HOKUGA: パネルディスカッション 「2045年問題」が投げかける課題と展望について

AIと雇用:2045年問題の展望

文書情報

著者

柴田 崇

学校

不明

専攻 人文科学、経済学、法学、工学
出版年 不明
場所 不明
文書タイプ パネルディスカッション記録
言語 Japanese
フォーマット | PDF
サイズ 1.35 MB

概要

I.AIによる雇用への影響と2045年問題

パネルディスカッションでは、人工知能(AI)の急速な発展がもたらす2045年問題、特に雇用への影響が中心的に議論されました。AIによる自動化で今後10年、20年後に多くの職種がなくなるというセンセーショナルな報道がありますが、講演者からは、その報道は誇張されている部分もあるとの指摘がありました。一方で、自動運転技術やスポーツ記事作成におけるAI活用事例が示され、AIが様々な分野に浸透していくことは避けられないとの認識が共有されました。ディープラーニングの進歩により、AIの学習速度は飛躍的に向上し、人間の能力を超える可能性も示唆されました。具体的な影響としては、製造業の白人男性労働者のトランプ支持といった政治的影響も分析されました。

1. AIによる雇用への影響 現状と課題

このセクションでは、AI技術の発展が雇用市場に与える影響について議論されています。特に、マスコミ報道における10年後、20年後に消える職業ベスト10や100といったセンセーショナルな報道に対し、元論文ではそこまで劇的な変化を予測しておらず、誇張されている部分があると指摘されています。講演者は、AIの影響は間違いなくあるものの、自動運転車と有人車の混在など、具体的な未来像はまだ不透明であると述べています。 AIが既に様々な分野で活用され始めていることを示す事例として、スポーツ記事のAIによる自動作成や、自動運転技術の開発状況などが挙げられています。 これらの事例から、AIが具体的な分野で急速に浸透していくであろうという認識が示されていますが、一方でAI技術自体の理解度がまだ十分でない点も強調されています。 経済学者の立場から、特に労働問題、雇用問題への関心の高さが示され、AI技術の急速な発展が雇用市場に大きな影響を与えるとの見解が述べられています。

2. AI技術の進歩とディープラーニング

AI技術の進歩、特にディープラーニングの進歩が、AIによる雇用への影響を大きく左右すると論じられています。講演者は、過去に放送された「クローズアップ現代」で取り上げられていた「人間は不要に」というテーマに触れ、AI技術の進化が雇用減少に繋がる可能性を示唆しています。しかし、講演者はAI技術の専門家ではないため、ディープラーニングがコンピューターに新しい判断や創造能力を与えているのか、単なるデータ処理の高速化なのか、その点について明確な理解を得られていないことを明かしています。 AIが専門的な業務だけでなく、突発的な状況への対応や、新たなデータからの学習能力を有している可能性についても言及されています。既存のプログラミングによる機械制御とは異なる、AI独自の学習機能が、雇用市場への影響を複雑化させている要因の一つであることが示唆されています。 また、ビッグデータの活用がAI技術の発展を促進している点も強調されており、AI技術の進歩とデータ量の増加が相乗効果を生み出している状況が示されています。

3. 2045年問題と社会への影響 政治と経済の視点

このセクションでは、AI技術の発展が2045年問題として社会に及ぼす影響、特に政治と経済への影響について議論されています。トランプ大統領の当選を例に、製造業で働く白人男性労働者のトランプへの劇的な支持が、AI技術による雇用不安と関連している可能性が示唆されています。これは、ラストベルトと呼ばれる五大湖周辺の州で顕著だったと分析されています。AIが将来、正確な経済予測を可能にすることで、消費税率の変更による経済成長率の予測など、政策決定に大きな影響を与えることが予想されます。その結果、各政党の政策の違いが小さくなる可能性も示唆されています。 しかし、現状の政治では有権者が大まかな情報に基づいて投票しているため、AI技術による予測の正確性が増すことで、政治への影響がどのように現れるのか、その予測は難しいとされています。 AI技術の進歩は、既存の政治・経済システムに大きな変化をもたらす可能性があり、その変化への対応策が課題として提示されています。

II.AIと政治 経済への影響

AIは経済政治にも大きな影響を与えると予想されています。AIによる正確な経済予測は、政策決定に大きな影響を与え、政党間の政策の違いが小さくなる可能性を示唆しています。しかし、有権者は必ずしも細かい政策の違いを理解して投票しているわけではなく、大まかなイメージで判断することが多いため、AIがもたらす変化への対応は複雑なものになると考えられます。トランプ大統領の当選は、製造業労働者のAIへの不安と結びついた例として挙げられ、AI技術の進歩と社会構造、政治的思潮の変化との関わりが指摘されました。

