
SIP評価結果:革新的技術11課題の成果
文書情報
著者 | 総合科学技術・イノベーション会議 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)ガバニングボード |
文書タイプ | 評価報告書 |
言語 | Japanese |
フォーマット | |
サイズ | 658.03 KB |
概要
I.戦略的イノベーション創造プログラム SIP の概要
本資料は、内閣府主導の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に関する評価結果をまとめたものです。SIPは、日本再興戦略及び科学技術イノベーション総合戦略に基づき、科学技術イノベーションの推進、特に実用化・事業化を目指した官民連携による研究開発プログラムです。エネルギー、次世代インフラ、地域資源など複数の分野を対象とし、産学連携による研究開発を推進しています。評価は、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員と外部有識者からなるガバニングボードによって実施され、特に本年度はユーザ産業の有識者を多く含む点が特徴です。各研究開発課題は、明確な数値目標と工程表に基づき進められています。
1. SIPの評価体制と実施
SIPの評価は、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員と外部有識者からなるガバニングボードによって実施されています。平成26年度評価に続き、今回も様々な分野から公正・中立な有識者が参加し、特に本年度は実用化・事業化の観点から、ユーザ産業の有識者を重点的に招へいした点が大きな特徴です。この評価体制は、SIPの制度設計等に関して当初から審議を行ってきたガバニングボードの継続的な活動の上に成り立っており、多様な視点からの評価を確保することで、プログラムの質を高める上で極めて意義深いものとなっています。内閣府が事務局を務め、関係府省や専門家からなる推進委員会は、関係府省間の調整等を行う役割を担っています。推進委員会による調整機能は、多様な関係機関が関与するSIPにおいて円滑な研究開発の推進に不可欠な要素です。これらの組織的な枠組みによって、SIPは、日本再興戦略や科学技術イノベーション総合戦略に基づき、総合科学技術・イノベーション会議の司令塔機能の下、基礎研究から実用化・事業化までを見据えた研究開発を推進しています。
2. SIPの開始と研究開発分野
SIPは、平成26年度にエネルギー、次世代インフラ、地域資源の3分野、10課題からスタートしました。その後、平成27年度には「重要インフラ等におけるサイバーセキュリティの確保」が次世代インフラ分野に新規課題として追加されました。これらの研究開発計画の概要は別添資料に記載されています。SIPは、日本再興戦略(平成25年6月14日閣議決定)と科学技術イノベーション総合戦略(平成25年6月7日閣議決定)に基づいて創設され、府省の枠を超えた連携の下、イノベーションの実現を目指しています。研究開発においては、チーム毎に明確な数値目標と工程表が設定されており、概ね計画通りに達成されている課題も多いと評価されています。目標達成によるインパクトは、産業競争力の向上に大きく貢献すると期待されています。 SIPは、規制・制度改革、特区、政府調達、標準化といった施策も活用し、研究開発の促進を図っています。これらの施策の活用は、研究成果の実用化・事業化を加速させる上で重要な役割を果たすと考えられています。
3. 研究開発の進捗管理と目標達成
SIPでは、各研究開発チームに明確な数値目標が設定され、工程表に基づいた進捗管理が行われています。多くのチームが計画通りに目標を達成しており、その成果は産業競争力向上に大きく貢献すると期待されています。具体例として、実燃焼解析・設計に有効なソフトウェアの開発や、産学連携によるオープンラボの開設などが評価されています。これらの取り組みは、研究開発の効率化だけでなく、人材育成や新たなイノベーション創出にもつながると期待されています。 しかしながら、全てのテーマが順調に進んでいるわけではありません。特に、TRL(Technology Readiness Level)3以下のテーマについては、SIP終了後の見通しが不明確である点が課題として挙げられています。これは、研究開発の出口戦略をより明確化し、SIP終了後も研究成果が継続的に活用される仕組みを構築する必要があることを示唆しています。
