
KinectジェスチャーUI操作性向上
文書情報
著者 | 阿部 一仁 |
instructor | 渡辺 大地 講師 |
学校 | メディア学部 |
専攻 | メディア学部 |
文書タイプ | 卒業論文 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 1.89 MB |
概要
I.Kinectを用いたポインティング操作における課題とジェスチャーによる改善提案
本研究は、Kinectを用いた体感型デバイスにおけるユーザインターフェースの操作性向上を目指したものです。従来のKinectを用いたポインティング操作では、カーソルを項目に合わせた時間の長さで選択と決定、確定を判断していました。しかし、この時間しきい値の設定が難しく、長すぎると待ち時間が長く、短すぎると誤操作につながるという問題がありました。そこで、本研究では、ポインティング操作に加え、ジェスチャー(具体的には腰を叩く動作)を決定操作として導入することで、ユーザーが確定のタイミングを自由に制御できる新しい操作方法を提案しました。これにより、選択から確定までの時間を短縮し、操作性の向上を目指します。
1. Kinectを用いた従来のポインティング操作の課題
本論文では、Kinectを用いたユーザーインターフェースにおける操作性の問題点を分析しています。Kinectはセンサーの映像から人の骨格情報を認識し、動きを取得するデバイスですが、従来のコントローラーのようなON/OFFスイッチがないため、操作方法に工夫が必要です。既存の方法は、カーソルを項目に当てた時間の長さをしきい値として、項目の選択と確定を判断するものでした。しかし、この時間しきい値の設定に大きな課題がありました。しきい値を長く設定すると、決定までに長い待ち時間が発生し、ユーザーエクスペリエンスを低下させます。逆に、しきい値を短くすると、ユーザーが迷っている最中にカーソルが止まってしまい、意図しない項目が選択されてしまうという問題が発生します。このため、既存の手法では、選択項目の内容に応じてしきい値を都度変更する必要があり、操作性が非常に悪いという結論に至っています。この時間による確定方法は、ユーザーが決定のタイミングを制御できず、決定と確定の間に時間的なずれが生じるという問題を抱えているため、改善が求められていました。日経エレクトロニクス誌の「Kinect に見るジェスチャー入力の可能性」[12] や、Hongli Laiらの論文「Using Commodity Visual Gesture Recognition Technology to Replace or to Augment Touch Interfaces」[13]も、Kinectの操作性の向上に課題があると指摘しています。
2. ジェスチャーを用いた操作方法の提案
上記の従来方法の課題を解決するため、本研究では、ポインティング操作にジェスチャーを組み合わせた新しい操作方法を提案しています。具体的には、片手でカーソルを操作し、もう一方の手でジェスチャーを行うことで、項目の確定を行うというものです。ジェスチャーは、ユーザーが決定のタイミングを自ら制御できるため、時間しきい値による待ち時間や誤操作の問題を解決できると考えられています。これにより、決定と確定のタイミングのずれを解消し、操作時間を短縮することが期待できます。本研究では、腰を叩くジェスチャーを確定操作として採用しました。これは、同じ手で選択から確定まで行う従来の操作方法と比較して、直感的で分かりやすい操作方法であると判断したためです。ただし、片手のみで操作を行うと操作が制限されるため、両手を使った操作方法を採用することで、その制約を克服する事を試みています。このジェスチャーを用いた操作は、Kinectのようなコントローラーを必要としない操作方法として、医療、アート、障がい者支援など、様々な分野への応用が期待されており、そのユーザビリティ向上のための研究は重要です。
II.提案手法 ジェスチャーによる確定操作の実装
提案手法では、片手でポインティングによるカーソル操作を行い、もう片方の手で腰を叩くジェスチャーによって項目を確定します。Kinectの深度センサーと可視光カメラを用いて、手の位置と動き、腰を叩く動作を検知し、ジェスチャー認識を行います。具体的な認識方法は、手と腰の距離、手の速度、叩いた後のポーズの角度などを分析することで実現しています。この手法は、ユーザーが確定のタイミングを直接指示できるため、従来の時間ベースの方法に比べて、操作性が向上すると期待されます。既存のゲームでは、カーソルを項目に合わ続ける時間を1〜2秒で確定を行っていましたが、本研究ではその遅延を解消することを目指しています。
1. ジェスチャー認識に基づく確定操作の実装