1. AIによる経済予測と政策決定

このセクションでは、AIが経済政策に及ぼす影響について考察されています。AIが将来、消費税率の変更による経済成長率といった経済指標を高い精度で予測できるようになると、政策決定プロセスに大きな変化が起こると予想されています。AIによる正確な予測が可能になれば、どの政党も同様の政策を掲げるようになり、政党間の政策の違いが小さくなる可能性が示唆されています。しかし、現状の政治においては、有権者が政策の細かい点を理解しているとは限らず、大まかなイメージやヒューリスティックな判断に基づいて投票することが多いとされています。そのため、AIによる正確な予測が、有権者の政治参加や投票行動にどのように影響を与えるのか、その影響は必ずしも単純ではないと指摘されています。AIによる経済予測の精度向上は、政策決定の効率化や透明性の向上に繋がる可能性がある一方、有権者の政治参加や民主主義のあり方にも影響を及ぼす複雑な問題であると結論付けることができます。

2. トランプ政権とAI 製造業労働者と政治的影響

トランプ大統領の当選を例に、AI技術の発展が政治に及ぼす影響が分析されています。トランプ政権の政策、例えば移民政策や自由貿易協定からの離脱は、アメリカ固有の労働者、特に製造業で働く白人男性労働者の生活を守るという主張と深く関わっていたと指摘されています。これらの労働者層は、低所得者層であり本来は民主党支持者であるはずでしたが、トランプを支持したという点に着目し、その背景にAI技術による雇用不安や経済的不安定感が存在した可能性が示唆されています。これは、五大湖周辺のラストベルトと呼ばれる地域で顕著だったとされています。 この分析から、AI技術の進歩が、既存の政治的枠組みや社会構造に影響を与え、予想外の政治的結果をもたらす可能性があることが示唆されています。AI技術による雇用不安が、特定の政治勢力への支持に繋がるという可能性は、今後の政治動向を考える上で重要な要素となるでしょう。

3. AIと政治の未来 AIに支配されない政治の可能性

AI技術の発展に伴い、「AIに支配されない政治」という新たな政治的ニーズが生まれる可能性が示唆されています。 AIによる政策予測の高度化によって、政治における政策選択肢が絞り込まれる一方で、有権者は依然として大まかなイメージや感情に基づいて投票を行う傾向があるため、AIによる予測と有権者の意思決定の間にはギャップが生じる可能性があると指摘されています。 このギャップは、新たな政治的イデオロギーや、AI技術に依存しない政治への要求を生み出す可能性がある、と論じられています。 アメリカにおけるブッシュ政権と福音派の結びつきを例に挙げ、AI技術に依存しない政治家と、人間の存在を肯定する宗教性が結びつく可能性が示唆されています。 AI技術の未来像によって状況は変化するものの、AIに依存しない政治や経済を訴える政治家が台頭する可能性は否定できないと結論付けられています。

III.AIと生物学 生命倫理

バイオテクノロジーの視点から、AIによる機械化と人間の定義の変化について議論されました。60兆個の細胞からなる人間の身体、特に脳細胞の機能とAIとの関係が考察されました。AIを機械ではなく、人間と捉える見方や、新たな生命体の定義について触れられました。シンギュラリティが現実となった場合、人間とAI、あるいは新たな生命体との共存や、人間の有限性、限界性の自覚について、宗教学的な視点も交えて議論が展開されました。具体的には、ES細胞研究や脳細胞と延髄の接続に関する研究事例が紹介されました。

1. AIと人間の定義 バイオテクノロジーの視点

このセクションでは、AIの発展がバイオテクノロジー、特に生命倫理の観点から議論されています。60兆個の細胞からなる人間の身体、特に脳細胞(大脳、小脳など)の機能とAIとの関係性が考察されています。AIの進化により、人間の定義そのものが変化する可能性が示唆されています。 具体的には、ES細胞(embryonic stem cell)の研究や、脳細胞と延髄を繋ぐことでサルを歩行可能にした画期的な研究事例が紹介されています。これらの事例から、バイオテクノロジー技術が人間の身体機能を変化させ、ひいては人間の定義そのものを揺るがす可能性が示されています。AIを単なる機械ではなく、人間とみなす視点も提示され、地球上に新たな生命体、あるいは新たな種類の動物が出現する可能性についても言及されています。 50年後には、人間の定義や生命の定義自体が大きく変わる可能性があり、その変化への対応が求められることが示唆されています。