II.SIPにおける各研究開発テーマの成果と課題
SIPでは、燃焼技術の高度化による熱効率向上(CO2削減目標:2011年比30%)、パワーエレクトロニクスにおける次世代材料(SiC、GaN)を用いた省エネルギー化、革新的材料開発による航空機産業の国際競争力強化、効率的な海洋資源調査技術の開発、インフラ維持管理システムの高度化、自然災害へのレジリエンス強化、農業におけるスマート化と新規機能性農作物の開発、地域産業活性化を目指したものづくり技術の革新など、多様なテーマが取り組まれています。各テーマにおいては、目標達成に向けた進捗状況、課題、改善点などが詳細に評価されています。 特に、自動走行技術におけるサイバーセキュリティ対策の強化や、水素エネルギー導入に向けた経済性評価、ゲノム編集技術の社会受容性の確保などが重要課題として挙げられています。
1. 燃焼技術の高度化
エネルギー輸入国である日本において、石油や天然ガスなどのエネルギー資源の変換効率向上は喫緊の課題です。燃焼技術は、これらの資源を社会に役立つエネルギーに変換する上で非常に重要な役割を担っています。世界の潮流として産学連携による協調研究が盛んに行われており、開発の迅速化や人材育成に貢献していますが、日本では産業界や大学が個別に研究を進めている現状があり、国際競争力の低下が懸念されています。本プログラムでは、自動車用内燃機関の熱効率を50%以上に飛躍的に向上させることを目標に、産官学連携による基盤研究体制を構築し、CO2を2011年比で30%削減するための基盤技術開発を目指しています。 具体的には、プログラムディレクター(PD)が産業界のニーズに基づいた研究開発計画を策定し、研究体制の構築と推進を担います。内閣府を事務局とし、関係省庁や専門家からなる推進委員会が総合調整を行う体制です。国立研究開発法人科学技術振興機構が交付金を活用し、マネジメント力を最大限に発揮することで、効率的な研究開発の推進を図ります。大学中心の開発拠点(オープンラボ)4カ所の短期間での設立は高く評価されていますが、優秀な学生の確保が課題となっており、燃焼分野の重要性を社会にアピールする必要性が指摘されています。
2. パワーエレクトロニクスの省エネルギー化
省エネルギー化に不可欠なパワーエレクトロニクスは、世界市場における成長が大きく期待されており、日本の産業競争力にとって重要な分野です。日本企業は高性能製品分野で高いシェアを有していますが、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)といった次世代材料では欧米企業が先行しており、開発競争は激化しています。本プロジェクトは、次世代材料を中心にパワーエレクトロニクスの性能向上、用途拡大、普及促進を図り、省エネルギー化と産業競争力の強化を目指しています。研究開発計画の策定と推進はプログラムディレクター(PD)が担い、関係機関による研究開発拠点が設置され、ウエハ、デバイス等の階層相互のフィードバックによる効率的な研究開発と人材育成が目指されています。10~15年後の実用化を目指し、産学の知恵を結集する研究開発項目も含まれています。日米欧での開発競争の激しさから、産業上の競争優位性を確立するためには、早急な技術的優位性の確立が不可欠であり、国家プロジェクトとしての取り組みが必要だとされています。
3. 航空機産業における材料技術開発
