントに関しては、「青天の霹靂」のような日本語の意味が分からない生徒がいることや、「There was no sign at all.」のようなこなれた日本語訳よりも、NO SIGNとそのまま理解させる方が効率的という意見が出されました。 コラムナー・リーディングは、A4サイズの表にチャンク毎に英文と日本語訳を縦列に並べ、裏には逆の配置にしたものを用いたペアワークです。日本語から英語、英語から日本語への翻訳を通して、サイト・トランスレーションを応用した活動でした。 これらの教材の使い分けや、活動の工夫点について、参加者と活発な意見交換が行われました。
3. Visualize の効果と授業デザイン Oral introductionとKJ法
中西先生の授業では、“Visualize”を合い言葉として、生徒の積極的な参加を促す効果が見られました。授業中の挙手が増え、リピートの声も大きくなったとのことです。和訳に時間をかけずに文構造を自ら確認する生徒が増えたこと、そして先生自身も驚くほど“Visualize”という言葉が生徒の間で口癖のように使われるようになったことは、この手法の有効性を示す事例といえます。 授業導入(Oral introduction)のタイミングについても議論が交わされました。 次回授業への期待感を高めるため、前時限の終わりに次回の内容紹介を行うこと、生徒からのイメージやキーワードを板書し、KJ法を用いて整理していくことが提案されました。 また、和訳プリントを使用する理由として、和訳に時間をかけずに他の活動に時間を割けること、生徒に「分かった感」を与えること、教員に「安心感」を与えることなどが挙げられ、和訳プリントの有効性と、その適切な使用方法について議論が深まりました。
4. 授業実践と今後の展望 グループワーク ALTとの連携 学習習慣の重要性
グループワークにおける清書用紙と下書き用紙の提出、ALTによる添削と評価といったプラスアルファの活動を通して、インプットからアウトプットへの流れが定着したという報告がありました。習熟度別授業(ABCクラス)を実施することで、生徒の理解度に応じた指導が可能になった点も成果として挙げられています。 さらに、学習効果を高めるためには学習規律が重要であり、新出単語の予習や辞書の持参を徹底すること、ノート学習の習慣化を促すことの必要性が強調されました。 紙辞書と電子辞書のそれぞれの利点と活用方法についても議論があり、特に電子辞書の例文機能の活用方法や、音声機能による発音指導の重要性が指摘されました。 中西先生は、生徒同士が英語で話す時間と書く時間を積極的に設ける授業、生徒が楽しく感じる授業、生徒が自分の考えを共有する授業の3点を常に意識した授業デザインを心がけていると述べています。
V.坂本先生の指導法 スローラーナーへの文法指導
湖北にある高校の坂本教諭は、スローラーナー(遅い学習者)に焦点を当てた文法指導について発表しました。音読活動を中心とした楽しい文法授業の実践を通して、文法の理解と定着、英語を話すことへの関心の育成を目指した授業デザインを紹介。スローラーナーのつまずきの原因(単語、学習習慣、学習意欲)を分析し、反復練習の重要性や段階的な課題設定、アウトプット活動の充実を強調。学習規律の重要性や、ノート学習の効果についても言及しました。電子辞書と紙辞書の活用方法についても議論が交わされました。
1. スローラーナーへの文法指導 坂本先生の授業指針と学校紹介
坂本先生は、創立116年の歴史を持つ、就職と進学の両方に力を入れている高校で教鞭をとっています。 学校の校訓は「致学竭誠(ちがくけっせい)」で、生徒たちは部活動にも熱心に取り組んでいるとのことです。 坂本先生自身の授業指針は「言語活動の充実」であり、特にスローラーナー(遅い学習者)への効果的な文法指導に焦点を当てた実践が紹介されました。 スローラーナーへの指導における課題として、単語(発音・綴り・意味)の不足、学習習慣の未確立、学習意欲の低さなどが挙げられ、ベネッセの調査結果なども紹介されました。 これらの課題を踏まえ、先生はスローラーナーが文法を楽しく学び、文法力を向上させるための具体的な指導法を提案しました。 特に、生徒一人ひとりの特性を理解し、それに合わせた指導を行うことの重要性が強調されました。
2. 楽しい文法授業 音読活動を中心とした実践
坂本先生は、2年生の選択科目「総合英語」において、音読活動を核とした「楽しい文法授業」を実践しています。 この授業の目的は、文法の理解度と定着度を高めること、そして英語を話すことへの関心や態度を育てることです。 授業では、様々な種類の音読活動を取り入れ、生徒が楽しみながら文法を学ぶことができるよう工夫されています。 しかし、個々の発音ができない生徒への指導の必要性や、身体を動かす工夫、発音・音声の入力の自動化などを検討する必要があるという意見も参加者から出されました。 グループディスカッションでは、スローラーナーへの指導においては「説明がシンプルで分かりやすいこと」が重要であり、短時間でも的確な説明ができるかが問われるという意見が出されました。 英国の中学校での授業参観経験から、教員の解説時間が短く、生徒同士の活動時間が長いという点も指摘され、分かりやすい説明の重要性が再確認されました。
3. スローラーナーに適したアウトプット活動 反復と段階的アプローチ