2. AIと宗教 人間の有限性と限界性の自覚

AIの発展は、人間の有限性や限界性を改めて認識させる契機となると論じられています。伝統的な宗教観とAIとの違い、そしてAIが日常的に人間を超えていく感覚について議論されています。携帯電話など身近な機器を通して、AIがじりじりと人間の能力を超えていく様は、将棋AIと棋士の関係に例えられています。 AIの発展によって、人間は自身の有限性や限界性を強く意識するようになり、それにより宗教的な人間観の見直しや、新たな宗教的な解釈が生まれる可能性が示唆されています。 AIに支配されない政治への要求の高まりと、人間の存在を肯定する宗教性の結びつきについても言及されており、AI技術の発展が人間の精神世界に与える影響の深さが強調されています。 AIがどのように発展していくかによって、この関係性は大きく変化する可能性があると付け加えられています。

3. AI技術の模倣と人間の創造性 歴史的視点からの考察

AI技術が人間を模倣する方向に進む理由について、歴史的な視点から考察されています。中世の錬金術におけるホムンクルス(人工生命)の作成試みと、現在のAI技術開発を比較することで、人間の技術革新が常に人間自身を模倣しようとする傾向があることが指摘されています。 インターネットの発達によって、AI技術は人間のような物質的な生物を作り出そうという方向に進んでいると分析されています。これは、過去の技術革新の歴史において、最先端技術が常に人間を模倣しようとする傾向にあったという事実と関連付けられています。 プラハの天文時計の例が挙げられ、技術革新が常に超人的なものを具現化しようとしたり、生命を機械化しようとしたりするという歴史的背景が説明されています。この傾向が、AI技術開発の背後にも存在している可能性が示唆されています。

IV.AIブームとフレーム問題

人工知能ブームはこれまでにも幾度かあり、現在進行中のブームはディープラーニングの進歩とインターネットの発達によって加速されています。過去のブームでは、ニューラルネットワークを用いた文字認識などの研究が盛んに行われていました。しかし、フレーム問題と呼ばれるAIにおける根本的な課題は、依然として解決されていません。講演者からは、人間自身もフレーム問題を完璧に解決しているわけではないとの指摘があり、AIと人間の能力の差、そしてAI技術の進歩速度に関する議論が展開されました。東ロボくんの例が挙げられ、AIと人間の思考様式の差異が示唆されました。

1. 人工知能ブームの変遷とディープラーニング

このセクションでは、人工知能ブームの歴史と、現在のブームを特徴づけるディープラーニング技術について説明されています。人工知能ブームは過去にも何度か存在し、現在のブームは3度目、あるいは4度目と捉えられています。最初のブームは1980年代頃で、計算機としての機能を超え、様々な情報処理に利用されるようになりました。MITのマービン・ミンスキーによる積み木ロボットや、イライザ(「マイ・フェア・レディ」を参考に言語処理を行うプログラム)などが初期のAIの例として挙げられています。2番目のブームは1990年代頃で、ニューラルネットワークを用いた文字認識などの研究が盛んに行われました。 そして、現在のブームは、ディープラーニング技術の進歩とインターネットの発展によって特徴付けられています。ディープラーニングは、過去のニューラルネットワーク技術の延長線上にあるものの、精緻化と効率化が進み、認識能力が飛躍的に向上しました。インターネットの発達により、大量のデータ収集が可能となり、AIモデルの学習が容易になった点が、過去のブームとの大きな違いとされています。CPUの高速化も、ディープラーニングの発展に大きく貢献している要素として挙げられています。

2. ディープラーニングの学習速度とフレーム問題

ディープラーニングの特徴として、学習速度が非常に速い点が強調されています。これは、人間や子供の学習速度をはるかに凌駕するものであり、世界中から大量のデータがリアルタイムで収集され、AIが自律的に学習を続ける点が大きなメリットとされています。 一方で、AIにおける重要な課題としてフレーム問題が取り上げられています。フレーム問題は、文脈を理解して発言や意味を確定できる能力に関する問題であり、従来の研究では解決不可能とされてきました。 講演者は、AIが単なるフィルタリング機能を超えた高度な処理能力を持つのか、そしてディープラーニングによってフレーム問題が解決できるのかどうかを疑問視しています。 さらに、東ロボくんの例が挙げられ、AIの能力と人間の能力の差、特に文脈理解能力の差異について考察されています。東ロボくんの不得手な点が、ある層の受験生の間違い方と類似しているという事実から、人間も必ずしもフレーム問題をクリアしているわけではないとの指摘がなされています。 AIの学習能力の高さは注目に値するものの、フレーム問題のような根本的な課題が依然として存在する点も、AI技術の現状を理解する上で重要であるとされています。