日本の輸出産業を支える工業素材の国際競争力強化は、我が国全体の競争力維持に直結する重要な課題です。エネルギー問題への対応として、省エネルギー化と排出ガス削減も求められています。本課題では、強く、軽く、熱に強い革新的材料を開発し、輸送機器や発電産業機器への実機適用、エネルギー転換・利用効率向上を実現することを目指しています。さらに、航空機産業の育成・拡大を図り、2030年までに部素材の出荷額を1兆円にするという野心的な目標を掲げています。サプライヤーからパートナーへの転換、特に材料分野での技術力向上が重要視されており、出口戦略は明確ですが、開発製品の安定生産体制構築が今後の課題として挙げられています。メンテナンス性や寿命評価法も考慮した材料開発が求められ、開発ステージの加速も重要なポイントです。TRL4以上のテーマは実用化への見通しが比較的良好ですが、TRL3以下のテーマはSIP終了後の見通しが不透明なため、更なる検討が必要です。
4. 海洋資源調査技術の開発
日本は広大な管轄海域を有し、海洋鉱物資源の存在が確認されていますが、広大な面積を効率的に調査する技術は開発途上です。高効率の海洋資源調査技術の確立は、海洋資源開発、環境保全、資源安全保障の観点から重要であり、海洋資源調査産業の創出を目指しています。2030年の目標として、現在の鉱物探査費用の10~20%(1.7兆円の10~20%)を海洋資源探査に充てることを目指していますが、世界の経済状況の変化を考慮し、目標設定の見直しや、将来の経済状況を考慮した条件設定の必要性が指摘されています。また、成因モデルを用いた探査手法の有効性検証、採掘技術の進展を踏まえた産業化の具体的構想、調査事業の設立・運営計画の充実、開発したコンポーネント(AUVや音響カメラ)のグローバルビジネス化戦略策定、JOGMECとの連携強化、海洋資源調査開発の経済性に関する更なる検討が不可欠です。
5. 自動走行システムのサイバーセキュリティ確保
自動走行システムの普及拡大に伴い、サイバーセキュリティ対策の重要性が増しています。なりすまし対策が特に重要であり、SIPサイバーセキュリティとの連携強化が求められています。自動走行システムだけでなく、運転者の不注意や道路状況の把握による事故回避システムの開発も重要視され、既存の安全走行技術の向上も期待されています。目標設定は多段階で行うことが有効だと考えられています。地域特性への考慮、重要事項の絞り込み、安全性の確認、国交省や地方自治体との連携強化、災害への対応の優先順位付け、ユーザ産業界との連携強化などが、今後の改善点として挙げられています。
6. 次世代機能性農林水産物の開発
農林水産業は、地域経済や食料安定供給、国土保全に重要な役割を担いますが、高齢化や担い手不足といった課題に直面しています。食料問題の解決は世界共通の課題であり、ライフスタイルの変化や食市場の拡大は、農林水産業の変革とアグリイノベーション実現のチャンスとなっています。本プログラムは、府省連携により、農業のスマート化、画期的な商品の提供、新たな機能・価値の創造という3つの技術革新を実現することを目指しています。これらの技術革新により、新規就農者の増大、農業・農村全体の所得増大、農山漁村の維持・発展、国民生活の質向上を目指しています。海外市場も視野に入れたビジネスモデル構築、ゲノム編集技術の社会受容性に関する議論の明確化、生活習慣病対策などへの取り組み強化などが課題として挙げられています。地域産業の活性化に向けた出口戦略の明確化も重要です。地方大学を中核とした拠点形成においては、その継続性確保のため、公的な組織の役割が重要になります。
7. 地域発イノベーションによるものづくり産業の競争力強化
日本のものづくり産業の国際競争力強化を目指し、地域企業や個人が持つアイデアや技術・ノウハウを活用した新たなものづくりスタイルの確立が目指されています。設計や生産・製造に関する革新的技術開発により、高付加価値製品の迅速な設計・製造、異なる領域のプレーヤーを繋ぐ拠点(ネットワーク)形成、地域発イノベーションによる新たな市場創出が目標です。革新的生産・製造技術の開発、地域企業や大学との連携による拠点形成が重要ですが、「デライトものづくり拠点」の機能、ガバナンス、主体が不明確な点や、テーマA(デライト設計)の成果が見えない点が課題として指摘されています。テーマB(造形技術)は一定の成果が得られていますが、全体としては達成状況が不十分であり、投資対効果の向上が求められています。
III.SIPの推進体制と評価