坂本先生は、「知識を提示するだけの授業は×、生徒が実際に英語を使う授業が○」という理念のもと、スローラーナーに適したアウトプット活動について解説しました。 スローラーナーは反復が必要であることを踏まえ、活動プロセスの段階的な区切り方、そして課題の階層化の重要性が強調されました。 例えば、課題をA、B、Cの3つのレベルに分け、Aは全員が取り組む基礎、BはAができた生徒が取り組む発展、Cはさらに自信のある生徒が取り組む応用というように、生徒のレベルに合わせた段階的なアプローチが有効だとされました。 また、スローラーナーが負担を感じにくくするため、作文をオープンエンド形式にするだけでなく、選択肢を用意するなどの工夫も必要だとしながらも、選択肢を選ばせた後には必ず「Why」と尋ね、思考を深めることの重要性も指摘されました。 参加者からは、「興味関心がない」「集中力が無い」「その時は分かったつもり」といったスローラーナーの特徴が挙げられ、教員の進度を意識した授業ではついていけないという意見も出されました。
4. スローラーナー支援のための指導法 可視化と反復の重要性
スローラーナーへの効果的な指導法について、グループ討論が行われました。 その中で、活動内容の可視化の重要性が指摘され、教員がモデルを示すことや、グラフィック・オーガナイザーを活用することが有効だとされました。しかし、それらを行う前に、板書を効果的に活用し、生徒と対話しながらキーワードなどを整理し、KJ法などを用いて思考を可視化することが重要であるという意見も出されました。 板書における適切な「間」は生徒に考える時間を与える上で重要であるとされました。 スローラーナーは反復学習が不可欠であることから、一度だけの活動で終わらせるのではなく、継続的な取り組みが求められることが改めて強調されました。 また、エラー訂正に関しては、内容重視の側面と正確性の両立が求められ、単に誤りを指摘するだけでなく、生徒が理解できるよう丁寧に説明することが重要であるという意見が出されました。
VI.岡本先生の指導法 自己表現と学習者心理
三重県立名張高等学校の岡本教諭は、自己表現と学習者心理の理解に重点を置いた指導法を発表しました。新任当時の悩みや葛藤を踏まえ、生徒を褒めることの重要性、自己表現につながる活動、作品制作の重要性を強調。遅刻生徒への即興スピーチ、沈黙による生徒の意識改革、挨拶指導などのユニークな実践例を紹介しました。Error correctionの方法についても議論され、生徒の活用状況や効果的なフィードバックの方法が検討されました。
1. 教師としての葛藤と学習者心理の理解 岡本先生の導入
岡本先生は、三重県立名張高等学校の教諭として、新任当時の自身の未熟さや悩み、そして改善への取り組みについて率直に語りました。 特に、意欲を持って授業に臨んでいても、具体的な工夫が分からず悩んだ経験を共有することで、参加者との共感を深めました。 この経験に基づき、岡本先生は学習者心理の理解が教師にとっていかに重要であるかを強調し、自己表現能力の育成と学習者心理の理解を重視した指導法の必要性を訴えました。 発表では、先生自身の経験から生まれた具体的な指導法が紹介され、自己表現を促す活動や作品制作を通して、生徒の主体的な学習を支援する姿勢が示されました。 先生自身の経験に基づいた率直な語り口は、多くの参加者に共感を与え、実践的な指導法への期待感を高めました。
2. 学習者心理の理解と生徒への肯定的フィードバック
岡本先生は、生徒の学習意欲を高めるためには、学習者心理の理解が不可欠であることを強調しました。 生徒の個性や学習状況を的確に把握し、適切な支援を行うことで、より効果的な指導が実現すると説明しました。 具体的には、生徒を褒めることの重要性について詳しく説明し、肯定的なフィードバックが生徒の学習意欲を高め、自己肯定感を育む上で大きな役割を果たすと述べました。 生徒の個性や学習状況への理解を深めるための具体的な方法についても触れ、生徒一人ひとりに寄り添った指導の重要性を改めて示唆しました。 この部分は、多くの教員が抱える課題に直接的に触れた内容となっており、参加者からの共感を得ていました。
3. 自己表現につながる活動と作品制作 実践例の紹介
岡本先生は、生徒の自己表現能力を高めるための具体的な活動例を紹介しました。 遅刻をした生徒に英語で即興スピーチをさせるというユニークな方法や、生徒の行動を注意する際の方法論についても説明がありました。 特に、生徒との最初の出会いの際に沈黙を用いるという方法は、英国の中学校での実践例と同様であり、参加者の興味を引きました。 この方法では、教員が生徒をじっと見つめることで、生徒は静かにすべきだと気づくというものです。 さらに、カレーの調理に例えて、「火の付け方」と「間」の重要性を説明し、生徒を叱責するのではなく、適切なタイミングと方法で指導することの大切さを伝えました。 挨拶の仕方をきちんと教えるといった、生徒の姿勢を正す指導についても触れ、教育における細やかな配慮の重要性が強調されました。
4. エラー訂正と継続的な活動 効果的なフィードバックの重要性
エラー訂正の方法についても、様々な意見が交わされました。 内容重視という考え方の一方で、正確な英文を書くことの必要性も指摘され、エラー訂正マークを施し、分からなければ担当者に質問させる方法などが提案されました。 しかし、教員が訂正した英文を返却しても生徒が活用しないケースも多いという意見もあり、原文と訂正文を併記するなど、生徒が積極的に活用できるような工夫が求められることが示唆されました。 これらの議論を通して、生徒の自己表現能力を高めるためには、単発的な活動ではなく、継続的な取り組みが不可欠であるという結論が示されました。 また、効果的なフィードバックの方法や、生徒の学習者心理を理解した上で、適切な指導を行うことの重要性が改めて強調されました。