
駅混雑調査:ボトルネック解消に向けた現地調査結果
文書情報
学校 | 大学名(不明) |
専攻 | 交通工学、都市計画、または関連分野 |
場所 | 不明 |
文書タイプ | 調査報告書 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 2.59 MB |
概要
I.調査対象駅と調査方法
本調査は、銀座線虎ノ門駅、日比谷線神谷町駅、銀座線新橋駅(環状2号線開発・東北縦貫線開業による混雑増加が予想される)、および日比谷線築地駅(朝ピーク時のボトルネック発生)を対象とした。旅客流動の計測には、ビデオカメラと時刻記録付カウンターを使用。虎ノ門駅、神谷町駅では車両扉別の降車分布も調査。虎ノ門駅では駅出場客の地上部における方向別通過人数も計測し、ピーク時1時間における出口11(文科省方面)の通過人数は約3,600人であったことが判明。
1. 調査対象駅の選定
本調査では、ケーススタディとして既に調査済みの銀座線虎ノ門駅と日比谷線神谷町駅に加え、新たな調査対象駅として2駅を選定した。1つは、環状2号線周辺の開発と東北縦貫線の開業による混雑増加が予想される銀座線新橋駅である。近年、大規模な都市開発が進行しており、これに伴う乗降客数の増加が予想されるため、新橋駅を選定した。もう1つは、昨年度実施した観察調査において、朝ピーク時間帯にボトルネック箇所で旅客の捌け残りが確認された日比谷線築地駅である。この駅では、特に朝ラッシュ時の混雑が深刻な問題となっており、その原因究明と改善策の検討が必要と判断された。これらの4駅を対象に、ピーク時間帯における旅客流動状況の詳細な分析を行うことで、混雑緩和のための効果的な対策を検討することを目的とした。
2. 旅客流動計測方法
旅客流動の計測には、主にビデオカメラと時刻記録付カウンターの2種類の方法を用いた。旅客数が多く、ビデオカメラを設置できるスペースが確保できる箇所では、ビデオカメラによる撮影を行い、後日ビデオを分析することで旅客の移動状況を詳細に計測した。一方、ボトルネック箇所など、旅客通過数の把握が特に重要な箇所については、時刻記録付カウンターを用いた計測を行った。このカウンターは、通過した旅客をカウントした時刻を1/1000秒単位で記録し、SDカードに保存する機能を備えている。記録されたデータは、5秒や10秒単位で集計することで、時間的な変化を捉え、旅客流動の遷移を詳細に把握することを可能にする。これにより、ボトルネック箇所における旅客の流れの変動を正確に把握し、混雑原因の特定に役立てた。
3. 現地調査項目
現地調査では、以下の3項目について計測を行った。第一に、旅客流動上のボトルネックとなる可能性のある箇所の通過旅客数を計測した。旅客流動の阻害とならないよう計測員を配置し、カウンターを用いて計測を実施した。第二に、虎ノ門駅と神谷町駅のみに絞って、車両扉別の降車分布を把握した。全ての扉に計測員やビデオカメラを設置することは、空間的な制約や旅客流動への悪影響を考慮すると困難であるため、最も降車客数の多い扉については全ての列車でビデオ撮影を行い、その他の扉については列車ごとに撮影する扉を変更して撮影した。第三に、虎ノ門駅のみ、駅出場客の地上部における方向別通過人数を計測した。虎ノ門駅は複数の出入口を持つため、地上に出てから目的の方向へ移動する場合と、駅構内で移動して最寄りの出口から出る場合があり、地上部での移動状況を把握する必要があるため、この調査項目が設定された。ピーク1時間における出口11(文科省方面)の通過人数は約3600人であった。
II.自動改札機とエスカレータの捌け人数
虎ノ門駅の自動改札機と神谷町駅のエスカレータ(2人用、1人用)におけるピーク時の旅客通過状況を5秒単位で計測。状態A(混雑)、B(整流化)、C(混雑)に分類し、各状態における通過人数と時間を分析。これにより、各施設の最大捌け人数を算出し、旅客流動の改善策検討に活用するデータを得た。
1. 虎ノ門駅自動改札機の捌け人数分析
虎ノ門駅1番線渋谷方面改札の自動改札機1台を対象に、ピーク時間帯(8:30~9:30)の旅客通過状況を5秒単位で計測した。ピーク30分間のデータを分析した結果、旅客がスムーズに通過する状態(状態B)では、約5秒間に5人(1人/秒)が通過することが確認された。状態A(混雑)と状態C(混雑)についても分析し、ピーク1時間における平均通過人数と時間を算出した。状態Aでは6人の通過に10秒、状態Cでは11人の通過に23秒を要した。これらのデータは、運行間隔を2分とした場合の階段における幅員1mあたりの最大捌け人数を算出する際に用いられた。この分析から、自動改札機の処理能力と混雑状況を定量的に把握し、改善策検討のための基礎データを得ることができた。