SIPは、プログラム・ディレクター(PD)を筆頭に、内閣府を事務局とする推進委員会によって総合調整が行われています。各テーマには、国立研究開発法人などが研究開発拠点を設置し、研究開発を推進しています。評価においては、**TRL (Technology Readiness Level)**を用いた開発段階の評価、経済波及効果の試算、知財権管理、政策との連携などが重要な要素となっています。また、関係府省間の連携強化、産学官連携の促進、地方創生への貢献なども重要な課題として指摘されています。 海洋研究開発機構、農業・食料産業技術総合研究機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構など、関係機関が研究開発・管理に大きく関わっています。
1. SIPの推進体制
SIPは、内閣府を事務局とし、関係府省や専門家等からなる推進委員会によって総合調整が行われています。推進委員会は、関係府省間の調整など、多様な関係機関が関与するSIPにおいて円滑な研究開発の推進に不可欠な役割を担っています。各研究テーマには、プログラム・ディレクター(PD)が配置され、研究開発計画の策定と推進を担います。PDは、それぞれの専門分野における高い知見とリーダーシップを発揮し、研究開発の進捗管理や課題解決に重要な役割を果たしています。また、国立研究開発法人科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構、海洋研究開発機構、農業・食料産業技術総合研究機構など、関係機関が研究開発・管理に大きく関わっています。これらの機関は、それぞれの専門性とマネジメント能力を活かし、研究開発の効率化や成果の最大化に貢献しています。公募により最適な研究主体を選定し、大学、独法、企業などから構成される研究チームを組織することで、多様な知見と能力を結集した研究開発体制が構築されています。これらの機関の連携とPDのリーダーシップにより、SIPは効率的に運営され、目標達成を目指しています。
2. ガバニングボードによる評価
SIPの評価は、総合科学技術・イノベーション会議有識者議員を構成員とするガバニングボードによって実施されています。ガバニングボードは、外部有識者も招へいし、多角的な視点からの評価を行っています。平成26年度評価に続き、今回も様々な分野から公正・中立な有識者が参加し、特に本年度は実用化・事業化の観点から、ユーザ産業の有識者を重点的に招へいしました。これは、研究成果の社会実装を促進する上で非常に重要な要素です。ガバニングボードは、SIPの基本方針、各課題の研究開発計画、予算配分、フォローアップ等について審議・検討を行い、プログラムの進捗状況や課題を詳細に評価することで、SIPの改善に繋がる貴重なフィードバックを提供します。必要に応じて構成員以外の者も出席させるなど、柔軟な対応も可能です。この評価体制は、SIPの制度設計等に関して当初から審議を行ってきたガバニングボードの継続的な活動の上に成り立っており、プログラムの質を高める上で極めて意義深いものとなっています。
3. 評価項目と基準 知財権管理
SIPの評価項目・基準には、内閣府による予算計上、総合科学技術・イノベーション会議による課題設定、PD選定、機動的な予算配分、PDによる研究開発推進、管理法人による予算執行手続きなどが含まれます。これらの制度設計が、関係府省間の連携や関係府省の施策、産学の研究活動・事業活動にどのような影響を与えたか、また、SIPの制度に改善すべき点がないかについても評価が行われます。 知財権に関しても、秘密保持、バックグラウンド知財権、フォアグラウンド知財権の扱いなど、予め委託先との契約で明確に定めています。プログラム終了後、原則として3年後には、必要に応じて追跡評価を行うことで、研究成果の長期的な影響や社会への貢献度を検証する仕組みが備わっています。 これらの評価体制と知財権管理の仕組みは、SIPが目指すイノベーションの実現と、その成果の社会への還元を確実なものにするための重要な基盤となっています。特に、TRL(Technology Readiness Level)を用いた開発段階の評価は、研究開発の進捗状況を客観的に把握し、必要に応じて戦略を修正するために有効な手段です。