3. 技術革新の放棄という選択肢とAIの未来

このセクションでは、AI技術の進歩を続けることだけが唯一の選択肢ではないという視点が提示されています。 過去に例がないものの、小説などでは機械的進歩を放棄した世界が描かれており、AI技術の発展に対して、技術革新を放棄するという選択肢も現実的に存在する可能性が示唆されています。 狩猟採集社会が現在も存在しているという事実から、コンピュータ技術に依存しない文化が、2045年のシンギュラリティ後にも共存しうる可能性が論じられています。 シンギュラリティは線形的なものではなく、衝撃的な変化をもたらす可能性があり、その結果、技術革新を続けるグループと放棄するグループに分かれるというシナリオも考えられるとされています。 AI技術の未来像は不確定要素が多く、単純に技術進歩を続けるという考え方に固執するのではなく、様々な可能性を考慮する必要があることが強調されています。 サミュエル・バトラーの「エレホン」という、機械的進歩をやめた世界の小説が、技術革新放棄の可能性を示す例として挙げられています。

V.AIと未来社会の展望

将来、AI技術の発展を放棄する選択肢も存在する可能性が示唆されました。狩猟採集社会が現在も存在していることから、コンピュータ技術に依存しない社会形態が共存する可能性があることが論点となりました。シンギュラリティは線形的なものではなく、衝撃的な変化をもたらす可能性があり、その結果、人間とAI、そして新たな生命体との関係性が大きく変わる可能性が示唆されました。AIが環境の一部となり、人間との関わり方が変化していくという展望も提示されました。 レイ・カーツワイルの著書『The Singularity is Near』の内容も参照されました。重要な人物として、新井紀子氏(東ロボくん研究)、坂村健氏(オグメンテッドエンバイロメント研究)などが言及されました。

1. シンギュラリティと技術革新の速度

このセクションでは、レイ・カーツワイルの提唱するシンギュラリティ(技術的特異点)と、2045年問題について議論されています。 資料では、生物進化と人間の技術革新の進化係数、そしてコンピューター技術革新の係数を比較し、後者の方がはるかに大きいことが示されています。 レイ・カーツワイルの「The Singularity is Near」の理論に基づき、2045年にシンギュラリティが起こると予測されていますが、その予測の妥当性や、シンギュラリティ後の社会の姿については、様々な意見や懸念が示唆されています。 コンピュータ技術革新の速度がムーアの法則よりも速いペースで進歩するという指摘もされており、技術進歩の加速度的な速度が、社会に与える影響の大きさが強調されています。 シンギュラリティは、単純な線形的な変化ではなく、衝撃的な変化をもたらす可能性があり、社会の分岐点となる可能性が示唆されています。異なる考えを持つ人々が、明確に分かれて独自の道を歩む可能性も指摘されています。

2. 技術革新の放棄という選択肢 歴史的 社会学的視点

AI技術の急速な発展に対し、技術革新を放棄するという選択肢の可能性が論じられています。 歴史的に、ラッダイト運動のように技術進歩に反対する動きは存在しましたが、成功した例はありません。しかし、サミュエル・バトラーの小説「エレホン」のように、機械的進歩をやめた世界を描いた作品も存在しており、技術革新の放棄という選択肢が、必ずしも非現実的ではないことが示唆されています。 現在も存在する狩猟採集民の例が挙げられ、コンピュータ技術に依存しない文化が、現代社会と並存していることが指摘されています。 このことから、2045年にシンギュラリティが到来した場合、コンピュータ技術を放棄して、新たな生活圏を築く人々も存在する可能性が示唆されています。 そうなると、人間対コンピューターという単純な二項対立構造ではなく、人間とコンピューター、そして両者の融合体といった、より複雑な関係性が生まれる可能性が考えられます。

3. AIと未来社会 共存の可能性と新たな関係性

このセクションでは、AIが未来社会においてどのように存在し、人間とどのように関わっていくのかという展望が提示されています。 AIは、人間と対峙する主体としてではなく、生活環境の一部として存在していく可能性が指摘されています。 IoT(Internet of Things)の概念や、坂村健氏の提唱するオグメンテッドエンバイロメント(強化された環境)といった概念が、AIが環境の一部となるという考え方を裏付けるものとして挙げられています。 AI技術が医療分野に浸透する例として、AIを用いたがん検診が挙げられており、AIが既に私たちの生活に密接に関わっている現状が示されています。 将来的には、AI技術が私たちの生活にますます深く組み込まれ、人間とAIの関わり方が根本的に変化していくことが予想されています。この変化は、政治、経済、社会生活のあらゆる側面に影響を及ぼす可能性があると結論付けられています。