2. 神谷町駅エスカレータの捌け人数分析
神谷町駅についても、ピーク時間帯(8:30~9:30)の旅客通過状況を5秒単位で計測した。対象は1番線北千住方面エスカレータ(2人用)と2番線北千住方面エスカレータ(1人用)である。2人用エスカレータでは、旅客が整流化して通過する状態(状態B)において、約5秒間に8人(1.6人/秒)が通過することが確認された。1人用エスカレータでは、状態Bにおいて約5秒間に4人(0.8人/秒)が通過していた。同様に、状態Aと状態Cについても分析し、到着列車毎の状態別通過状況を整理した。これらのデータは、運行間隔を2分とした場合のエスカレータにおける最大捌け人数を算出する際に用いられ、エスカレータの処理能力と混雑状況を定量的に評価する上で重要な役割を果たした。
III.鉄道施設整備と都市開発の連携事例
鉄道駅と周辺の不動産開発事業を連携させた事例(連携事業)を調査。具体的には、駅出入口の新設、コンコースの拡幅、地下通路整備などが挙げられる。費用負担は鉄道事業者と開発事業者間で協議され、ケースによって異なる。バリアフリー化の整備も含まれる事例も存在する。新駅の整備事例では、自治体による全額負担や、費用負担に関する明確なルール整備の必要性が指摘された。
1. 駅出入口新設 コンコース拡幅事例
鉄道施設の改良と周辺の不動産開発事業を連携させた事例として、駅出入口の新設や地下鉄駅のコンコース拡幅が挙げられる。これらの整備は、隣接する開発事業に合わせて行われ、鉄道事業者と開発事業者の連携によって実現している。具体的には、隣接する開発事業の進展に合わせて、駅の出入口を新設したり、隣接建物の地下部分の改良に合わせてコンコースを拡幅するといった事例が見られる。費用負担については、ケースによって異なるものの、鉄道事業者と開発事業者間で協議の上、決定されていることが伺える。この連携により、鉄道利用者の利便性向上と都市開発の進展が両立されている点が重要である。
2. 鉄道施設整備主導の都市基盤整備事例
鉄道駅の耐震性向上や乗換利便性向上といった大規模な駅改良を契機に、周辺の都市基盤整備を一体的に実施した事例が存在する。具体的には、交通結節機能の強化や、鉄道や幹線道路によって分断された市街地を繋ぐ歩行者ネットワークの強化などが挙げられる。これらの整備には、学識経験者、行政、鉄道事業者、開発事業者からなる委員会が設置され、情報共有が行われた。費用負担については、主要な部分は鉄道事業者が主体となって資金を調達し整備を進める一方、開発地区に接続する改札口の新設などについては、開発事業者からの費用負担があったケースも確認されている。開発事業者側の費用負担は、開発竣工の期限が迫っていたため、協議を長引かせられない事情があったことによるものである。
3. 行政 開発事業者連携 国庫補助を活用した事例
国の施設跡地再開発事業との連携において、行政主導で検討が進められた事例も存在する。この事例では、通路は鉄道施設として整備され、国庫補助を活用し、国、自治体、開発事業者で費用を負担している。維持管理費用については、開発事業者側が負担している。また、駅コンコースと隣接ビルと一体となった地下通路を道路(国道)下を縦断的に整備した事例もある。この事例では、自治体が新規開発を行う事業者に対し、まちづくり基金への負担金を要請し、基金から鉄道駅と開発地区を繋ぐデッキ整備への補助金が拠出された。これらの事例は、多様な主体による連携と財源確保の工夫が成功の鍵となっている。
4. 鉄道駅と隣接ビルを連絡する地下通路整備事例
多くの事例において、鉄道駅と隣接ビルを連絡する地下通路の整備が行われている。これらの整備は、開発事業者からの鉄道事業者への協議依頼に基づいて行われ、通路幅員、接続位置、構造、施工方法について協議が行われた。費用負担は、多くの場合開発事業者による全額負担となっている。ただし、バリアフリールートが確保されていない駅では、連絡通路整備と同時にバリアフリールートの整備も行われ、その場合は鉄道事業者も費用を負担しているケースがある。これは、バリアフリー化の重要性を示すものであり、開発事業者だけでなく、鉄道事業者も社会的な責任を負っていることを示唆している。