本研究で提案するシステムは、Kinectを用いた体感型インターフェースにおいて、ポインティング操作に加え、ジェスチャーを導入することで項目の確定を行うものです。具体的には、片手でポインティング操作を行い、もう一方の手で腰を叩くジェスチャーを行うことで、項目の確定を指示します。Kinectの深度センサーと可視光カメラを用いて、ユーザーの手の位置と動き、そして腰を叩く動作を三次元的に捉え、ジェスチャーを認識します。ジェスチャー認識の精度は、手と腰の距離、手の移動速度、叩いた後のポーズの角度といった複数の要素を総合的に分析することで高められています。例えば、腰を叩く動作の前には、手と腰の間にある程度の距離が空くため、この距離の変化を検知することで叩く動作の開始を認識しています。また、叩く動作中の手の速度や、叩いた後のポーズにおける腕と腰の角度を分析することで、誤認識を最小限に抑え、正確なジェスチャー認識を実現しています。Kinectが取得する20箇所の関節情報(頭、首、肩、肘、手首、手、骨盤、膝、足首、足など)が、このジェスチャー認識に活用されています。これらの技術により、ユーザーは従来の時間ベースの操作に比べて、より自然で直感的な方法で項目の確定を行うことができます。
2. カーソル認識方法の詳細
提案システムにおけるカーソル認識は、Kinectが取得した20箇所の関節情報、特に手のx軸とy軸の三次元位置情報に基づいて行われます。取得された座標はメートル単位ですが、画面表示のためにピクセル単位に変換して使用されています。Kinect SDKでは、Kinect本体を基準とした三次元座標系が用いられており、横方向がx軸、縦方向がy軸、奥行き方向がz軸として定義されています。この座標系を用いて、ユーザーの手の動きを正確に捉え、画面上のカーソルをリアルタイムで制御します。Kinectは可視光カメラと深度センサーの両方を使用することで、正確な三次元位置情報を取得することができます。これは、従来の画像処理によるジェスチャー認識に比べて、手袋や顔の隠蔽といった外的要因に影響を受けにくく、より安定した認識を実現する上で重要な要素となっています。本研究では、この正確な三次元位置情報に基づいてカーソルを制御することで、ユーザーにとってより直感的で容易な操作を実現することを目指しています。このカーソル認識の精度は、システム全体の操作性と直接的に関連しており、スムーズな操作体験を保証する上で極めて重要です。
3. ジェスチャー認識方法の詳細 腰を叩くジェスチャーの認識
本システムでは、腰を叩くジェスチャーを確定操作として採用しています。このジェスチャーの認識は、叩く前のポーズ、叩く動作、叩いた後のポーズの3段階で構成されています。叩く前のポーズは、手と腰の距離が30cm以上離れた状態を認識することで判断します。叩く動作中は、0.1秒前の手と腰の距離との差から速度を算出し、30cm/s以上の速度で手が腰に近づいていることを確認します。最後に、叩いた後のポーズは、手と腰の距離が15cm以内であり、かつ腰、肩、肘の3点からなる三角形と、叩く前の同様の三角形との角度差が30度以内の状態を認識することで判断します。これらの複数の条件を満たした場合にのみ、ジェスチャーが正しく認識されたと判断されます。この多段階の認識プロセスによって、誤認識を減らし、操作の信頼性を高めています。既存のハンドジェスチャー認識技術は、映像情報のみを用いるため、手袋の着用や顔の隠蔽などで認識率が低下する問題がありましたが、Kinectの深度センサーを用いることで、そのような外的要因の影響を受けにくい、よりロバストなジェスチャー認識を実現しています。
III.従来手法との比較検証 実験結果と考察
提案手法と従来のポインティング操作(時間しきい値による確定)を比較検証するため、3種類の操作テスト(指定された項目の選択、簡単な説明のある項目の選択、大小異なる項目の選択)を実施しました。21名の被験者に対し、各操作方法でテストを行い、選択から確定までの時間を計測しました。その結果、提案手法は全てのテストにおいて従来手法よりも操作時間が短縮されました。特に、「指定された項目を選択する操作テスト」と「大小異なる項目を選択する操作テスト」においては、t検定を用いた統計的分析により、有意な差があることが確認されました。簡単な説明のある項目を選択する操作テストでは有意差は認められませんでしたが、これは従来手法の問題点(時間による遅延)が顕著に現れる状況であったためと推察されます。本研究の結果は、提案手法が特定の状況下でKinectを用いた操作性を向上させる可能性を示唆しています。
1. 実験内容と参加者
本研究では、提案手法と従来の手法の操作時間を比較検証するため、3種類の操作テストを実施しました。テスト内容は、(1)指定された項目を選択する操作、(2)簡単な説明のある項目を選択する操作、(3)大小異なるサイズの項目を選択する操作、の3種類です。これらのテストを通して、ジェスチャーによる確定操作が操作時間や操作のしやすさにどのような影響を与えるかを検証することを目的としています。実験には21名の参加者が協力し、それぞれ提案手法と従来手法の両方を用いて操作テストを行いました。参加者を、従来手法を先に試行するグループと、提案手法を先に試行するグループの2グループに分け、操作順序による学習効果の影響を最小限に抑える工夫がされています。また、テストの信頼性を高めるため、各参加者に対して2回ずつ操作テストを実施し、1回目と2回目の結果を比較することで、学習効果による操作時間短縮の影響を分析しています。実験環境は、Kinectの認識精度を上げるため、人の動きを妨げない広い空間を用意し、光の反射が少ない服装を参加者に着用してもらいました。PC環境は、表3.1に記載されているものと統一することで実験条件を厳密に管理しました。