5. 新駅整備事例
自治体から鉄道事業者に対して開発地区内に新駅設置を要請する(請願駅)事例もある。この場合、自治体が全額負担して駅を整備し、運営費については一部を鉄道事業者が負担するケースが見られる。しかし、新しい改札や出入口の整備については、最初に費用負担を申し出た者が負担する構造になりがちであり、より公平な費用負担の仕組みが必要とされている。また、出入口の増設などを鉄道事業者に請願する場合、設計検討費用まで開発側が負担しなければならないケースがあり、検討費用の適正性に関する課題も指摘されている。 これらの事例から、新駅整備における費用負担の明確化と、鉄道事業者と自治体・開発事業者間のより円滑な連携体制の構築が重要であると結論付けることができる。
IV.連携強化に向けた課題と要望
鉄道施設整備と都市開発の連携強化に向けて、都市計画段階からの道路管理者への参画、維持管理費負担の明確化、開発スケジュールとの調整、情報共有の仕組み整備などが課題として挙げられた。鉄道事業者からは、まちづくりへの積極的な関与、開発事業者からの情報提供の促進、再開発組合解散後の費用負担の明確化などが要望された。
1. 都市計画と道路管理者との調整
鉄道施設整備と都市開発の連携強化における課題として、都市計画と道路管理者との調整の難しさが指摘されている。鉄道と連携した開発では、都市計画が先行し、その後で道路管理者との調整が必要となるケースが多い。この調整に時間を要することが多いため、計画段階から道路管理者を参画させることで、よりスムーズな連携体制を構築する必要がある。特に、都市計画担当者と道路管理担当者との間で温度差がある場合、調整に余計な時間がかかってしまうため、関係各所が早期から連携し、調整を進めることが重要である。早期からの調整によって、開発スケジュールに遅延が生じるリスクを低減し、効率的な事業推進を実現することが期待できる。
2. 維持管理費用の負担
鉄道施設整備と都市開発の連携において、維持管理費用の負担についても課題が見られる。具体的には、維持管理費用を開発側が負担する事例と、鉄道事業者が負担する事例があり、明確なルールが確立されていない。費用負担の明確化は、関係者間のトラブルを予防し、長期的な事業の持続可能性を確保するために不可欠である。そのため、費用負担に関する明確なルールを定めることで、関係者間の紛争を未然に防ぎ、効率的な事業運営を促進することが期待できる。また、維持管理費用の負担割合についても、関係者間の合意形成が重要となる。
3. 費用負担に関する課題と新駅整備における課題
新しい改札や出入口の整備など、費用負担の責任が不明確な部分も課題となっている。現状では、最初に費用負担を申し出た者が負担する構造になりがちであるため、より公平で透明性の高い費用負担の仕組みが必要とされている。例えば、出入口の増設を鉄道事業者に請願した場合、設計検討費用まで開発側が負担しなければならないケースがあり、その見積りの適正性についても判断が難しい。さらに、鉄道事業者からのまちづくりへの積極的な関与、開発事業者からの情報提供の促進、再開発組合解散後の費用負担の明確化など、様々な課題と要望が提示されている。これらの課題を解決することで、鉄道事業者と都市開発事業者間の連携強化が促進され、より効率的で持続可能な都市開発を実現することが可能となる。
4. 情報共有と鉄道事業者の積極的な関与
鉄道駅から離れた地区での開発においては、開発事業者からの情報提供が不足していることが課題として挙げられている。そのため、鉄道事業者側が自ら情報を収集する必要があり、効率性の低下につながる。この問題を解決するために、鉄道事業者への情報が入りやすい仕組みの構築が必要である。また、開発スケジュールに制約され、費用負担を受け入れざるを得ない状況も問題視されている。これらを改善するためには、鉄道事業者と開発事業者間の情報共有体制の強化と、鉄道事業者からの積極的なまちづくりへの関与が求められる。鉄道事業者が主体的にまちづくりに関わることで、より効果的で効率的な都市開発を推進できる可能性がある。
V.交通量予測モデル