2. 実験結果 操作時間と統計的分析
実験の結果、提案手法は従来手法と比べて、全ての操作テストにおいて操作時間が短縮される傾向を示しました。しかし、単純な平均値の比較だけでは、計測誤差による偶然の一致の可能性を完全に否定できないため、統計的な手法を用いて検証を行いました。具体的には、t検定を用いて、提案手法と従来手法の操作時間間に有意差があるかどうかを調べました。t検定の結果、1回目と2回目の両方の実験において、「指定された項目を選択する操作テスト」と「大小異なる項目を選択する操作テスト」では、提案手法と従来手法間に有意な差が認められました(p<0.05)。これは、提案手法がこれらのテストにおいて、従来手法よりも有意に操作時間を短縮できることを示しています。一方、「簡単な説明のある項目を選択する操作テスト」では有意差は認められませんでした。これは、項目選択に時間がかかる状況では、従来手法の時間による確定方法の問題点が顕著に現れず、提案手法の優位性が明確に現れなかった可能性が考えられます。実験データは、本論文の付録に詳細に掲載されています。
3. 考察 結果の解釈と今後の展望
実験結果から、提案手法は、特に項目の選択に迷う要素が少ない状況において、従来手法に比べて操作時間を有意に短縮できることが明らかになりました。これは、提案手法がユーザーに決定のタイミングを直接制御させることで、従来手法における決定と確定のタイミングのずれを解消しているためと考えられます。しかしながら、「簡単な説明のある項目を選択する操作テスト」において有意差が認められなかった点は、今後の課題として検討が必要です。このテストでは、ユーザーが説明文を読み、項目を選択するのに時間がかかるため、従来手法の時間ベースの確定方法の問題点が顕著に現れなかった可能性があります。つまり、ユーザーの判断に時間がかかる状況では、提案手法の優位性が従来手法に対して必ずしも明確に現れるとは限らないことを示唆しています。今後の研究では、より複雑な状況下での検証や、ジェスチャーの種類や認識精度向上によるさらなる操作性向上を目指していく必要があります。また、様々なユーザー層を対象とした検証を行うことで、本手法の汎用性をより明確にすることも重要です。
IV.まとめ Kinectとジェスチャーによるインタフェースの未来
本研究では、Kinectを用いたポインティング操作における決定と確定のタイミングずれという問題点を、腰を叩くジェスチャーの導入によって解決する新しい操作方法を提案しました。実験結果から、提案手法は従来の方法に比べて操作時間を短縮し、操作性を向上させることが示されました。特に、項目の選択に迷う可能性が少ない状況では、その効果が顕著に表れました。この研究成果は、より直感的で効率的なKinectベースのユーザインターフェース設計に貢献するものです。今後、より多様なジェスチャーや状況への対応を検討することで、様々なアプリケーションへの応用が期待されます。
1. 提案手法の有効性と限界
本研究では、Kinectを用いたポインティング操作に腰を叩くジェスチャーを組み合わせることで、操作時間を短縮する新しいインタフェースを提案しました。実験結果では、提案手法は従来の時間ベースの確定方法と比較して、全てのテストケースにおいて操作時間を短縮するという結果が得られました。特に、「指定された項目を選択する操作」と「大小異なるサイズの項目を選択する操作」では、統計的有意差が認められ、提案手法の有効性が示されました。しかし、「簡単な説明のある項目を選択する操作」では有意差は認められませんでした。これは、ユーザーが項目選択に時間を要する状況では、従来手法の時間による遅延の影響が小さくなり、提案手法のメリットが明確に現れなかったためだと考えられます。この結果は、提案手法が全ての状況で従来手法を凌駕するわけではないことを示唆しており、適用可能な状況を明確にする必要があります。つまり、提案手法は、ユーザーの判断に時間がかからない、明確な選択が求められる状況において、特に有効であると言えるでしょう。
2. 今後の研究方向
本研究で得られた成果は、Kinectを用いたジェスチャーインタフェースの設計に重要な示唆を与えます。特に、ユーザーが確定のタイミングを自ら制御できるという点は、従来の時間ベースの方法に比べて、操作性を向上させる上で大きなメリットとなります。しかしながら、全てのテストケースで有意な改善が認められたわけではありません。今後は、より複雑な操作や、多様なユーザー層を対象とした実験を行うことで、提案手法の適用範囲や限界をより詳細に明らかにする必要があります。また、ジェスチャー認識の精度向上や、より多様なジェスチャーの導入も今後の研究課題として挙げられます。例えば、異なるジェスチャーを様々な操作に割り当てることで、より複雑で多様な操作に対応できるインタフェースの開発が期待されます。さらに、本研究で開発したシステムを様々なアプリケーションに適用し、実用性を検証することも重要です。これらの研究を通して、Kinectとジェスチャーを組み合わせた、より直感的で効率的なユーザーインターフェースの実現を目指していきます。
文書参照
- Xbox useful to surgeons (Sunnybrook News and Media Hospital News)