交通量予測には、平成20年東京圏パーソントリップ調査データを用いた交通機関選択モデルと、平成17年大都市交通センサスデータを用いた鉄道経路選択モデルを用いた。これらのモデルは、徒歩・二輪車率、交通機関別の時間・費用等のサービス水準、混雑率などを考慮して、ゾーン間交通量、鉄道経路別交通量、駅別乗降客数を予測する。
1. 交通機関選択モデル
ゾーン間の全交通量から、徒歩・二輪車利用者を徒歩・二輪車率曲線を用いて分離した後、残りの交通機関利用者について、非集計交通機関選択モデル(ロジットモデル)を用いて鉄道、路線バス、乗用車の利用者に分割する。このモデルは、平成20年東京圏パーソントリップ調査データに基づいて構築されており、交通機関別の時間、費用といったサービス水準を考慮することで、利用者がどの交通機関を選択するかを予測する。このモデルを用いることで、各交通機関の利用者数を正確に推計し、その結果を基に、鉄道施設整備の効果をより正確に評価することが可能となる。モデル構築には、個票データを用いてパラメータ推計が行われ、t検定値を用いて説明変数の説明力の強さを検証している。
2. 鉄道経路選択モデル
交通機関別交通量の予測で得られたゾーン間鉄道利用者が、具体的にどの鉄道経路を利用するかを予測するために、非集計鉄道経路選択モデル(構造化プロビットモデル)を用いる。このモデルは、平成17年大都市交通センサスデータを用いて構築され、鉄道経路別の所要時間、費用、混雑率などの要素を考慮している。混雑率については、運輸省鉄道局の報告書を参考に、混雑率の二乗に乗車時間を乗じた値を指標として用いている。このモデルは、利用者が列車内混雑の低い路線を選択しやすい傾向を予測に反映しているため、より現実的な経路選択予測が可能となる。モデルのパラメータには、分散パラメータや駅端末利便性といった指標も含まれており、経路間の重複度や駅へのアクセスしやすさが経路選択に与える影響も考慮されている。
VI.利用者便益と地価上昇効果の算定
駅構内移動時間短縮、新駅整備による利用者便益と地価上昇効果を算定。利用者便益は、改良前後における所要時間差に時間価値を乗じて算出。地価上昇効果は、都道府県地価調査と国土交通省地価公示データを用いた地価関数に基づき、収益還元法を用いて算出した。商業地域では商業地地価を用いた。
1. 駅構内移動時間短縮便益の算定
駅構内移動時間短縮による利用者便益は、改良前後における1列車から降車した旅客が各目的地に到達するまでの所要時間を算出し、その差に時間価値を乗じることで算出する。計算対象期間は30年間、計算基準年度は2012年度、社会的割引率は4.0%と設定している。この方法は、改善策1と3(具体的にどのような改善策かは本文からは不明)の実施による便益算定に適用される。新駅整備(改善策2、4)の場合も同様の算定フローを用いるが、新駅Withケースでは虎ノ門駅、神谷町駅に加え新駅での総費用も計算する。新駅整備による交通量変化を考慮する必要があるが、計算の簡略化のため、新駅とその主な利用者転移元である虎ノ門駅、神谷町駅に限定して評価を行う。
2. その他の利用者便益と地価上昇効果の算定
その他の利用者便益は、需要予測における鉄道経路選択モデルのパラメータから計算されるゾーン間一般化費用を用いて算定する。改善策4でBRT整備を行う場合、道路渋滞への影響も考慮すべきだが、本調査では考慮していない。地価上昇効果については、最寄駅までの距離を主な要因として、都道府県地価調査(平成24年7月1日現在)と国土交通省地価公示(平成24年1月1日現在)のデータに基づいて推定した地価関数を用いる。既設駅の改良や地下通路の整備、BRT整備による地価上昇効果は、既存データがないため計算対象外としている。ケーススタディにおける日比谷線新駅整備では、周辺地域の用途が商業地域であるため、商業地地価を用いて地価関数を推定している。
3. 地価上昇による賃料収入増の推定
新駅整備による地価上昇分を算定する際、賃料収入増は収益還元法を用いて推定する。収益還元法とは、対象不動産が将来生み出すと期待される純収益の現在価値の総和を求めることで不動産価格を求める手法である。具体的には、直接還元法を用い、一定期間の純利益を割引率で割り算することで賃料収入増を推定する。この方法では、純利益を一定と仮定しているため、上記の式は無限等比級数の総和を求めることになり、結果的に純収益を割引率で割り算したものとなる。法人税率(実効税率35.64%)を乗じることで、税引後の賃料収入増を算出する。